第9章 復讐の終わり
1 勇者の式典
SIDE ユーノ
ルーファス帝国内。
豪奢な屋敷の中にユーノとファラの姿があった。
「よく似合うよ、ファラ」
「ありがとう、ユーノ……いえ、ユーノ様」
ユーノが声をかけると、彼女は幸せそうに微笑んだ。
普段の煽情的なビキニアーマーではなく、白いウェディングドレス姿である。
その隣には、姫勇者ファルニアがいた。
こちらもファラと同じくウェディングドレス姿。
今日は世界を二度にわたって救った大勇者ユーノを称える式典の日であり、彼が二人の美女と結婚式を行う日でもあった。
同時に二人の女性を妻とする──ルーファス帝国では重婚は基本的に認められていないが、ユーノは特例として許可された。
しかも二人だけでなく、今後彼が望めば何人でも妻にしてよい、ということだ。
(二人だけに絞るなんてもったいないよな。今の僕なら世界中の美女を独り占めにできる──)
ユーノはほくそ笑んだ。
自分の中で、欲望が肥大化していくのを感じる。
あらゆる美女をモノにしたい。
世界中の人々から称賛されたい。
巨万の富を得たい。
そして、未来永劫残るであろう勇者伝説を打ち立てたい──。
それらの欲望が恥だとはまったく思わなかった。
ヴァーユが教えてくれた通り、欲望とは【光】の源泉だ。
自分は誰よりも優れた勇者であり続ける必要がある。魔族たちが、みたび人間界を襲わないとも限らないのだから。
そのとき、まっさきに戦うのは当然ユーノである。
(僕がこれからも『世界を救う力』を維持するためにも……欲望に素直に生きなきゃね)
※
式典の会場は、帝城前にある広場だった。
そこには剣を構えた凛々しい少年の銅像が建てられている。
『救世の英雄にして大勇者ユーノ』
台座にはそう刻まれていた。
まったく、反吐が出そうだ。
見回せば、大通りから細い路地にいたるまで多くの人でごった返していた。
俺はシア、ユリンとともに群衆の中に紛れている。
素顔をさらしているが、俺がお尋ね者だと分かる人間はいないはずだ。
ユリンに周囲に術をかけ、俺という存在を認識しづらい──平たくいえば、目立たなくて気づかないように認識させる──状態にしているからだ。
もっとも、この術はあまり長時間は効かないらしい。
だから、たとえば旅の最中にこの術をかけっぱなしにしておくようなことはできない。
ただ、今回は式典が始まったらユーノに短期決戦を仕掛けるつもりだし、それまでの時間を稼げれば十分だった。
俺はあらためて周囲を見回す。
人々はみんな晴れやかな顔だ。
世界がふたたび魔族の脅威から救われた──。
安堵と感謝に満ちた表情だった。
その感謝を向けられる対象は、ほどなくして現れた。
広間中央の巨大な壇上に、金色の髪の青年が現れる。
きらびやかな金の甲冑姿。
見れば、なくしたはずの右腕が元通りになっている。
「……どういうことだ」
義手でもつけているのか。
それとも、奴の【光】や【混沌】の術でどうにか再生させたのか。
今の奴の能力がどれくらいなのかは、俺にも正確には分からない。
復活した右腕も警戒する必要があるな……。
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