6 【闇】の復讐者VS【光】の勇者2

「取り巻きは全部つぶした。次はお前だ」

「僕の兵士の耐久力HPは2万を超えているんだぞ、それがなぜ──」


 ユーノは呆然とうめく。


「HP2万……か」


 俺の【固定ダメージ】は射程圏内に入った時点と、それ以降の3秒ごとに『9999ダメージ』を与える効果がある。


 いや、効果があった・・・


【闇】の深淵に達した今の俺のスキルは、違う。


「残念だが、俺のスキルにダメージ上限はなくなった。どんな敵であれ瞬時に消し飛ばすことができる」


 逆に──ダメージを抑え、じわじわと苦しめることもな。

 内心で付け足す俺。


「あのときのスキルは、一回につき9999のダメージ量だとヴァーユが言っていたけど、それから成長したということだね……!」


 ユーノがつぶやいた。

 その双眸が爛々と輝く。


「だけど! どんなに強力なスキルも、射程内に入らなければ怖くもなんともないよ!」


 虹色の右腕で聖剣を掲げるユーノ。

 アークヴァイスの刀身がまばゆい輝きを放った。


「【混沌】スキル──【拒絶の神域】! 【祝福の砲撃】!」


 光は無数の弾丸へと実体化し、いっせいに放たれた。

 数千、いや数万単位の爆撃だ。


 さしずめ【祝福の矢】の強化バージョンといったところか。


「無駄だ」


 俺は気にせず歩みを進めた。

 シアとユリンを伴って。


 降り注ぐ砲弾は、俺の体からあふれる黒い鱗粉に触れたとたんに消し飛んだ。

【固定ダメージ】は『生物』だろうと、『エネルギー』であろうと、俺に対する攻撃には等しくダメージを与える。


 どんな攻撃を繰り出そうと、俺に傷をつけることさえ叶わない。


「さすがに……強いね」


 うめき、後ずさるユーノ。


「逃がさない」


 俺は右手の鎖を放った。


 漆黒の鎖は空中で弧を描き、ユーノへと向かっていく。

 この鎖も【闇】によって以前よりもはるかに強化されている。


 たとえ聖剣の一撃を受けても、簡単には切り裂かれないだろう。

 少なくともユーノの動きを止めてしばらく拘束するには十分だ。


 鎖の先端部が四つに分かれ、奴の四肢へと絡みつき──。


 次の瞬間、ユーノは十メートルほど後方へと移動していた。


「何……!?」


 疾走したわけじゃない。

 弾かれたように、すさまじい勢いでユーノが後ろに跳んだのだ。


「僕が新たに身に着けた【光】のスキル──【拒絶の神域】」


 微笑むユーノ。


「僕に害為すものが近づくと、自動的に僕の体を安全圏まで運んでくれるスキルさ。言ってみれば、自動発動する緊急避難技ってところかな」


 剣や魔法、スキルによる直接攻撃──俺にダメージを与える手段であれば、【固定ダメージ】で破壊できる。


 だが『スキルの効果』を消し去ることはできない。

 だから、奴のスキルの効果範囲に俺の【固定ダメージ】が触れたところで、あの緊急避難技をつぶすことは不可能だ。


「……悪あがきだな」


 俺はユーノを見据えた。


「お前の攻撃では俺を倒すことはできない。そのスキルも、ただの時間稼ぎにしかならない」


 仮に俺一人で奴に近づけなくても──。

 シアの近接戦闘能力やユリンの術と連携すれば、きっとユーノを追いこむことができる。


 奴の破滅の時間が、ほんの少し後に伸びただけに過ぎない。

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