第323話 やばっ!

「倒れてはいるけど、生きているみたいだね」


 死ねば『探索』スキルによって浮かんだマーカーは消えるのだが、ペルゾのは残っている。赤いままであることから、正人は生きている判断して武器を持っていないヒナタを背に隠して警戒していた。


 尋問したいことはある。


 止めは刺さない。


 意識を失っているようであればロープで拘束しようと考えていたのだが、ピクリと指が動いてゆっくりとペルゾが立ち上がる。


 額が割れて頭から血が流れ出ていて、全身傷だらけだ。咳き込むと吐血してしまい今にも瀕死である。


『死にたくなければ、これから聞くことに嘘偽りなく答えろ』

『……断る』


 一階層で捕まえたダンブルドとは違い、戦士としての強いプライドを感じた。例え拷問したとしても簡単には情報をはかないどころか、隙を見て自害するだろう。実力は正人が上回っているものの生け捕りは難しい。


 どちらかが死ぬまで戦うしかないと感じ取った正人はナイフを構える。


 後ろにいるヒナタは鳥人族の死体から短槍を奪い取って構えた。薙刀を使っている姉から長物の扱いについては教わっていることもあって、隙がないように見える。


 時間をかければ『自己回復』によってペルゾの傷は癒えてしまう。倒すなら今すぐだ。様子見なんていってられない。


 ――短距離瞬間移動。


 背後に回った正人は首筋にナイフを突き刺そうとする。


 いくつか予想していた行動パターンの一つであったため、ペルゾは敵が姿の消えた瞬間からしゃがんでいた。無事に回避するとスキルを使う。


 ――エネルギーボルト。


 異世界では基礎スキルとして誰もが覚えており、ペルゾも当然のように使えるスキルだ。発動速度、連射性能に優れていて、十にも及ぶ光の矢が正人の腹を突き破っていったので、回復しようと距離を取ろうと後ろに下がる。


『それも予想範囲内だ』


 超至近距離ではなくなったため強力なスキルが使えるようになった。


 ――竜巻。

 ――障壁。


 攻撃されたのと同時に正人は防御のスキルを発動させた。スキルによって発生した嵐は地面や周囲の建物の斬り刻みながら吹き飛ばすほどの威力があり、防御に専念しなければならず別のスキルを使う余裕はない。『苦痛耐性』で意識を失うことはないが、腹から血は流れ出ていて長くは持たないだろう。顔は青白くなって力が抜けてきていた。一方のペルゾは『自己回復』を使用して傷を癒やしている。


 ――縮地。


 一瞬にしてペルゾの背後に迫ったヒナタが短槍を突きだそうとするが、『風壁』によって右に体ごと流されてしまう。


 光の矢がヒナタを囲うようにして出現してた。


「やばっ!」


 体をねじって致命傷になりそうな攻撃は避けられたが、腕や足、腹に突き刺さってしまう。


 苦痛で顔を歪めながらも『縮地』を使って後ろに下がる。だがこれも悪手であった。


『意外と同じ行動をとるんだな。悪いクセだ』


 着実に実戦経験を積んでいるとはいっても、異世界で戦いに明け暮れていたペルゾとの差は歴然としている。特にとっさの行動が似ていることもあって読みやすい。


 ペルゾは今なら正人たちと互角以上に戦えると思い込んでしまった。


 人質を取る必要はない。倒れているヒナタに左手を向ける。


 ――エネルギーボルト。


 頭部を狙って光の矢が進む。動けないヒナタは近づいてくる死を見ていることしかできないが、当たることはなかった。彼女を守るようにして出現した半透明の盾がすべての攻撃を防ぐ。


 とっさにペルゾは上空を見る。全身に切り傷を負った正人がいた。背中から白い羽が生えていて回復効果のある粒子を放っている。『障壁』スキルを解除するのと同時に『天使の羽』を使って空中に逃げ出したのだ。移動と回復を同時に行えるため、正人の腹に空いた穴からの出血は止まっている。少しすればヒナタの傷も塞がっていくだろうが、スキルの効果を正確に把握できてないペルゾは気づいていない。


 既に無力化していると思い込み、正人に攻撃を集中する。


 ――エネルギーボルト。


 連続して光の矢を放っているが当たることはない。隙間を縫うようにして移動して回避を続けている。


『クソッ』


 思うとおりに当たらないため、舌打ちをしたペルゾは攻撃方法を変える。


 ――風塊。


 広範囲で空気を圧縮すると押しつぶすために落下させた。直接視認はできないが、魔力視によって動きを察知していた正人は『短距離瞬間移動』によって当たる直前で、さらに上空へ移動して回避する。


 ペルゾは正人の姿を探すことに集中して周囲の警戒が疎かになってしまい、傷が塞がって戦線復帰したヒナタに気づけなかった。


 ――縮地。


 完全な状態とはいえないが、槍で攻撃するぐらいの力は戻っている。


 右の肺に突き刺した。


「ゴフッ、ガハッ、ガハッ」


 血を吐き出して咳き込んだペルゾは、集中力が途切れてスキルの使用を中断してしまう。自由になった正人は姿を隠して視界内にはいない。『隠密』スキルによって隠れて居るため、『索敵』に専念しなければ見つけられないだろう。


 攻撃してきたヒナタは短槍を手放して既に離脱している。


 反撃、回復、索敵……どれをするか悩んでしまい、数秒ほどペルゾの行動が止まってしまう。これが致命的な隙になってしまった。


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