第013話 夢ですよね!
宗徳は初日から日が暮れる頃まで作業に没頭した。
『家作り』とは言ったが、目指すのは町のシンボルになる建物だ。
作業に入る前、宗徳と寿子はもう一つ魔術を教わった。それは、分離させる魔術だ。
「最初にお前達がやった魔術を分類するとすれば分解だ。これはイメージだけで問題ない。同じ要領で、今度は余分な部分を取り出すイメージだ」
善治はそう説明しながら、ポケットからハンカチを取り出し、近くにあった水場に近づいていく。そして、そこから水を汲むと、おもむろにそのハンカチを濡らした。
「例えば、この濡れた手ぬっ……んんっ、ハンカチ。これから水分を抜く……」
そうして見せたのは、水をハンカチから分離させる魔術だ。左手で摘んで持ち、右手でハンカチに触れる。その手をゆっくり離すと、そこに水の玉が出来上がっていった。
ハンカチに付いていた水が右の手の平から数センチ離れた所に吸い寄せられていくのだ。
「おおっ、手拭いから水がっ! 水が玉にっ! 宇宙だ! 宇宙空間で見るアレだ!」
「あっ、浮いた汚れも水の方にっ!? これならお洗濯があっという間だわっ」
「……お前達……落ち着け……」
見た目も若くなっているので、二人はまるでものを知らない若者のようだ。
「これも想像するだけで良いなら出来そうだっ。そうかっ、なら切った木を……」
宗徳は閃いたと手を打つ。そう、木材はこの辺りには豊富だ。村の為にも、切り拓く必要があった。
この魔術を使えば、切ってすぐの水分を含んだ木もカラッとした芯のある上質な丸太になるのだ。
身体能力も人並み外れたと、言うのもおこがましいほど高く、本来ならばクレーンや人の手が多くいる所も、宗徳の二本の腕で事足りた。
だから、一番苦労したのは見た目とのギャップだ。こちらとあちらの感覚は違いすぎる。絶対に持ち上がらないだろうと思う丸太が軽いのだ。宗徳曰く、こちらでは丸太が太い枝程の重さでしかなく、大きな丸太も精々、野球のバットを数本束ねて持ったくらいだった。
そうして『魔術で簡単、家作り』として始めたそれは、半月とかからず出来上がった。
「ふっ……ふははははっ。出来たぁぁぁぁっ」
テンション高くそれを宣言する。内装だって手を抜かない完璧な仕上がりだ。
「うむ。良くやった!」
「へへんっ。どんなもんだいっ」
「これぞ男の夢だな」
「おう!」
善治も文句のない出来だと大きく満足気に頷く。最後の内装の方は善治に要望を事細かに聞きながら作り上げた。
普段はあまり熱くなる所を表に出さない善治も、かなり力が入っており、知らない内に張り切って作業に参加していたのだ。
善治はここで村人達を束ねる役目を負っている。村長とは違うが、何度か善治が『マスター』と呼ばれているのを聞いた。
時折、旅人や兵士らしき者達が村を訪れ、作業する宗徳の方をポカンと見ていたらしい。宗徳は夢中になっていたので、彼らと目を合わせる事もせず、善治が説明しているらしい声を聞いたくらいだった。
一方寿子も、森を切り拓きながら、宗徳が書いた設計図を元に木を加工し、部品を作って村人の家を作るのを手伝っていた。
教えてもらった魔術を使えば、寿子も難なく宗徳の書いた図通りの形に加工できる。それをまた宗徳直筆の説明書通りに組み立てれば良いのだ。
基礎の杭も、軽く気合いを入れて地面に刺せば、びっくりするほど簡単に深く突き刺さる。後は木を組んでいくだけの作業だ。寿子も身体能力は宗徳同様にあるので、クレーン車よりも素早く軽く持ち運んでいった。
達成感は今まで感じたこともない程の大きさで、笑いながら家を量産していた。
お陰で息子の徹が昔買って押入れの奥に入れたままになっていたプラモデルに興味が出てきたというのは秘密だ。
しかし、そんな寿子も、やはり宗徳が手がけたものは違うとそれを見上げて感心しきりだった。
「これは……もしかしたらとは思いましたけれど……よく作りましたね……これまでで一番あなたを尊敬しました……」
「え……あ、いや、今っ? ま……まぁ、いいか……」
完成したその建物は何と当初の予定の大きさを遥かに超え、五階建て。上へ行くほどに小さく狭くなっていく綺麗な山型。最初の設計図はどうしたとツッコまれても文句は言えない。
「瓦も作りたかったんだけどなぁ。そこまでこだわると、何ヶ月もかかりそうだしな。重さもあるし、まぁ、素人にはここまでで充分だ」
「そうだな。これはこれで良いと思うぞ。シンプルで素晴らしい。名前はそうだな……」
呼び名は決めていなかったなと善治が首をひねる。しかし、宗徳はニカッと笑って言った。
「そんなん決まってんだろ。ここの主は善じぃなんだから」
「そうですよ。師匠が主人なら、あれしかありません」
「ん?」
「何のためにあの天辺に『タツ』を置いたと思ってんだ」
一番上の屋根には、両端の天辺に一つずつ、大空を泳ぐような龍の彫刻がある。
「ええ。まさに『竜』が『守る』って感じです!」
「……まさか……」
宗徳と寿子は、懐かしさと万感の思いを込めて呼んだ。
「「『
「久し振りに聞いたな……」
「善じぃの苗字じゃんか」
「そうですよぉ。『竜守道場』って、知らない人がいないくらい有名でしたからねぇ。私達門下生も、とっても誇らしかったんですよっ?」
道場の裏には昔、竜の棲む池があったらしい。善治の苗字は、そこから来ているようだ。
「それにしても……見事な城になったな」
「内装は違ぇけどな。まぁ、四階と五階に、何とか畳も入れられたし、それっぽいだろ」
「あれは苦労したぞ……」
「やっぱし?」
善治が苦笑いを浮かべた理由はもちろん『畳』だ。宗徳は最初これを諦めていた。こちらの世界はいわば西洋風。
畳など存在しない。外観は日本にある城で間違いない。だが、中身はどう考えても西洋風にしかならなかった。
靴を脱がない文化だ。特にここは施設らしく、個人で使えるのは一部だけにしようと決めていた。最悪、善治や宗徳達だけ生活しやすい場所を一箇所作れれば問題ない。
だが、自分達だけで作っているのだ。色々と欲も湧く。業者を挟まなくてもいいのだから、好き勝手できたのだ。
「でもよぉ。畳の部屋が欲しいって言ったのは善じぃじゃんか」
「当然だ。ベッドを量産するより、雑魚寝が出来る方が良いだろう。有事の際には広く使える」
「まぁそうだけどよ……あの広さで雑魚寝って……何百人受け入れる気だよ……」
善治の要望により、四階は中央の廊下と階段を挟んで両側に二つ畳の大広間を作った。男女の部屋を分ける為だ。
その上、それぞれの部屋の奥には、露天風呂付きの浴場まで調子に乗って用意してしまった宗徳だった。
「さすがに人数制限必要だかんな?」
予想以上に人数の入れる施設になってしまったのだ。安全第一を信条にする宗徳は、少し心配していた。しかし、善治はあっさりこの問題を解決する。
「この構造でそうそう崩れるような事はないと思うが……そうだな。後々の不安の可能性は潰しておくべきか。ならば……」
そう呟いてから、善治は三歩前に出る。
「善じぃ?」
不審に思って、宗徳が声をかければ、少しだけ振り向いて善治が言った。
「見ていろ。これがお前達が覚えていく魔術だ」
「善じっ……!?」
直後、善治の足下に眩い光の紋様が現れたのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
先ずはお城が建ちました。
拠点は大事ですからね!
ではまた明日!
よろしくお願いします◎
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