2 最後の復讐、その始まり

「勇者ユーノだ!」

「世界を二度も救ってくれた大英雄だ!」

「ユーノ! ユーノ!」


 大歓声が沸き上がった。


 ユーノはそんな観衆に向かって何度も手を振っていた。

 爽やかな笑顔だった。


 両隣には二人の美女を従えている。


 一人は女剣士のファラ。


 そして、もう一人はファルニアだ。

『星』属性の聖剣を持つ勇者であり、とある小国の姫でもある。


 彼女たちは二人ともウェディングドレス姿だった。

 二人そろってユーノの花嫁になる、ということだろう。


 この式典はユーノの結婚式も兼ねているらしい。


「きっと今は、お前の人生の絶頂期なんだろうな、ユーノ」


 それを今から、すべて破壊してやる。

 二年前、俺が絶望に追い落とされたように──。


「今度はお前の番だ」




 俺たちは群衆でごった返す中を三人一緒に進む。


「本当に誇らしいよな。俺たちの国の人間が世界を救ったんだ。それも二度も」

「それに、とても若くて凛々しくて──」

「あれだけの美女二人を花嫁にするのも当然だ、ははは」

「いや、二人と言わず何人でも嫁にすればいい。何せ世界一の勇者──つまりは世界一の男だからな」


 帝都の民が楽しげに談笑している。

 彼らにとってユーノは輝くばかりの英雄なのだろう。


 それがただの幻想に過ぎないことに──すぐに気づくだろうが。


 俺たちは前に進み、やがて最前列付近までやって来た。


 普通ならこれだけの人波をかき分けて、ここまで来るのは大変だ。

 だからユリンに周囲の人間の認識に作用する術を使ってもらっている。

 その術で、群衆が俺たちに道を譲るように仕向けてもらったのである。


「すごいなー、ユリンちゃんは」


 シアがつぶやいた。


「本当にいろんな術が使えるようになったね。あたしなんて戦うくらいしかできないのに」

「シアもユリンもそれぞれに得意分野がある。俺にとっては両方とも大切な技能だし、二人とも大事な仲間だ」


 俺は彼女にフォローを入れておいた。


「……ありがとうございます、クロム様。えへへ」


 嬉しそうに頬を赤らめ、俺に寄り添うユリン。


「あ、ずるいです。私だってくっつきますから」


 負けじとユリンが反対側から寄り添ってきた。


 ……まあ、少しくらいはいいか。


 しばらくそうさせてから、俺は言った。


「ユリン、準備はいいか?」


 甘いひとときはいったん終わりにしよう。


 ここからは凄惨な時間が始まる──。


 始めるんだ、俺たちが。


「すべて、あなたのご指示通りに」


 うやうやしくうなずくユリン。


「じゃあ、始めるか」


 俺はユリンから小さな石板を受け取った。


 これは彼女が会場のあちこちに仕込んだものの『操作器コントローラー』だ。


 まずは、あれ・・を起動させる。


「『命じる』──最大音量で会場内に音声を流せ」


 事前に設置したオーブに、そう意思を送る。




『みなさま、どうかお聞きください』




 次の瞬間、会場内に声が響き渡った。


 全世界から『聖女』として愛され、今は行方不明になっている女の声──。


『今から語ることは、私、イリーナ・ヴァリムの名に懸けてすべてが真実であることを誓います──』

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