第16話 こ、これは……!?

 着いた。ここが「超自然現象解明研究部」の部室。

 来て一瞬で分かった。これはヤバい部活です。

 恐らく変人の集まりです。私には分かります。変人に囲まれた私には分かりますよ。

 ドアには、よく怪談で使われそうなおどろおどろしい文字で「超自然現象解明研究部」と書かれた貼り紙が貼ってある。

 これはアレですね。毒を持った生物が「俺危ないから近寄んなよ?」ていうメッセージを込めてカラフルな事が多いっていうのと同じだ。

 近寄んなってことよ。帰ろ。

 私は回れ右をしてドアに背中を向ける。


 コンコン。


 ん?この音、まさか。

「………失礼しまーす…」

 ほえぇぇぇぇぇぇぇ!?何しとるがな!香はん!!


 ガラガラガラ


「………オンモラキカンマラキ………オンモラキカンマラキ………オンモラキカンマラキ………」

「………テキーラコーラマラドーナ……テキーラコーラマラドーナ………」


 ピシャッ!!


「うわっ!?び、びっくりした!!いきなり閉めないでくださいよ、菜千ちゃん!」

 はっ!?体が勝手に!!

「そうだよ、危ないよ?けがない?るーちゃん」

 清水は少し怒り気味だ。

「ありがとうございます。大丈夫です」

 香は心配してくれた清水にペコリとお礼をする。

 ………確かにいきなり閉めたのは悪かったかも。でも、私の判断は正しかったはず………!!

 だってあんなカルト集団が着るみたいな頭の尖ったローブを着てたんだよ?しかも、謎の呪文を唱えて………!!


 ガラガラガラ


「入部希望者ですか?」

「どうぞ見学してって下さい」

 突然ドアが開いたかと思えば、先ほどの呪文を唱えていた二人が話しかけてきた。

 遅かった。早く逃げてれば………!!

「はい!そうなんです!是非お願いします!」

 香さん?さてはあなた天然ですね?

「では………どうぞお中へ………フフ…」

 今、「フフ」て「フフ」て言ったよ!?ヤバいって!!先輩だと思うけど、ヤバいって!!

「あれ?菜千ちゃん、早くお邪魔しましょ?」

 部室に入りかけていた香は振り返って、立ち止まっている私に声をかけてきた。

 どうやら、行くしかないようだ。

「い、今行くよ………」

 私は香と共に部室内へ入った。

 ………中は薄暗い。変な薬品ぽい臭いもする。

 香を見るとやはり、その臭いに反応していて、鼻をクンクンさせていた。

「今は何してたんですか?」

 清水が部員達に訊ねる。それは私も気になっていたが、よく聞いてくれた!

「………精霊達を呼び出していたの。中々こちらには来てくれないんだけどね」

 部員のどちらかが答える。どっちかはよく分からないし。顔をすっぽりフードっぽいので隠しているからだ。

「精霊!?本当にいるの!?………ですか!?」

 1番に反応したのは栄夢だ。どうやらそういう系も好きらしい。

 そういえば、部屋に行った時にゲームとか本がたくさん積まれてたし、ファンタジーな事に興味を持っているのかもしれない。

「しっ!大きな声を出さないで…!精霊達が逃げてしまう……!」

「すまん…!せん……!」

 いや、来てくれてないって言ってなかった?逃げるも何も、この場にいなくない?

「……菜千ちゃん…!何だか凄そうですよ……!?」

「ノリノリじゃん……」

 香は何が何だかよく分かっていないのかウキウキしている。まるでプレゼントを開ける前の子供のような表情をしていた。

「なっちゃんは逆にテンション低いね?どしたの?」

「………逆に聞くけど何でテンションが上がるの……!?」

 清水よ。ニッコリするな!何となく面白がっとるな、貴様!

「それでは、準備が整いましたので、先ほどの儀式を再開します………」

 いつの間にか何らかの準備をしていたらしい。

 部員2名は先程と同じようなの呪文を唱え始める。

「オンモラキカンマラキ………」

「テキーラコーラマラドーナ………」

 二人は机に向かって謎に両手を伸ばしている。力でも送っているのだろうか?

 机の上あるのは、何やら魔方陣のようなものが描かれている紙と、その上に乱雑に置かれた謎の石や水晶。

 机は、懐中電灯だかスマートフォンのライト機能だかを使って照らされている。

 薄暗い部屋の中で、唯一光がある場所だ。しかし、光があるからといって決して不気味でないわけではない。

 まるでスポットライトにでも当てられたようなそれらは、光を反射しながらキラキラと光っている。もちろんキレイとは思えない。

「あ、あのー………?」

 私は異常なこの状況を打破するために、部員2名に話をして出ていくことを決めた。

 しかしながら、集中しているのか、私の声が二人には届かない。

 好都合だ。

「………そろそろお邪魔しよっか…?」

 今しかチャンスはない!!

「え?でも、今からが本番みたいな感じですよ…?」

 うぐっ!?あくまでもこの狂った儀式を見届けるというの!?

 ………ふっふっふっ!!だけど、そう答えるのも私の中では想定内!!理由はしっかり考えております!!

「………何となくの雰囲気は分かったしさ、そろそろ他の部活も見に行かない?期限まで時間ないし、1日で色んな所回った方がいいと思うよ………?」

 ………完璧すぎる。

 あくまでもこの部室から早く去りたいのではなく、他の部活も見た方がいいからという理由。

 つけ入る隙もないし、なにより、怪しまれない。

「たしかにそうかもね。でも、えーちゃんどうするの?どっぷり漬かってるよ」

 清水はそう言いながらある方向を指さす。

 私がその延長線上を追っていくと、そこには二人の部員のよろしく魔方陣らしきものがある机に手を伸ばしている栄夢の姿が。

 予想以上に引き込まれているな………。

「………大丈夫。二人は先に教室にでも戻ってて。私がしてくるから。いい?くれぐれもドアはそーっと開けるのよ?そーっと………!!」

 大事なことは強調して言う。もしガラガラガラと音を立てて開けられては気づかれてしまうかもしれない。

「わ、わかりましたけど………栄夢ちゃん夢中みたいだし、もう少しここにいさせてあげるのも………」

「いい?くれぐれもドアはそーっと開けるのよ………!!!」

 大事なことは繰り返す。大切なことだ。決して圧をかけているわけではない。

「………はい……!!」

 薄暗くてよく分からないが、香の顔がトロけているように見える。まるで、私が脇の臭いを嗅いだ、あのときのように。

「………行きましょう、清水さん…?」

「え?あ…うん」

 清水は香に連れられて出口へ向かう。


 ……カラカラカラカラ………


「………失礼しました…」

 香はニコッと私に笑いかけてから部屋を後にする。

 ………多少の引っ掛かりは今は考えないでおこう。

 それはそうと儀式が終わってしまう前にバレずに脱出せねば。しかも、栄夢を連れて。

「栄夢………?」

「……………」

 ………無反応。部員2名と同様、集中状態にあるようだ。

 こうなっては仕方がない。

 許せ、栄夢。

 私は栄夢の後ろに回り込み、栄夢の開いている両脇に自分の両腕を通す。

 栄夢が反応をする前に右肘を曲げて右手を栄夢の後頭部に。左手は栄夢の口を押さえに行く。………完璧なホールドだ。

「……………ンン!?ンン……!?ン!?」

 ごめん、栄夢。でも、これはあんたの為でもあるのよ?

 こんなカルト集団擬きをあなたと一緒にさせたら、あなたのそのドM精神に拍車がかかるかもしれない(?)!!

 わかって………!!

 私は栄夢を引きずりながら出口へ向かう。

 ………何だか左手が湿ってきているが、そんな事を気にしてはいられない。

 出口までの道に障害物がなかったのが幸いだった。

 楽々とドアに着いた私は、栄夢をホールドしながら、器用に音を立てずドアを開く。


 ……カラカラカラカラ………


 栄夢も最初こそ抵抗があったが、今ではその気もないのか大人しくしている。

 ……なんか体があっつい?気のせいかな。

 私は部室を出た後、開けるとき同様に静かにドアを閉める。

 完璧な任務遂行……!!私ってまさかスパイの才能ある?

 しかし、安心はしてられない。とりあえず、遠くに行くまでこの状態をキープして念には念を打とう。

 都合の良いことにここは旧校舎だ。人はほぼ寄り付かない。先生すらもだ。見られる危険性も少ないだろう。

「……………」

 栄夢、随分と大人しいけど気絶してないよね?

 少し心配になった私は口を押さえていた手の力を緩める。やりすぎちゃったかな?

「へ、えへへへへへ………もっと……!!」

 手には涎の感触。

「………」

「も、もっと………………もっときつ………んむっ!?」

 許せ、栄夢………!!

 ……と、しばらくして。

「ぶ、部長!!け、けけ見学者の姿が!?」

「………何てこと!!まさか、知らぬ間に精霊達が………!!」

「部長……!!」

「……犠牲になった魂に、黙祷……」

「黙祷………!!」

 どうやら、私達は超自然現象解明研究部で神隠しにでもあっているらしい。

 いちいち、つっこんでられない。

 私は栄夢を連れて教室へ急いだ。

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