第20話 お金を使いたくない訳じゃないのよ?

 翌日の放課後。

 私達は昨日のように放課後の教室に残っていた。

「今日も部活見学に行きますか?菜千ちゃんが言ってた帰宅部みたいな部活はもう見つけましたけど……」

「んー…そうなんだよね……」

 香の言うとおり私の求める部活は特定した。

 私からしてみれば部長が変わり者でも何てことない。周りの人間で耐性ができている。

 つまり、文芸部に入部するのはほぼ確定的だ。

 となると、やることがなくなってくる。

「私は文芸部でもいいかなって思うんだけど…みんなはどう?」

 私だけ良ければいい問題でもない。こういうのは全会一致がマストだ。

「私は別に大丈夫ですよ?だって…菜千ちゃんと一緒ですから………!」

 ポッと顔を赤らめる香。両手で頬を押さえる様はまさしく恋する乙女だ。

 うん。なんで?

 ……香は気持ちのベクトルがちょっとずれてるよな…一緒にいたいっていうのはありがたいけど。

「私も別にいいよ」

「私も」

 清水と栄夢も香に続いて答えてくれた。

「そんじゃ今日はどうする?」

 部活動見学に代わる何かいい案はないだろうか。

「………せっかくですし、どこかに遊びに行くのはどうですか?時間もありますし」

 げっ。

「いいじゃん!どこ行く!?」

 げげっ。まずい。清水も乗り気だ。

「駅の周辺に行けば何かある」

 ゲゲゲのげっ。栄夢まで………!!

 どうしよう、言えない。

 でも、言わないと………!?

「菜千ちゃん?どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」

「へ!?」

 まずい。顔に出ていたらしい。

 これはやっぱり言うべきか?

「じ、実はさ………お、お財布忘れちゃって!今お金無いんだ……」

 嘘である。しっかりお金は持ってきた。

 いや、別にお金使いたくないわけではない。

 むしろ使うためにコツコツと貯めてきた。

 じゃあ、なぜか。

 ………私は人混みが無理なのだ。

 人混みは知らない男の人がたくさんいて、居ても立ってもいられなくなる。気分が悪くなってしまうのだ。

 しかし、こんな事恥ずかしくて言えない。

 幼稚だし、遊びたいと言っておいてこのザマとは。

 だから中学校でも出掛けることはほぼ無かった。仕方なしの場合以外は自宅で過ごす。

 超インドアだ。

「そうなんですか?……私で良ければ貸しますよ?」

 おおっと!?まさかの急展開。そんなあっさり貸しちゃうの、お金?

「いや、いいよ…!申し訳ないし」

 凝れば本音だが、建前でもある。

「……でも………」

 香は悲しそうな目をする。どうやらよっぽど遊びに行きたかったようだ。

 そりゃそうだろうな……香は中学校では避けられてたのだ。

 恐らく友達と遊びに行くなんて、久しなかっただろう。

 何だか申し訳ない。

 ……急に空気が重くなった。明らかに私のせいである。

「………あ!」

 清水が急に声を上げる。沈黙が続いていたため、私は肩をビクッと震わせてしまった。

 栄夢も香も私と同じなのだろう。目を丸くして驚いている。

 そんな事を私達の事など気にせずに清水は言葉を続けた。

「じゃあさ!昨日行った旧図書室行こうよ!あそこ広いし、人も寄り付かないし!何かして遊ぼうよ!」

 なるほど、旧図書室か………確かに元図書室なだけあって広かった。

 いやでも、良いのかな?違法な気がするんですけど………?

「え、でもあそこ………文芸部の部長さんがいるんじゃ………迷惑じゃないですかね……?」

 香の言うとおりだ。あそこには、なぜか分からないがハム先輩が居座っている。

 しかし、そんな香の質問も想定内だったようで、清水は得意顔で「チッチッチッ……」と右手の人差し指を左右に振る。

 ………ちょっと腹立つな。

「私達文芸部に入るんでしょ?部長さんもそれ聞いたらなんとかしてくれるよ!」

 そういうもんか!?

 あの人、絶対そういうので明け渡さない気がする。何となく、勘だけど。

「なるほど!さすが清水ちゃんです!」

 うぇい!?香さん!?なぜ納得できた!?

「えーちゃんはどう思う?」

「………どっちでもいい…」

 栄夢は眠たそうに答える。どうやら先程まで寝ていたようだ。

 どうりで静かだったのか。

 ばか野郎!!寝るな!?

 ………結局私の意見は聞かれぬままに私達は旧図書室へ向かった。デジャブを感じたのは私だけだろうか………?




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