第326話 私と直接勝負しろ!

「みんな! スキルに負けないで!」


 意識を取り戻してもらおうとして正人は叫ぶが、三人は反応しない。攻撃を続けている。


 里香の持つ片手剣が振り下ろされたので半透明の盾で受け止め、冷夏が突き出した薙刀はナイフで受け流す。『縮地』で背後に回り頭を狙ったヒナタはハイキックを放とうとしたので、軸足を先に蹴って転倒させた。


 操られているため複雑な攻撃はできないため、正人は複数の探索者相手に手加減をしても優位に進めているようにも見えるが、大教祖が動かないことに内心で焦りを感じていた。


「人に戦わせてお前は見ているだけかッ! 私と直接勝負しろ!」

「……いいだろう。望み通りにしてやる」


 大教祖は挑発に乗ったわけではない。万能とまで呼ばれる敵の能力を把握するべく、新しいスキルを発動させる。


 ――石槍。


 地面から石で作られた槍が数十ほど出現した。半透明の盾は接近戦の攻撃を防ぐのに使っており、また回避は間に合わないため一部が直撃してしまい、正人の腕は吹き飛び腹に大穴が空いてしまう。さらに破片が右目に突き刺さってしまい潰れてしまった。なんとか即死は避けられたが重症だ。近くにいた里香たちも攻撃を受けていて行動不能になり、痛みと衝撃によって気絶している。


 大教祖は再び石槍を再び放つ。今度はスキル発動が間に合い『障壁』によって里香たちごと守った。


「スキル攻撃は無効化しなかったか。やはり新たなスキルを覚えるには条件が必要だな。少なくとも攻撃を回避しながら新しいスキルは覚えられない。ふむ……逃がさなければこれ以上、脅威になることはない、か……?」


 推測は概ね正しい。スキル発動の動きを把握できたとしても、再現する時間が必要だ。しかしそれは大教祖のスキルを再現する場合に限る。自身の行動に基づく経験であれば『スキル昇華』は即時発動するのだ。


 ペルゾが生きていれば、戦いの中でも進化すると教えてもらい大教祖は余裕など見せていなかっただろうが、今は助言を与える相手はいない。


 死にかけながらも戦意は衰えず、仲間を守るために立ち上がる正人から力が湧き上がる。


『生存本能、瀕死の重傷を負っている限り、身体能力とスキルの効果が30パーセント向上』


 スキルによってベースの能力が高まった。『天使の羽』を発動させ、光の粒子によって瀕死の里香たちの傷を回復させながら、正人は大教祖を指さす。


 ――視野拡大。


 目に見える範囲が広がってペルゾが近づこうとしているのに気づく。


 ――小刀:氷。

 ――氷結結界。

 ――合成スキル:氷結小刀。


 氷で作られた無数の小刀に道明寺隼人のユニークスキル『氷結結界』を付与される。『転移・改』によってスキルを変化させられると気づいた正人は、スキルを融合させたのである。


 凍結効果の付与された小刀が放たれ、ペルゾの全身に突き刺さる。既に死亡しているため流血はなく、痛みを感じない体は前に進もうとする。足を動かそうとして……止まった。小刀の発する冷気が体内を浸食して筋肉を凍らせたのだ。もし相手が生者であったなら凍死していたことだろう。


 全身が氷になってもペルゾは動こうとする。


 ピシッ。


 割れる音がした。

 顔にヒビが入る。


 ピシッ、ピシッ。


 全身にヒビは拡大するがペルゾは止まらない。足を一歩前に出し……粉々に砕けた。


「まだ、そんな力が……?」


 正人の実力を見切ったと思い込んでいた大教祖は驚いていた。戦えば戦うほど強くなる。それも予想を上回るスピードだ。底の見えない恐ろしさがある。戦力が足りなくなった状況でスキルを使って戦い続けるのは得策ではない。誤算が続いて計画を修正する必要が出てきた。


「次は大教祖、お前だッ!」


 あえて止血だけに留めた正人は、重傷を負いながらも白い羽を羽ばたかせて上昇する。


「我を殺そうなんて思い上がったなッ!」


 懐から一丁の拳銃を取り出した大教祖は、向かってくる敵に標準を定める。


 ダンジョン内だと銃器は無効化されるので無視しても問題はないはずだが、正人は直感に従って進行方向を変えた。


 数秒後、先ほどまでいた場所に白いレーザーが通過する。


 異世界は魔石を使った技術が進んでおり、地球では製造されてないレーザー銃を使ったのだ。初見で殺せると思っていた大教祖は舌打ちをしながら再びトリガーを引く。


 正人を守るように動いた半透明の盾と衝突すると蒸発した。『自動浮遊盾』では防御力が足りない。『障壁』を使ったとしても連発されれば突破されてしまうだろう。強引に近づくのは難しそうだ。


「スキルではなく道具ならコピーできないだろ? このまま死ね」


 強気な発言をしてはいるが消費エネルギーは多く、レーザー銃の使用はもって一分。レーザーが徐々に正人を捕らえることは多くなったが、大教祖は倒しきれないと感じていた。


 切り札で倒しきれなければ撤退を視野に入れなければならないと、脳内で計算しながら攻撃を続けている。


 半透明の盾をすべて消滅させるのに三十秒、障壁を突破するに五十秒も使ってしまったが、正人を守るものはなにもない。運命の分かれ目ともなる最後の一発を放つ。


 ――短距離瞬間移動。


 スキルによって回避されてしまった。大教祖の背後に回った正人は攻撃しようとナイフを突き出すが、既に大教祖の姿はない。レーザー銃の中にあった魔石のエネルギーが切れてしまい、戦いに勝てないと判断して逃走したのである。


『索敵』スキルで周囲を探してもマーカーはない。


 残っているのは、精神を支配された三人のみだった。


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