7 【闇】の復讐者VS【光】の勇者3

「お前の攻撃では俺を倒すことはできない。そのスキルも、ただの時間稼ぎにしかならない」

「ふふっ、そうだね」


 ユーノが笑っている。

 瞳に映る光は、強い意思を感じさせた。

 絶望や苦悩ではなく、希望を。


 勇者パーティの時代から付き合いも長いし、その表情だけで察した。


 時間稼ぎ──。

 奴の目的はそれだろう。


 時間さえ稼げば、何かを起こせると踏んでいるのか。


 だが、なんのために?

 俺に勝つ方法を用意しているのか?


 だとすれば、それは──。


「スキル【拒絶の神域】──範囲最大!」


 ふいにユーノが叫んだ。


「これは……!?」


 俺の周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。


「きゃあっ!?」


 同時にシアとユリンが大きく吹き飛ばされる。

 俺たちの距離は百メートルほど離れてしまった。


「ははははははは、最初からこれが僕の狙いだ!」


 いきなり勝ち誇るユーノ。


「僕の【光】や君の【闇】の力は、精神の強さによって起動する──ヴァーユはそう言っていた。もし大切な彼女たちを失ったら……それでも、君は動揺せずにいられるかな? 強い心を保てるかな、クロムくん」

「お前──」


 俺はぎりっと奥歯を噛みしめた。


 俺自身はスキルで守られ、攻防ともに無敵状態だ。

 だが、シアやユリンは違う。

 あくまでも俺のそばにいて、俺のスキルに守られているからこその無敵状態。


 だから、スキルの効果範囲から離されてしまえば──。


「やれ、ファラ」

「承知しました、ユーノ様!」


 告げて走り出す女剣士。 


 さすがに──速い!

 しかも彼女は古流剣術『炎王紅蓮刃えんおうぐれんじん』を極めた、恐るべき達人だ。


 少なくとも剣の腕ではシアに勝ち目はない。


「シア、ユリン、連携して身を守れ! すぐに俺が行く!」


 俺は叫んで走り出した。


 だが、俺の両足はこんなときでも情けないほど遅い速度しか出ない。

 衰え、弱ってしまった体が憎らしい。


 その間に、ファラはシアとユリンに肉薄していた。

 俺の二人の【従属者】に。


 大切な、仲間に──。


「大丈夫です、クロム様。あたしとユリンちゃんでなんとか立ち向かって──くうっ!?」


 言いかけたシアが、ファラの斬撃によって吹き飛ばされる。


「立ち向かう? 魔王を討伐した勇者パーティの剣士──このファラ・ザイードを相手に? 舐めるな、小娘ども!」


 ファラは叫んでさらに剣を繰り出した。


 唐竹割り、横薙ぎ、逆胴、袈裟斬り──。

 あらゆる角度から打ちこまれる嵐のような斬撃。


「あたしの力はユーノ様によって増大している! あんたのような小娘に後れを取ることはあり得ない!」

「あたしだってクロム様のおかげで強くなってるんだから……ううっ!」

「遅い遅い!」


 同じように【闇】と【光】で強化された剣士同士の戦い──。


 仮に強化された度合いが同じとなれば、もともとの剣の実力が反映される。


 シアは一方的に押されていた。

 ファラが繰り出す古流剣術によって、鎧を切り裂かれ、服を切り裂かれ、血しぶきが飛ぶ。


「まだまだ……っ!」


 これだけの実力差を見せつけられても、彼女の闘志は折れない。


「あたしは負けない! クロム様のために!」

「駄目だ! シア、逃げろ!」


 俺は命じた。


「嫌です──あたしだって、あなたの役に立ちたい!」


 だが、彼女は初めて俺の命令に逆らった。




※ ※ ※


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この話でもって、なろう版にようやく追いつきました。

以降の更新はなろう版を追いかけつつ、不定期になります。

不定期……と言っても、ラストまで出来上がってますし、数日に一回とかそんな感じです(この章で完結します)。


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10月30日に3巻が出ますので、よろしければ!

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