12 最後の復讐へ3

「ま、待て! 待ってくれ、クロムくん!」


 ユーノはいきなりその場に平伏した。


 といっても、右腕は砕け、他の四肢にも力が入らない状態だから、うつ伏せに近い状態だが。

 とにかく、その姿勢で額を地面にこすりつけるユーノ。


「なんの真似だ、ユーノ」

「分かった、君は強い! 君の勝ちでいい! だから、ちょっと話をしないか?」

「『【闇】の化身たるクロム・ウォーカーを討つ』──じゃなかったのか、勇者様?」

「あ、あれは、その……す、すまない、僕が調子に乗っていたんだ! でも、僕と君の仲だろう? せめて話を聞いてくれないか?」


 どこまでも調子のいい奴だ。


 以前のユーノならば、こんなふうに命乞いをすることはなかっただろう。


 俺と一緒にいたころのあいつは──少なくとも『勇者』としての誇りだけは持っていたと思う。


 少しずつ変わり、歪んでいったのだとしても……。

 いや、歪んだ果てが今のこいつの姿なのか。


 今のユーノには誇りも何もない。


 助かりたい。

 死にたくない。

 欲望を果たしたい。

 あらゆるものを貪りたい。


 それしか伝わってこない。


 ──かつて親友だと思っていた男のなれの果て、か。


 もちろん、哀れだからといって許すつもりはない。

 許す理由もない。


「で、お前の話というのはなんだ?」

「クロムくん!」


 平伏した体勢から、ユーノが顔を上げた。

 表情が輝いている。


『話を聞く』と言ったから、俺がお前を許すとでも思ったのか?

 そんなわけがないだろう。


 ただ、そんな淡い希望を持たせたうえで──踏みにじるのも悪くはない。


 俺は口の端を歪め、笑った。


「言え」

「あ、ああ、もちろん」


 俺が促すと、ユーノは目を輝かせて語りだす。


「考えたんだ。【光】を極めた僕と【闇】を極めた君──二人が組めば無敵じゃないか」

「無敵?」


 眉をひそめる俺。


「だから、なんだ?」

「世界のどんな相手も敵じゃない。つまり──僕らは世界の支配者にだってなれる、ってことさ」

「世界の支配者……か」

「そうとも! 僕らに逆らう者はいない! 誰もが僕らを崇める! 世界中のあらゆる美女が僕らに群がってくる! もちろん富や栄誉も! 何もかもが思うがままだ!」


 随分と大それたことを言うもんだ。

 大方、俺の力が【闇】だから世界征服に興味を持つとでも思ったんだろう。


 そんなはずがないだろう。

 俺が興味を持つのは、お前の末路だけ。

 復讐を果たし、その末に絶望と苦痛を味わうであろうお前の姿だけ──。

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