第11話 訪問中

 私は今、例の少女の家の前にいる。

 驚きの事実だが、例の少女は私のクラスの生徒であった。

 しかも、席は私の右手前。つまり、清水の前の席で、香の右隣の席。

 全く気づかなかった。恐らく、彼女が小さすぎて影が薄いのが原因だろう。

 おまけに私は最近香と接することが多かったために、香ばかりを見ていて周りの人間をよく見ていなかった。あの騒動以来、周りの人間が私とは関わろうとしなかったからだ。

 え?避けられてるって?

 違う違う………違うはずよ………!

 ちなみに、香はまだ病みモード全開で、私が話しかけても素っ気ない返事しかしない。

 清水も、昨日の一件があったからか、私を極力避けている感じがする。

 つまり、私は今日、昼休みに1人で弁当を食べて、下校も1人。

 え?ぼっちじゃんって?

 分かりきっとるわ!わざわざ言うな!

「……はぁ………」

 私は肩を落として左隣の家に目をやる。

 もちろんそこには不動の我妻家がある。清水の家だ。

 昨日、私はこの家で頬を清水に舐められた。まさに事件の現場だ。

 ………清水はもう帰っているのだろうか。

 教室には姿がなかったし、学校にはいないと思うが。

 もし帰宅済みなら、例の少女のように部屋から私を見ているのかもしれない。

 ………どうか誤解だけはしないでよ?

「……よし、行こう」

 私は玄関口に向かう。

 インターホンの上にある表札には「代永よなが」とある。

 あの少女は「代永」というのか。

 私は右手の人差し指をゆっくりとインターホンに向かわせる。

 もうグッと力を込めればチャイムが鳴るだろう。

 やるしかない。

 私は指先に力を込めた。


 ピンポーン


「………はい……どちら様ですか?」

 あれ?声が違う?それとも違く聞こえるだけ?女性の声だけど……?

「その制服……もしかして、あなたが『えい』の言ってたお友達?」

 恐らくだが「えい」とは代永のことだろう。私の制服を見て反応したらしいし。

 ところで、お友達?私が?………まだそこまでの仲ではない気がするが。

 まさか別の人のことか!?

 いや、でも私は来いと直接言われたしな。

 とりあえずここは「はい」と答えておこう。

「……そ、そうです。家に来てって言われて………」

「やっぱり!わかりました!今、行きますね!」

 ………代永本人ではないらしい。

 いや、多分出てくれた人も名字は「代永」だと思うけど。そういうことではなくてね?

 というより、私が友達だと答えた瞬間、声のトーンがいきなり高くなったな。そんなに嬉しかったのか?

 そんな事を考えているとバタバタと足音が聞こえてくる。


 ガチャリ


「どうも~!わざわざ来てくれてありがとうございます~!」

 出てきたのはだらしない格好をした眼鏡を掛けた女性だった。

 ヨレヨレになったTシャツは、襟が伸びすぎて左肩が出てしまっている。

 穿いているジーパンもダボダボだ。

 ボサボサに伸びた髪は後ろで1つにまとめている。

 よく見たら履いてるサンダルも左右で種類が違う。右に履いてるやつとか、サイズ合ってなくて踵出てるし……

 ………溢れでるだらしなさがすごい。こんなにだらしないを具現化してる人いるんだ……!

「あ、えっと………?」

「あぁ!ごめんね!私は代永栄夢えいむの姉です!ほら!上がってくださいな!」

 あの少女は「栄夢」っていうのか。だからさっき「えい」って読んでたんだ。

 ってその肝心な栄夢はどこにいるんだ?

「………あの、栄夢さんは?」

「ほぇ?まだ帰ってきてないよ?まさか私も妹より友達が先に家に来るなんて思わなかったなぁ。あはは」

 まじで!?帰ってきてないの!?

 まぁ、確かに私、自転車で来たし…来るの早すぎたのかな……?

「そうですか……」

「えいの部屋で待ってればすぐ来るって!ほら、お入りお入り」

 ………まぁ、来いって言われたんだし、部屋で待つくらい、いっか。

「お邪魔します……」

 私は玄関で靴を脱ぎ、家の中に入る。

 栄夢の姉は部屋まで案内しながら私に話しかけてきた。

「いやーね?『人が来るから隠れてて』て言われたんだけどね?まさか、えいが帰ってくる前に来られちゃったから仕方ないよね~!というより、何で隠れる必要あったんだろう?あはは、わっかんね」

 ………非常に申し訳ないが私には分かる気がする。

「あはは……」

 まぁ、そんな事、失礼すぎて口が裂けても言えないが。

「でもまさかあのえいに、しーちゃん以外の友達を連れてくる日が来るとは……!!お姉さんは感激だよ………!!」

 栄夢の姉は眼鏡を外して泣いている演技をしている。

 オヨヨヨ、という感じだ。

「………と。はい、ここがえいの部屋だから適当に寛いでてね。私は隣の部屋にいるから何かあったら何でも言って。それじゃあ、ごゆっくり~!!」

 栄夢の姉はそう言い残して隣の部屋に入っていった。

 ………個性的だった。栄夢とは全然雰囲気が違う。もしかして栄夢も家だとああいう感じなのか!?だとしたギャップすごっ!!

 まぁ、とりあえず、部屋に入らせてもらおう。

「………失礼します?」

 恐らく誰もいないだろうが私は一応一言断って扉を開ける。

「………暗っ!」

 部屋は遮光カーテンでもされているのか光がなかった。

 私は入り口近くにあった電気のスイッチを入れる。

「……うん。なるほど………」

 部屋の中は本やらゲームのディスク入れやらがたくさん積まれていた。

 ………これは散らかってるのか?

 それとも本人的には片付けられているのか?

 どっちだ!?

「とりあえず座ろ……」

 私は空いている場所に腰を降ろすことにした。

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