3 勇者の躍動

 SIDE ユーノ



 ルーファス帝国は今、魔族軍の侵攻を受けていた。

 東部に広がる大森林地帯を超えて数千の軍勢が迫ってくる。


 迎撃するのは、帝国選りすぐりの騎士団。

 その先頭に立つのは、ユーノだった。


「消え去れ、魔族!」


 凛と叫んで、聖剣『アークヴァイス』を振りおろす。

 刀身から衝撃波が放たれ、前方の魔族が数十体まとめて吹き飛んだ。


「さすがは魔王を討った勇者様ですわ……!」


 隣で戦う剣士が感嘆したようにつぶやく。


 彼より三つ年上の、黄金の髪を足下まで伸ばした美女である。

 ファルニア・リビティア。

 ルーファス帝国の隣にあるリビティア王国の姫であり、星属性の聖剣『ヅィルム』に選ばれた勇者でもあった。


 清楚さと気品を兼ね備えた容姿はユーノ好みだった。


(見とれているな。ふふ、僕の活躍ぶりを見て惚れさせてやるか──)


 敵が弱すぎて手ごたえがないため、ユーノにはそんなことを考える余裕がある。


 もともと、この一帯の魔族は蒼き竜ラギオスが率いていたようだ。

 ただ、そのラギオスは先の戦いでユーノやファラ、マルゴによって討たれており、眼前の軍はいわば烏合の衆。


 数が多くても、ユーノの敵ではなかった。

 おまけに女剣士ファラと女勇者ファルニアは、どちらも一騎当千のつわもの。


「おのれ、勇者め!」


 魔族軍の中から青い竜が現れた。


「ラギオス……!?」


 一瞬そう思ったが、よく見ると違う。

 ラギオスによく似た竜族だ。


「この俺はパワーだけならラギオス様に匹敵する! いかに勇者といえど、そうやすやすとは──」

「聖剣スキル【滅竜斬めつりゅうざん】」


 ユーノは敵の口上をさえぎり、一撃を放った。

 巨竜はあっさりと両断されて地面に転がる。


 当然、即死だ。


「他愛もない。このまま蹴散らしてやる」


 できるだけ格好よく、ファルニアが見とれるような活躍で──。




「どこを見ている、勇者よ?」




 頭上から突然声が響いた。


「えっ……?」


 上空に巨大な竜が飛んでいる。

 今まで気づかなかったのは、隠蔽魔法のたぐいで身を隠していたのか。


 だが、なぜだ──。


 ユーノは驚きながら自問する。


 なぜ、お前がここにいる……!?


「ラギオス! 死んだはずじゃ──」


 隣でファラが愕然と叫んだ。


「くくく、あいにく俺はこうして生きている。生きて、貴様の隙を狙っていた──残念だったな、勇者!」


 ラギオスが吠える。


 隙──か。

 ユーノが内心でうめいた。


 確かに、相手の主力を倒したことで、わずかながら気が緩んでいたのかもしれない。


 その口が大きく開き、発光した。

 ドラゴンブレスの発射態勢だ。


「俺の勝ちだ!」


 ラギオスが笑う。

 このタイミングでは、ブレスをまともに食らってしまう──。


「い、嫌だ……!」


 ユーノがうめいた。


 死にたくない。

 生きたい。


 湧き上がってきたのは、強烈な渇望。


 どくん、と聖剣が脈を打つ。

 熱い脈動が、柄からユーノの全身へと伝わっていく。


「うっ……おおおおおおおおおおおおおっ……!」


 ユーノは吠えた。


 以前、クロムに斬り落とされた右腕の切断部分──肘のあたりが疼く。


 熱い。


 熱い。


 熱い──。


 やがて切断面が、ぼこり、と盛り上がった。


「こ、これは……!?」


 体の内側から何かが出てこようとしている──?

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