10 最後の復讐へ1
「ち、近づくな──」
「もう、無駄だ」
奴の剣から放たれる輝きが、俺の黒い鱗粉によって消滅した。
今度は、ユーノが俺から遠ざかることはなかった。
そう、『奴のスキル効果』にダメージを与えたのだ。
そんなものにまでダメージ効果が及ぶのかは、さすがに分からなかったが。
【混沌】の術にさえも、俺の【闇】は届くようになったらしい。
さすがに多少の時間がかかったが──。
これで、スキルの力で【固定ダメージ】の効果範囲から逃れ続ける、という奴の戦術は使えなくなった。
後は効果範囲まで近づいて──詰みだ。
「そういえば、お前……イリーナからファラに鞍替えしたのか?」
近づきながら、俺はたずねた。
「うるさい! ファラだけじゃない。世界中の女は僕のものだ。唯一絶対の勇者である僕には、あらゆるものを手にし、征服し、むさぼり尽くす権利がある!」
「お前が本当になりたかった『勇者』はそれか──」
強烈な欲望は【光】のオーラとなり、目に見えるレベルでほとばしっている──。
「それくらいの見返りはあってもいいだろ? 勇者は、命を懸けて魔王軍と戦ってきたんだ。しかも、僕は魔王を打ち倒し、今回もその残党の首魁を討った。世界を二度も救ったんだぞ」
剣を振りかぶるユーノ。
「だから、僕はこんなところでは死ねない! これから最高に幸せな人生を謳歌するんだ!」
「残念だが、その願いは叶わない」
俺はさらに一歩を踏み出す。
視界の端に浮かぶ数字は『13』。
あと3メートルでスキルの射程内だ。
「お前を待つのは恐怖と絶望──最悪の未来だけだ」
「く、来るなぁぁぁぁぁぁっ、僕のところに来るんじゃない!」
ユーノが絶叫した。
聖剣を振り回し、虹色の斬撃波を乱射する。
そんなものが今の俺に通用するはずもないだろうに。
どうやら、相当混乱しているんだろう。
恐怖で判断力を失っているのか。
次々に飛んでくる斬撃波は、いずれも俺の10メートル圏内で消滅する。
「くそっ、だったら逃げるだけだ! 君の足の遅さで僕に追いつけるかな? 追いつけないよね!」
笑いながら駆け出すユーノ。
「確かに、追いつけないな」
俺は右腕を突き出し、そこから黒い鎖を飛ばした。
弧を描いて飛んでいく鎖の先端部がユーノの足に絡みつく。
「う、うわっ……!?」
無様に転倒するユーノ。
鎖で奴の動きを止め、さらに近づく。
視界の端に表示された数字が、ついに──『10』になった。
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