24 英雄騎士の末路

 SIDE マルゴ


 それは今よりわずかに未来の話。


「ぐあああああ……苦しい……痛い……助けて……助けてぇぇぇ……」


 体中に間断なく走り抜ける苦痛。


 クロムの能力──【固定ダメージ】によって20ダメージ程度を間断なく与えられ続けているのだ。

 それは決して止まらず、少しずつダメージ量を増していく。


 十年か二十年、あるいはもっと先──いずれは致命的なダメージ量にまで達する、とクロムは説明していた。


 それまで、マルゴは徐々に大きくなる苦痛から逃れることはできない。

 緩やかな死をもたらされるのを待つのみだ。


 そしてその間に──マルゴは、いくつもの光景を見せられていた。

 クロムの従者である魔人少女の術によって見せられた光景。

 それは──。


「嫌だ……こんなもの……見たくないぃぃぃぃ……うえええええ」


 マルゴの誇りであった銅像は粉々に砕かれ、糞尿にまみれている。


「何が英雄だ!」

「魔族と組んで人間を滅ぼそうとした大悪人!」


 人々からの怨嗟の声。


 嫌だ。

 聞きたくない聞きたくない聞きたくない。


「おぞましいわね、マルゴ様──いえ、マルゴの正体は」

「名誉欲に凝り固まった愚かな男……」


 彼に熱烈な求愛をしてきた貴婦人たちの嫌悪の声。


 嫌だ。

 聞きたくない聞きたくない聞きたくない。


「マルゴ様がこんな悪事をしでかすなんて」

「がっかりだ……憧れていたのに」


 彼を尊敬してくれていた騎士や兵士たちからの侮蔑の声。


 嫌だ。

 聞きたくない聞きたくない聞きたくない。


「やめてくれ……こんな……嫌だ、やめてくれぇぇぇぇぇぇっ!」


 体をかきむしるほどの恥辱と屈辱。


 絶望と苦痛。


 これが自分の人生の末路なのか。

 英雄として誰からも称えられ、死後も永遠に語り継がれるような人物になることが夢だった。


 その夢はすでに叶い、今回の魔族侵攻戦を持ってさらに名声は高まるはずだった。


 だが、もはやすべては失われた。


 マルゴは、死ぬ。

 せめてひと思いに殺してほしいが、それすらかなわない。


 心も体も、緩慢に死んでいく。


 そして英雄としての名もまた──。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 生涯をかけて人々からの称賛と名声、英雄としての栄誉を追い求めてきた男は、絶望と苦悩の絶叫を上げた。

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