第322話 お姉ちゃんたち頑張ってね!
スキルでペルゾを攻撃しながらも正人は『復元』を使ってヒナタの骨折や打撲を回復させたが、意識は戻っていない。戦闘中であるため放置できず、抱きしめたままである。
『地球人ごときが生意気な!!』
スキルに目覚めたばかりの人間に追い詰められていることに苛立ったペルゾは、『竜巻』スキルに通常の三倍以上の魔力を注ぎ込んで発動させる。
自身を中心に天井まで届くような嵐の渦が出現し、強烈な突風によって正人たちは吹き飛ばされてしまう。距離を取っていたこともあってかすり傷ぐらいのダメージしか受けてないが、容易に近づける状況ではない。また砂が舞って敵が視認できないため、反撃を警戒した三人は立ち上がりながらも敵の様子をうかがう。
しばらくして竜巻が消えた。
空中に漂う砂が減って視界が戻るとペルゾはいなかった。
予想外の結果に冷夏は思わずつぶやいてしまう。
「え?」
「逃げたみたいだっ!」
スキルによって動きを捕捉していた正人が叫びながら、指さした空中に後ろ姿が見えた。距離にして一キロほどだろうか。正人との対決は危険だと察し、怒りを抑えて撤退を選んだのである。
追いかけようとした瞬間、地面が揺れた。
調教スキルで操られている十数匹の巨大なサソリが出現して、正人たちを取り囲んだのである。
「この場を任せても良い?」
「もちろんです」
「倒したら追いかけますから」
「助かる」
ラオキア教団とつながりがある褐色肌のペルゾを逃がしたくはない。里香と冷夏にモンスターとの戦闘を任せると、抱きしめたままのヒナタを置こうとするが、腕を掴まれてしまった。
「気がついたんだね。体調は大丈夫?」
首を縦に振りながら元気な声を出しながら口を開く。
「ヒナタは連絡役としてついていくから、このままでお願い!」
「どうしても?」
「うん!」
通信機器が使えない広いダンジョンにおいて、『念話(限定)』スキルの利用価値は高い。お互いの状況を把握するためには、ヒナタは連れて行った方がよいのは間違いない。少し悩んだ正人だが提案を受け入れることにした。
「武器は壊れちゃってるんだから無理しないでね」
「はーーい」
首に腕を回してギュッと抱きしめた。
「お姉ちゃんたち頑張ってね!」
里香と冷夏の眉がピクリと上がるが、ヒナタの無邪気な笑顔を見たら嫉妬心は湧き上がってこなかった。
――隠密・改。
『転移』でやったときと同じように、魔力の範囲をヒナタまで拡大すると二人の存在感が薄くなった。スキルの応用力の高さに感心しながらも正人は続けてスキルを使う。
――短距離瞬間移動。
敵は移動中であるため位置を確認しながら、短距離の転移を繰り返しながら追いかけていく。『隠密』の効果もあってペルゾの索敵には引っかかっていない。落ち着ける場所につかないと気づかれないだろう。
地下二階の奥へ進んでいくペルゾは鳥人族の拠点に着いた。
『凍り付いている……』
砂漠のダンジョンだというのに、百名以上が住む鳥人族と建造物が凍っていた。ペルゾが移動したのを察知した正人は、ダンブルドから聞いた長老の話を聞くよりも仲間を優先して、広範囲の攻撃をして全滅させたのである。
生き残りを探すため、ペルゾは地上に降りて『索敵』スキルに集中する。
『!!』
ここでようやく『隠蔽』スキルを看破して自分が追跡されていたことに気づいた。
振り返り敵を視認しようとする。
――暗殺。
――短剣術。
――怪力。
――身体能力強化。
ヒナタを抱きかかえたままスキルを多重発動させた正人がナイフを振り抜く。
気づくのが数秒遅れていたらペルゾは胸を貫かれて即死していただろうが、かろうじて右腕を犠牲にして回避する。
『正人ッ!!』
痛みに顔を歪めながら憎い敵の名を叫ぶ。
大教祖に警告され、仲間を人質にとって戦おうとしたのだが、行動は裏目に出てすべて失敗している。鳥人族を使って札幌を襲撃するとこまでは順調に進んでいたのだが、正人の妨害によってすべてが終わってしまうかもしれない。焦燥感に駆られて思考が単純化される。
戦うか?
逃げるか?
二択がペルゾの脳内に浮かび、地球人ごときに負けたくないとの理由で前者を選ぶ。『自己回復』で傷口を塞ぎながら『飛翔』スキルを使って空に飛んだ。
『生き残りがいたら侵入してきた地球人を殺せ!』
叫び声に呼応するような鳥人族はいなかった。
『使えないヤツらだ……ッ!』
『ならお前は優秀なのか?』
ヒナタを置いてきた正人は、白い羽を生やして接近してナイフを振るうが、今回は空振りとなってしまった。
反撃に複数の小さな竜巻が襲ってくる。
――短距離瞬間移動。
背後に回った正人は、ペルゾの背中にナイフ突き出す。転移系のスキルを使うことまでは予想できたが、体は反応できず皮膚を破り筋肉まで斬り裂かれると、二人はもつれるようにして落下していく。
地面に衝突する寸前で正人は『短距離瞬間移動』で離れてヒナタの元へ戻った。
「ただいま」
「おかえりー! あの人は倒せたのかな?」
落下した場所にはペルゾが倒れていて起き上がる気配はなかった。
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