第324話 悪く思うなよ

 ――短距離瞬間移動。


 隠れていた正人がペルゾの側面に出現した。


 ――暗殺。

 ――短剣術。

 ――身体能力強化。

 ――怪力。


 捕獲は不可能だと判断した正人は、複数のスキルを同時起動させてペルゾの首を狙ってナイフを横に振るう。『暗殺』スキルによって攻撃に移っても存在感は薄れたままであるため誰も気づけない。


 ナイフが皮膚に食い込み、骨を断つ。


 驚愕した顔をしたままペルゾの頭が落ちると、力が抜けて倒れた。


 体から血を流れ出していてピクリとも動かない。


 完全に死亡しているのを確認すると正人はヒナタに駆け寄った。


「怪我は大丈夫……!?」


 腹や腕を触って確認していく。光の粒子による回復効果が発揮され『エネルギーボルト』で空いた穴は塞がっていたが、痛々しい傷跡は残っている。


「私の力が足りなかったばかりに……ごめん」


 怪我をさせてしまったことに対する謝罪だった。


 リーダーとして指示が完全に間違っており責任を感じているのであればまだわかるが、強敵と戦った際に負った必要な傷までも責任を感じる必要はない。ある意味、侮辱でもある。


 仲間からすれば納得はいかない。対等な相手に対して放つ言葉ではないのだ。


「あやまらないで!」


 だからだろう。珍しくヒナタは非難するような口調で言った。


「あ、うん。そうだよね……」


 鈍い正人でも今の発言が良くなかったと気づく。ばつが悪そうな顔をしていた。


 気まずい空気が漂う。


 そういったのが苦手なヒナタは、無理やりにでも笑顔を作って状況を変えようとする。


「ねーねー。役に立った?」

「もちろん。助かったよ」

「えへへ。いつもお姉ちゃんたちが活躍しているから嬉しいなぁ! 今回は超気合いいれたんだからもっと褒めて良いよっ!」


 別に劣等感を覚えているわけではないが、ヒナタは遠距離系のスキルは覚えておらず、また攻撃力も低い。戦闘ではサポートすることが多いため、今回のように直接的な貢献をすることは少なかったのだ。ようやく自分も貢献できたと正人の言葉に喜んでいたのである。


「ヒナタさんはすごい。今回も助けられた」

「いいね! いいね! すっごく満足した!」


 パーティのリーダーに褒められて嫌な気持ちになんてならない。上機嫌になっている。


「傷跡は消すよ」

「うん! お願い!」


 許可が出たので『復元』スキルによって傷が塞がった跡を消していく。


 つるりと光沢のある十代の瑞々しい肌に戻った。ムダ毛は一切なく生まれたてのような弾力もある。


「すごーーい! 美肌になった! お姉ちゃんに自慢しよっかな!」


 腕を触りながら喜んでいるヒナタだったが、脳内に冷夏の声が届いて動きが止まる。


『十人ぐらいの人が二階層に入ってきた』

『探索者?』

『ううん。違う……あれはなんだろう……どこの国の人かな……肌は褐色なんだけど、見たことがない顔立ち……襲ってきた人に似ている』

『それって大丈夫なの!?』

『すぐに離れて砂の中に隠れたから、今のところは気づかれてない』

『よかったぁ……。正人さんに報告するから待ってて』


 ヒナタは『念話(限定)』スキルを解除すると、急いで説明を始める。


「お姉ちゃんたちの所に、さっき倒したような人たちがたくさん来たみたい! 外国の人……じゃないよね?」

「扱っていた言語と私たちのことを地球人と呼んでいたことから、異世界に住んでいた人間の可能性が高い。他にも仲間がいたと思ったほうがよさそうだ……」


 戦闘中にわかっていたことではある。


 一族ごと転移してきた種族もあるため、むしろこの流れは自然だと正人は考えていた。


「二人に合流するべきかな? 気づかれないように何をするのかしらべ……!?」


 会話している最中に『索敵』に反応があった。突如として真後ろに赤いマーカーが浮かんだのだ。真後ろである。


 振り返るとペルゾの前に一人の男が立っていた。


 シャツまでも真っ黒なスーツを着ており、四角いメガネをかけている。長い銀髪をオールバックにしていて褐色の肌をしていた。顔立ちは地球のどの種族とも似ていない。今の正人なら一目で異世界人だとわかる。


「だから一人で戦うなと言ったのに」


 敵である正人を前にしても、視線は倒れたペルゾに向かったままだ。あまりにも隙だらけ。全力で『毒霧』でも放てば仕留められるだろうが、なぜか正人の体は動かない。


「悪く思うなよ」


 しゃがみ、頭部を失ったペルゾの体に触れる。


 ――クリエイトアデッド。


 あれは谷口にも使われた生物をモンスターに変換する恐るべきスキルだ。レア度は非常に高く復元に勝るとも劣らない。


 死体が起き上がると、近くに転がっている頭を拾った。脇に抱えて敵の方を向く。


「我が友人はまだ戦える。正人君、再戦と行こうじゃないか」


 ペルゾを友人と呼ぶ存在に、二人の警戒心が高まる。


「お前は……何者だ……?」

「ふむ、そうだな……名前は捨てたが、肩書きだけなら教えられる。我こそがラオキア教団大教祖だ」


 敵が名乗った瞬間に正人は怒りによって思考は憎悪に染まる。


 真偽の確認なんて不要だ。考えるよりも先に体が動く。


 ――短距離瞬間移動。


 大教祖の背後に回る。


 ――毒霧。


 大量の魔力を込めて放ち、紫色の霧が周囲に立ちこめて大教祖とアンデッド化したペルゾの姿が見えなくなる。


 倒したわけではない。


 二人とも先ほどから数メートル離れた場所に立っていた。


「転移スキルか……」


 冷夏の報告があってすぐにペルゾの所へ来たことから、転移系のスキルを持っていることは予想できた。


 正人は『風刃』を放つ。不可視の刃が大教祖に向かうが、当たる直前で霧散してしまった。


「スキルの無効化!?」

「よくわかったな。我を殺したいのであれば物理攻撃しかないぞ」


 不敵に笑う大教祖の余裕は対正人用に覚えた切り札にあった。



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