第319話 多分、スキルの方だね
移動した先は砂漠の上でない。二階層に続く階段の入り口である。ここだけは流砂の範囲外であったため安定していたのだ。
先ほどまでいた建物を見ると屋上の部分しか残っておらず、他はすべて砂に飲み込まれていた。
「ダンジョンのトラップだったんでしょうか……」
普段から流砂が発生するのであれば、外から素材を持ってきて建物なんて作らない。運悪く突発的に発生した罠だと冷夏は思ったのだ。
「もしかしたらスキルじゃない? モンスターが地割れのスキルを使っていたし、それに似たことをされたのかな?」
自分で言って可能性はありそうだと気づいた里香は空を見て敵影がないか確認する。
青空が広がっているだけで誰もいなかった。
「多分、スキルの方だね」
「どうしてそう思うんですか?」
「罠感知スキルに反応がないから」
ついでに言えば『索敵』スキルにも反応がない。正人の発言によってダンジョンのトラップであることは否定される。
「あ、なるほど……すると、どこから敵に見られているんですかね?」
説明に納得した里香は周囲の砂漠を見るが、何も見つからなかった。
「索敵スキルの範囲外にいるみたい。姿が見えないならあえて探す必要はないよ。下に行こう」
目的はダンジョンの調査ではない。下の階層にいる鳥人族の長老を捕まえて、これからの行動計画を聞き出すことにある。
時間はいくらあっても足りないので流砂についてはこれ以上触れることなく、四人は階段を降りていった。
◇ ◇ ◇
二階層は砂漠の地下に作られた洞窟のような環境だった。地面は岩肌で上は砂がびっしりと詰まった天井だ。先端の尖った石柱が点在していて隠れられる場所はある。モンスターがいないか警戒して脳内のマップを確認すると、前方五百メートルぐらいの位置に赤いマーカーがあった。
「前方にモンスターがいる。私は先行して様子を見てくるから少し待っていて欲しい」
「わかりました。お気をつけて」
里香を筆頭に心配している三人に軽く手を振ってから、正人は『隠密』スキルを発動させて存在感を薄くさせると、石柱の陰に隠れながら移動を始める。
まだモンスターの陰は見えないが、遠くに半壊した建物が見えた。あれは先ほどまで正人たちが休憩につかっていたものであり、一階層から落ちてきたのだ。『転移』を使わず流砂に飲み込まれていたら体は押しつぶされ、死体になっていただろう。
(流砂がモンスターの使ったスキルで発動したのであれば、二階層にいる可能性が高い。嫌な予感がするな……)
レベルの上がった人間の直感というのはバカにできず、赤いマーカーの近くにまで来ると想像を超える光景が広がっていた。
褐色肌の人間が空中に浮かんでいる。性別は男、上半身は裸だ。体は鍛えられていて腹筋は割れており胸は厚い。周囲にはいくつもの小さな竜巻があったことから、スキルで操っていることがわかる。魔力視で動きを観察しながら様子をうかがっていると、百人近い鳥人族がやってくると男の前で膝をついて頭を下げた。正人の目には、褐色肌の男を上位の存在と扱っているように見える。
『ペルゾ様。侵入者は逃げたようです』
『ふむ。意外とやるな。大教祖から万能の人間と呼ばれるほどはあるな』
ラオキア教団のトップを示す言葉が聞こえ、正人は驚きスキルの管理が甘くなる。数瞬ではあるが存在感は僅かに強くなってしまい、『索敵』のスキルを持つ褐色肌の男――ペルゾに気づかれてしまう。
『あそこに何かいる。調べてこい』
見つかれば多勢と戦わなければならない。またペルゾから漏れ出す魔力は驚異的であり不利な状況だ。鳥人族がいる状態で戦いたくないと判断し、正人は逃げると決めた。
――転移。
二階層の入り口まで戻る。脳内のマップを確認すると、数え切れないほどの赤いマーカーが先ほど隠れていた場所に密集していた。とどまる判断をしていたら激しい戦闘が発生しただろう。
「何かありましたか?」
険しい顔をした正人に里香が緊張した声で話しかけた。
「この先に鳥人族が約百人、それと浅黒い肌をした男が一人いた。恐らくラオキア教団の関係者だ」
三人が息を呑む。
鳥人族とラオキア教団がつながっていて札幌への侵略にも関わっているのであれば、人類の裏をかいて攻撃すらでき、状況は思っていたよりも悪い。
裏切り者がいる最悪の状況だと、誰もが理解してしまった。
「どうして……侵略者なんかに手を……」
「わからない。けど、許せない理由がまた一つ増えたのは間違いない」
戸惑う冷夏の肩に手を置きながら、正人は殺意の籠もった声を出す。
谷口の死が死ぬ原因を作った教団は許せない。鳥人族と関わっている男であれば、ある程度の立場を持っていることは期待でき、捕まえれば大教祖につながる情報が手に入るかもしれない。小さい集会場をいくつ潰してもたいした情報が手に入らなかったこともあり、重要人物を押さえることはラオキア教団壊滅に大きく貢献するだろう。
「そうですね。谷口さんの仇はワタシたちで取りましょう」
「うん! ヒナタも同じ気持ち! 優しいおじさんが、あんな最後を迎えたなんて絶対に許せない。お姉ちゃんもだよね?」
「もちろん」
三人とも戦意は高い。ヤル気は充分だ。これからどうやって戦うかさえ決まれば、すぐにでも動き出せるだろう。
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