2 竜の勇者2

「は、速すぎ──」

「あなたが遅いだけ」


 シアの繰り出す斬撃が黒と赤の軌跡を描き、ヴィオレッタに打ちこまれる。


「くっ、この威力は──」


 彼女のまとう鱗の鎧が、いともたやすく切り裂かれていく。

 シアのスキル【切断】は、竜人の防御力をも上回るのだ。


「な、舐めるなぁぁぁぁっ!」


 ヴィオレッタが咆哮した。


「聖剣スキル──【竜気炎陣りゅうきえんじん】!」


 ヴィオレッタの聖剣が爆風を放った。


「きゃぁっ……!?」


 大きく吹き飛ばされるシア。


「シアさん!」


 ユリンがすかさず魔力の網を生み出し、空中のシアを受け止めた。


「大丈夫ですか」

「ありがと、ユリンちゃん」


 無事に着地したシアがユリンに礼を言う。


「スピードはあたしが上だけど、さすがに相手も勇者ね。一撃の威力で簡単に吹き飛ばされてしまう──」

「私がサポートします。なんとか二人で彼女を無力化すれば──」


 俺の【従属者】たる少女たちと、竜の勇者との間で張り詰めた空気が漂う。

 ここからは、真の死闘の始まり──。


 と思いきや、


「……やめた」


 突然、ヴィオレッタが聖剣を地面に突き立てた。


「えっ」

「確かにあなたは悪人顔」


 俺をジト目で見るヴィオレッタ。

 何度も言うな。


「だけど、冷静に考えれば──こんなかわいい子二人に慕われている男が、悪者とは思えない」


 どういう判断基準だ。


「それにあたしを助けてくれたのは事実だしね。眠っている間も、なんとなく分かってたの。あたしを眠らせたのはマルゴの仕業で……もう少しで彼に殺されるところだった、って」

「……奴の所業については、これから明らかになっていくはずだ。魔族に与し、世界に大戦争を仕掛けた反逆者だ」

「ええ、そして──魔族軍を単騎で撃破しまくっているあたしが邪魔になったんだよね。だから始末しようとした」


 ため息をつくヴィオレッタ。


「それをあなたが助けてくれた。うん、頭の整理完了」


 にっこりとした笑みを浮かべる。

 顔だけで悪人と決めつけて襲ってきたり、いきなり矛を収めたり──ころころと態度や考えが変わる女だ。


 まあ、よく言えば思考が柔軟なんだろうが……。


「助けられた恩義もあるし、ここは引かせてもらうね」


 くるり、と背を向けるヴィオレッタ。


「だけど、もし──あなたが人に害為す存在なら、そのときこそあたしが斬る。あなたから強烈な【闇】を感じるのは確かだし」




 ──その後、魔族軍に味方していたマルゴが再起不能となったことや、ヴィオレッタの活躍により、この国での人と魔の戦いは、人間側が一気に優勢となった。

 とはいえ、魔族の侵攻はこの国だけではない。

 ラギオスやフランジュラスをはじめとした強力な魔族が率いる軍団が、各国に攻め入っていた。


 そんな中、魔族軍を相手に目覚ましい活躍を見せる勇者がいる、とすぐに噂になった。


 そう、ユーノである。


 ルーファス帝国に攻め入った魔族を片っ端から撃破しているらしい。

 俺はシア、ユリンとともに奴がいる戦場へと歩みを進めた──。

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