第29話 深みのある「ちゅー」
こんなところでいいかな?
……よし。ここまでは順調。
みんな解散して、私はただ一人帰路に立っている。
しかし、これは栄夢に「菜千は帰った」と思わせるための陽動である。
………適当なところに自転車を止めて。これから清水に連絡をする。
「今から家、行っていい?っと」
ピコン!
RAINの通知だ。早いな、もう返信来たんだ。
───いいけど、どうしたの?
いやどうしたのって、それこっちが聞きたいんだわ!
「ちょっと用事忘れてて。今から行くね……と」
よし!これであとはもう通知が来ても無視すれば完了!
ふっふっふっ。三日三晩寝て考えたプラン。
「今から行くね」と送ってしまえば、例え「やっぱり無理」というメッセージが来ても気づかなかったから来ちゃった!でなんとかできる!
しかも!私の場合移動手段が自転車だから「今から行くね」=「もう連絡されても出れない」という事になるのだ!
はっはっはっ!我ながら頭がいい!
ピコン!
おっと。早速来たようだ。だが済まない清水。私はメッセージを読まないんだ。
じゃ、早速向かおう………
ピコン!ピコン!ピコン!
……ごめん。マジでごめん清水。でも、これはあんたのためなんだよ。どれだけ通知が鳴っても私は出ないと決めたんだ。
ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!
………清水?
ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン……!
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
し、心霊現象だ!鳴り止まない!
ずっと鳴り続けてるよ……!怖っ!!
え?百件?通知百件?
逆に何を送ってきてるの、これ!?
そうだ!
マ、マナーモード!
ヴ~ヴ~…ヴ~ヴ~…ヴ~ヴ~…。
ダメだ。根本的な解決になってない!
こうなったら!
ミュート!
「はぁ……はぁ……やっと鳴りやんだ……」
大分時間食っちゃったな……。急いで向かわないと!!
………しばらくして。
「………ごくり…ど、どうしたの?」
今、ごくりって聞こえたな。生唾飲み込む音がしたな。
まぁ、仕方ないか。バカみたいに飛ばしたから多少の汗をかいてしまっている。清水にとっては堪らないんだろう。
……納得できてしまう私も成長(?)したものだ………。
「家の中、入っていい……?」
「ど、どうぞ」
私はそのまま清水に連れられて彼女の部屋にお邪魔する。
「用事があるんだよね。何?」
さて。遂にこの時が来た。勇気を出せ!菜千よ!
「実はさ、用事があるっていうより聞きたいことがあるんだよね」
「………聞きたいこと…」
清水も何かを察したのか、少し声が小さくなる。
「………あのさ…最近私の………」
「私もちゅーしたい!!」
………はっ?
「わ、わた、私もちゅーしたいよ!
「ごめん。ちょっとよく分からない………?」
私もちゅーしたい?急にどうしたんだ?私まだ何も言ってないんだけど………。
「あれでしょ?最近ちょっと素っ気ない態度取ってる事を聞きに来たんでしょ?だって私あぁでもしないと菜千ちゃんにちゅーしそうなんだもん!」
「な、何で……?」
熱がすごい………。こ、怖いよ。いろいろ。
「私普段から皆の事舐め回したいのを頑張って我慢してるの。そんな中でるーちゃんがなっちゃんにちゅーするんだもん!だけど、なっちゃん別に平気そうだし?あ、してもいいのかな?って思っちゃうじゃない!でも、もしもの事を考えて、そんな事簡単に出来ないし!でも、したい。だから出来るだけなっちゃんの事見ないようにしてたの」
………なるほど。言いたいことは何となく分かった。
体液フェチの清水は私にキスしてもいいんならキスしたいと言ってるのか。
………う~ん。私だってそんな軽くキスをしちゃう人にはなりたくないしな。出来ても間接キスまでかな。
でもな。キスするだけで問題が解決するなら安いような気もする。どうせ大事なファーストキスは既に奪われ済みだし。
ちゅっ!くらいで済むならいいかな……?
「………わかった。じゃあ、一回だけね。はい」
私は目を瞑って彼女の唇を待つ。
…………遅いな。私もあんまりキス顔を晒したくないんだけ……。
ドサッ!
「え?」
私は思わず目を開けてしまう。何故かわからないが急に押し倒されたのだ。
「じ、じゃあ………はぁ…はぁ……遠慮なく……!」
清水は顔を赤らめてとても幸せそうな顔をしている。こちらまで火照った体温が伝わってくるようだ。
「し、清水?」
あ、これヤバイやつだ。
「………ん!」
「……ん!?」
こ、これは!?舌を絡ませるディープなやつ!?
ち、違う!清水!そうじゃなくてもっとソフトなやつ!
「ん!?んん!!る……れろ……ん!ぷっ……!んんん!!」
顔を動かして逃げたいのに、清水に顔を手でがっちりホールドされていて動かせない。
足をバタバタさせて清水の肩を叩くが、それでもやめてくれない。
それと長い……!い、息が持たない………!
「んん……じゅる………れる……んんん…れろ………んんん………」
………あれ?何だろう。だんだん抵抗する気が無くなってきた。頭が朦朧とする。
ダメだ……堕ち…!
カチャッ。
「………ん!!」
急に清水が唇を離す。その結果、私と清水の間に細く透明な糸ができる。
「………ぷはぁ!!………はぁはぁはぁ……」
あ、危なかった。あのままだったら確実に堕ちてた。
でも、何だって清水は急にやめた?まだ酸欠で朦朧とする頭では何があったのか考える暇もない。
……どうやら清水は今、扉の前に立っているみたいだ。
そして取っ手に手をかけて勢いよく開けた。
ガンッッ!!
「痛゛!?」
……声?
「やっぱり………!お姉ちゃんの部屋覗いちゃダメだって何度も言ってるでしょ!」
「くそ………ばれてーら」
………清水の声ではない女の子の声だ。
清水、お姉ちゃんって言ってたけど?
だんだんと回復してきたので口を拭いながら起き上がって例の場所を見る。
そこには、扉の向こうでおでこを押さえている清水にそっくりな女の子が。
「………あのー…その子は?」
「あ、そっかまだ紹介してなかったね。妹の
「………ども」
ペコリとお辞儀をする市子ちゃん。制服を来ているところを見ると、中学生だろうか?
「この子ね。よくわからないけど私の部屋覗きみるんだよね。何度も注意してるんだけど」
へー。変な子。
「で、あの人は?お姉ちゃんの彼女?」
ブホォ!?
………あ、でもそっか。さっきの覗き見たんだとしたらそう思うか。
「違う違う。なっちゃんは私の友達だよ」
………清水にとってはさっきの行為は友達とするスキンシップなのだろうか。
何なら彼女と答えてくれた方が私もさっきの行為が腑に落ちるのだが。
「へぇ~……そう…お邪魔しました………」
バタン。
……何だろう一瞬睨まれた気がする。
「……よし!続きしていい?」
「待って!?あれもう一ラウンドいくの!?一回だけって言ったよね!?」
いや、確かに邪魔が入ったのかもしれないけど!私だって耐えたんだから!
はぁぁぁ………。散々な1日だよ…。
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