第8章 闇と勇者

1 竜の勇者1

 マルゴへの復讐は、ひとまず終わった。


 俺は、奴に『徐々に死んでいくダメージを与える』形でスキルを発動させた。

 同時に、鎖で拘束して動けなくしておいた。

 そのうえでユリンの術で簡易結界を作成し、マルゴをその中に閉じこめさせた。


 これで奴は脱出不可能だし、周囲の人間からは見つからない。


 結界内には、これまたユリンの術で【遠隔鏡像】を仕掛けてある。

 マルゴは今後、自分の名声が地に落ちる様をゆっくりと見せつけられることになるだろう。


 奴にとって何よりも大切だった英雄としての称賛、名誉──それらが完膚なきまでに叩き落され、汚されていく様子を見て、せいぜい苦しむがいい。


 俺が悦に入っていると、


「やっと目が冴えてきたよ! 助太刀するね、マルゴさん!」


 朗らかな声とともに、一人の少女剣士が丘を駆け上がってきた。

 七勇者の一人、ヴィオレッタだ。


 もともとがマルゴの術で眠らされ、今の戦いが始まる前に騎士団とともにここから離れていたのだ。


「あれ? マルゴさんは……?」


 キョトンとして周囲を見回すヴィオレッタ。その姿は竜と人の中間のような姿をしていた。


 竜人。

 彼女は聖剣の力を借り、竜の力をその身に宿して戦うと聞いたことがある。

 この姿こそ、ヴィオレッタの戦闘形態なのだろう。


「うわっ!? すっっっっっっごい禍々しい気配だねっ! さてはあなた、魔族ねっ!」


 俺をびしっと指さすヴィオレッタ。


「いや、俺はただの人間だ」

「嘘! なんか悪人っぽい顔だもん!」

「顔で決められてもな……」


 さすがに憮然となる。


「あたしは顔で決める主義!」


 ヴィオレッタが堂々と言い切った。


「ゆえに成敗する! いっくよー!」


 気合いの声とともに斬りかかってきた。

 まさしく問答無用だ。

 正直、苦手なノリだった。


「……シア、止めろ」


【固定ダメージ】で迎撃してもいいんだが、どうにも相手のノリに攻撃のしづらさを感じていた。

 ここはシアの近接戦闘能力で無力化してもらおう。


「承知しました、クロム様!」


 告げて駆け出すシア。


「ふん、まずは配下を使うってわけ? 可愛い顔してるけど容赦しないからね!」


 ヴィオレッタが渾身の一撃を繰り出す。


 竜属性の聖剣『イオ』だ。

 その刃は鋼鉄をもバターのように切り裂くというが──。


「スキル【加速】」


 シアの速度が一気に上がった。

 高速移動による残像作りながら、ヴィオレッタを幻惑する。


「えっ、何……!? 分身した──」

「残像よ」


 微笑んだシアが彼女の背後に回りこんだ。


「そんな程度でぇっ!」


 が、さすがにヴィオレッタも勇者の一人だ。

 超反応で振り返ると、聖剣を一閃させた。


「聖剣スキル──【竜気炎陣りゅうきえんじん】!」


 炎の斬撃でシアを焼き尽くす──。

 ……否。


「それも残像」


 シアがふたたびヴィオレッタの背後に回りこんだ。

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