第3話 え?誘うの?

「じゃあ行ってきます」

 そう言って玄関を出た私は、自転車を出してまたがり、かごにカバンを入れてペダルに脚をのせる。

 …結局昨日は聞きそびれてしまった。入学式が終わるや否や自由解散となるなんて。

 香はいつの間にか帰ってしまっていた。せめて少しは話したかったのだが。

 しかし!本番はこれからなのである!昨日の入学式なんて序章に過ぎん!本編は今から始まるのだ!

 私が紡ぐ青春ストーリー!そのためにもまず香とは仲良くならなければ。友達も作れないで何が青春か。少なくとも私の描いた青春ではない。

「よし!」

 私はペダルにのせた足にグッと力を込めて自転車を漕ぎ始めた。

 しばらくして、学校につく。

 教室に入ると、お目当ての香さんがいました。

「香ちゃん!おはよ」

 首を下げて一人で机とにらめっこしている香に話しかける。

 するとバッと頭を上げてギュルンと振り向く。そしてパァとまぶしい笑顔を見せてくれた。

 なんだろう。昨日少しでも疑った自分を殴ってやりたい。

 こんな純な笑顔を見せる少女がクスリなんてやるわけ無いじゃないか。

 まったく。危うく自分も落ちるところだった。

 ん?何にかって?……恋さ…!

「菜千ちゃん!おはようござい…じゃなかった。お、おはよー?」

 挨拶がぎこちない。これはあれか?昨日、敬語じゃなくていいよと言ったから敬語をやめようとしてくれてるのか?


 キュン!


 か、かわいい………!なんて健気!

 ってそうじゃない。まずは謎の解明だ。なぜ昨日あんなに火照っていたのか。

 しかも、良く見ると昨日拾ってあげたものと同じハンカチを机に広げている。

 ………これ、なんかあるな。

「あ……香ちゃん?何でハンカチ広げてるの?」

 カバンを机の脇に掛けながら質問する。

「……!?こ、これですか!?あ、えーとこれ!?これは………その、ち、違うんですよ!?そういう訳じゃないんで、じゃなくて……じゃないんだよっ!?」

 あ、思い出した。昨日もこんな怪しさ満点なセリフを聞いて今と全く同じ疑問を持ったんだった。彼女の無垢な笑顔に消されかけていたが。

「……敬語の方が楽なら別に無理してやめなくていいよ?」

 無理して敬語をやめようとしている様子もかわいいと思っていたが、怪しさ満点な人がやると、なんか違う。

「本当ですか?助かります。ってそれより、本当に違うんですからね!?」

 いやだから何が?何が違うのか主語無くて察することもできないんですが。

「いや、ごめん。何がどういうことか…」

 必死になって私の肩を掴んでいる香はハッとしてだんだんと落ち着く。

「……ごめんなさい………あの、今日の放課後空いてますか?お話ししたいことがあるんです………」

「べ、別に大丈夫だけど……」

 いや、急展開すぎる。待って。この流れって、告白ですか?まだ出会って二日ですよ?早くない?

 いや、待って、このまま終わらないで!まだ前向かないで!あ、あぁ………これもう放課後まで待たないとダメなやつじゃん……ちょい……!


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