第012話 初仕事……着工?
宗徳達が通ってきた祠があったのは、小高い丘の上だったらしい。
下り坂が見える頃、足を止める。その先にあったのは森に囲まれた小さな農村だった。
「そういえば、社訓を教えていなかったな」
「へ? あ、ああ……」
今なのかと、少し唐突ではあったが、聞いておく必要はあるだろうと、斜め前にいる善治の背中に注目する。
「一つ『干渉するならば最期までやれ』二つ『事を途中で投げるな』三つ『徹底的にやれ』の三つだ。三つに分ける必要がないように思えるが、そこは気にするな」
一つ目の最後の文字が『最期』と思えたのは、あり得ない色々を見てきたからだろうか。
「は、はぁ……何て言うのか……やっぱ、異世界には異世界の常識とかがあるから、俺はてっきりあまり干渉せずに、黒子よろしく影からサポート的な位置だと思ってたんだが……」
異世界の者だとバレないように、隠密行動が原則だと思っていたのだが、違うらしいと知り、少しばかり驚く。
「それが一番良いんだが……どうも上の方で、長年やってみて『無理』と結論が出たらしい」
「それって……」
その結論はどうなんだろうと思う。もちろん、宗徳達だけでなく、誰もが思うようだ。
「まぁ、上は行動力があり過ぎる方々ばかりだ。二つ三つは魔王の呼び名を持っているくらいだからな。はっきり言って、隠密行動など出来る方々ではない」
「……」
きっと派手に暴れまわった事があるのだろうと容易に想像できた。
「そんな方々の結論だ。仕方がない。だが、お陰でやり易い。世界によっては、受け入れられん知識もある。神も居るところは居るからな。ダメなものはダメだと分かる。何らかの警告が来るから、それは社の方でも確認できる。だから、やれるならばやれば良い。干渉出来るならばしろということになったらしい」
「それって、バチが当たらない限り、何してもOKって事か?」
「そういう事だ。大丈夫だ。当たる前に警告は来る」
「……そういう問題じゃ……」
もう無茶苦茶だ。
「それで、私達はここでどんな事をすれば良いのです?」
「おっ、そうだ。善じぃ。初仕事はなんだ? 今日は見学だけか?」
「いや……」
先ほどから善治は、下にある村を眺めている。この風景を楽しんでいるのかと思ったのだが、その横顔は厳しいものだった。
「どうしたんだ? 善じぃ」
「ああ……」
この顔は、どう指導したものかと悩んでいる時の顔だ。善治はその人に合った声掛けや指導法を提示する。だから、先ずはじっと観察するのだ。こんな時は静かに待つしかない。必ず良い答えを出してくれるのだから。
そうして、しばらく静かに宗徳と寿子は善治と同じように村を眺めた。
周りに喧騒はなく、村の音も聞こえては来ない。距離があるからかもしれない。よく目を凝らすと、村人達の多くが、木を切ったり、村を囲む塀らしきものを作っているようだ。
そして、他に数人は中央辺りの建物の残骸らしきものがある場所に集まっている。
「やはりまた崩れたか……よし、宗徳」
「ふぁいっ」
変な返事になってしまったのは、長閑な情景につられて欠伸が出たからだ。
宗徳は口を押さえながら、涙目で善治の言葉を待った。
「お前、建築の方にいなかったか?」
「あ、はい。そうですけど?」
「建てられるか?」
「はい? いやいや、建築士じゃねぇっすよ?」
「知識はあるだろう」
「勉強はまぁ……けど、資格を取るまではいってないんで……」
一体何をやらせようとしているのだろう。ここは安請け合いすべきではないと気をつける。
「別に全部やれと言うわけではない。建物の建設に関わった事があるだけで構わん。アレらは、小屋のような小さな家を作るくらいしか出来ないからな。知識が足りなさ過ぎる」
「アレらって……もしかして……」
善治が見えているもの。その視線の先には、建物の残骸。量からいって、大きさはそれなりにあったはずだ。
「魔術も教える。適正があるかは分からんが……イメージする力があれば、大抵何とかなる。試しに……そこにある丸太で椅子でも作ってみるか」
「これか? 釘とかどうすんだ……?」
「 組み木で何とかなるだろう」
「ま、まぁ……寺社とかもちょい関わったから……やってみるか……」
渋々という風ではあるが、宗徳は内心ワクワクしていた。ここにはノコギリもない。ということは、先程の話から予想するに、魔術で作るのだろう。どうやるのか気になって仕方がなかった。
善治はまず落ちていた枝を拾い上げる。
「指先まで集中する。技を繰り出す時と同じだ。それからイメージだ」
そう言って、善治は右手で持った枝に集中する。すると、パチっと音を鳴らして、枝は一瞬で割り箸になった。
「おおっ、マジでっ!? 割り箸じゃんっ!! マジックかっ!」
「魔術だ」
一気にテンションの上がった宗徳は、善治の手元にある割り箸を色んな角度から確認する。それに呆れながら善治は割り箸を差し出した。
「凄いっ。私にも出来ますかっ!?」
受け取った宗徳の元へ、寿子も駆け寄り、二人で子どものようにはしゃいだ。
善治は少し引き気味に離れた所で言う。
「やってみればいい。イメージだ。私達は様々な知識を持っている。魔術がない分、その想像力は他の世界の者達よりも大きい。だから、比較的容易く魔術が使える」
「へぇっ。よしっ。そんじゃっ」
宗徳も良さそうな枝を拾い上げる。そして、興奮で荒くなっていた呼吸を整える。技を仕掛けるような気合いを一気に指先に集め、割り箸を意識した。
パキっ。
「っ、でっ、できたぁぁぁぁっ」
いとも簡単に、それが出来てしまった。
その隣で寿子も美しく白い滑らかな割り箸を手にしていた。
「……出来ました……」
呆気にとられるくらいあっさりと、魔術を行使できてしまった。
「さすがだな。初歩の魔術とはいえ……一発で理解したのはお前達が初めてだ……」
善治は驚いていた。
「普通は集中するという感覚を覚えるのに三日は掛かるんだが……もしかしてお前達、鍛錬を今でも続けていたのか?」
「あ? 竹刀は振ってたぞ」
「健康の為に少々……」
「えっ、寿子っ。お前……まさか俺へのツッコミで鍛えて……」
「否定はしません」
「しろよ!」
「……お前達……」
どうやら、普段の生活で未だに素振りや型をなぞっていた事が良かったらしい。
お陰で、瞬時に集中するという事と、技を繰り出すイメージというのが身に染み付いていたようだ。
「本当に良い夫婦だな……」
善治は微妙な顔をして褒めた。
「それなら、その丸太を椅子の部品に変えてみろ」
「オッスっ」
気合いも十分に、宗徳は丸太に手を当てて集中する。頭には組み上がった時の椅子のイメージから、瞬時に部品のイメージに切り替える。そして、一気に両手で触れている木へ力を込める。
バキバキバキっ。
一瞬、青白い光の線が見えた。雷の放電のように、丸太を両端まで駆け抜ける。
そして、木の皮が剥がれ落ち、四角い椅子の部品ができあがった。
宗徳は、それぞれを組む細部までをイメージ出来ていたようで、パズルのように集中力を維持したまますぐに組み合わせ、数分後、小さな子ども用の椅子が出来上がった。
「できた……けど、この木の量じゃ、このサイズが限界だったか……ってか出来たよっ!!」
「凄いですよっ、あなたっ」
「おおっ。マジで椅子だっ! 俺スゲェっ」
「かわいいサイズですねっ。それも、ヤスリがけしたようにツルツルですよっ」
「おうっ。安全第一だからなっ」
スベスベとした滑らかな木は、寿子が作った割り箸を見ていたからかもしれない。ニスを塗れば普通に売り物として出せてしまうだろう。
「……いけるな……」
善治は確信を得た。
「よし。宗徳。家を建てろ。設計図はコレだ」
「おうっ」
宗徳は意気揚々と善次がどこかから取り出した紙を受け取る。
そして、何重にも折りたたまれた紙を広げて固まった。
「難しいだろうから、二階建てだ。ここに作る町のシンボルになるからな。しっかり励め」
「……」
「まぁ」
覗き込んだ寿子は素敵だと思い声を上げる。しかし、創る側は大変な大仕事になるだろうと衝撃を受けていた。
「初仕事。頑張れ」
善治が肩を叩く。
「こっ、これが初仕事……っ」
こうして、宗徳の異世界での初仕事が決定した。その名も『魔術で簡単、家作り』だ。
「……コレ……建てんの……?」
夢いっぱいの大きな二階建ての建物の完成は、意外と早いかもしれないとは、今はまだ全く予想もできない宗徳だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
ゲームやラノベでの魔術の知識のないおじいちゃん達でもできました。
そして着工です!
次話どうぞ!
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