第32話 メイド愛裏
「いやー………香ごめんね。自転車置かせてもらっちゃって」
「いいんですよ。それに丁度私、菜千ちゃんに聞きたいことあるんです」
私は今、香宅の玄関前にいる。
なぜかというと、香の家に自転車を停めさせてもらっているからだ。
私は駅前に行くときに香の家まで自転車で来て、そこから香と一緒に徒歩で駅前まで向かったのだ。
そのため、帰りは清水と栄夢とは別れて、香と一緒に彼女の家へ来たということである。
「聞きたいこと…?何?」
「とりあえず、上がってください。恐らく長くなるので……」
………この感じ。とてつもなく嫌な予感がするのはなぜだろうか。
高校に入ってからというものの、人の家に上がり込んでいい思い出がないからだろうか?
「あ、うん………」
………まぁ、だとしても断る義理はないか。あくまでも予感だし。気のせいだってこともある。
正直に言うと、着替えていない私は汗臭くて、早く家に帰りたいのだが。
自分の都合で人の用事を断るのは自分としてもあまりしたくないし。
ガチャ。
「ただいま帰りましたー!」
「お、お邪魔しま………」
「お帰りなさいませぇぇぇ~!!香様ぁぁぁぁ~!!」
ぬ!?だ、誰の声!?………何か聞いたことがあるような、この声。
ドタドタドタドタ!!
家の奥の方から出てきたのは。
「香様ぁぁぁ………ああああああああああっ!!??」
普段からは全く想像もできない格好をしている、愛裏さんだった。
メ、メイド服だ………!?
しかも何かはしゃいでるし……!?
ギャップがすごすぎて、言葉がでない。
「か、香様………?な、な、なぜにご友人様が………?」
どうやら私の訪問が予想外だったらしく口をパクパクさせながら愛裏さんは香に訊ねる。
「ちょっとお話があって……あ、でも愛裏さんはいつも通りにしてて大丈夫ですよ!」
「い、いつも通り……いつも通り………?いつも通りですか……分かりました!」
………何だ?いつも通り?
「お帰りなさいませぇ!香様ぁ!!あぁ………お待ちしておりました………!」
そう言うなり、香の事を強く抱き締める愛裏さん。
………何か様子がおかしいな。いつもクールな感じのはずの愛裏さんがかわいく見えてきた。………いや、元々可愛い顔してるんだけど。そういうことじゃなくて。
「あぁ………かわいいな………かわいいな………どうしてそんなにかわいいんですか!香様!もう!怒りますよ!プンプン!」
………ごめんなさい。
どなた?
あなた本当に愛裏さんですか?
第2人格でも現れた?
「あ、そうでした」
呆気に取られる私に気づいたのか、香が説明をし始めた。
「愛裏さんは本当はこういう方なんです。何故かお家を出ると雰囲気が変わってしまうんですが。本来はこのように優しくて可愛い人なんですよ!」
「は、はぁ………」
何があった?そう言いたくなる自分をどうにかして抑え込んだ結果、出た言葉は「は、はぁ………」だった。
「もう………恥ずかしいです、香様………!」
………いや、誰!?
最早、多重人格の領域だよ!?
こんな可愛い愛裏さんなんて、見たくない!!
クールでいて欲しかった………!
悪漢をボコボコにしたカッコいい愛裏さんでいて欲しかった………!!
「あ、あの………この事はどうかご内密にお願いします………!!」
ズキュンッッ!!
「あ……は、はい!」
照れた感じ、かわいいな………。
もしかして、これがギャップ萌えてやつなの?
「愛裏さん……そろそろ……?」
ずっと抱き締められっぱなしだった香が離れるように促す。
「………はっ!も、申し訳ございません!」
バッと愛裏さんが香から離れる。
「それじゃあ、部屋に行きましょうか、菜千ちゃん!」
………慣れているとはいえ、平然としている香が段々狂気的に見えてきた。
「う、うん」
「で、では私はお夕飯の準備をしてきますので、ごゆっくり………」
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