第320話 突破力よりも機動力重視したい
しかし人数差があり敵の能力がわからないため、正面から戦いを挑むわけにはいかない。
計画を練る必要はある。幸いなことに赤いマーカーは動いていないため話す時間ぐらいはありそうだ。
「それでどうします?」
「人間の方は索敵能力が高く、強い。彼と戦う前に鳥人族の数を減らしておきたい」
スキルによって存在感を薄めたのにもかかわらず気づかれてしまったので、不用意には近づけない。敵の戦力を削りきるまでは、褐色肌の男との戦いを避けたいというのが正人の正直な感想である。するととる方法というのは限られてくる。
「私がスキルを使って敵を倒しながら翻弄するから、三人は階段付近で待機してほしい。一階層から戻ってくる鳥人族がいたら排除してくれないかな?」
地上にいた鳥人族がモンスターを引き連れて拠点に戻ってくる可能性はある。背後を心配していたら実力は発揮できないため、重要な仕事であるのは間違いないのだが、正人に危険な仕事を押しつけてしまっているようで三人は納得しきれない。
「パワーアップした転移で一緒に移動するのはどうでしょうか? 戦力分散するより集中する方が生存率は高まるかと思います」
里香の意見も間違ってはいないが、『転移』は移動先をイメージしなければ使えないため、戦闘中だと使いにくい。また逃げる場所も限られてしまうため、機動力は大きく落ちてしまう。『短距離瞬間移動』は全員が触れてなければ使えない。
戦力を集中したとしても動きがにぶってしまえば、それもリスクだ。どちらがよりマシか考えた結果、正人は首を横に振って提案を却下した。
「突破力よりも機動力重視したい。敵を倒しながら、いろんな場所に移動して暴れ回るよ。私は大丈夫だから。お互いにベストを尽くそう」
少しでも心が軽くなってくれればと、あえて重く受け取られないよう軽い口調で言った。
何を言っても意見は変わらないだろうとわかり、三人とも提案を受け入れることにする。
「わかりました。でも、何かあれば頼ってください」
「そうだよー! ヒナタだって戦えるんだから!」
「私も薙刀と力には自信があります。後ろは必ず守るので気をつけてくださいね」
仲間からの返事に満足した正人はうなずいてから、両手でナイフを持つ。
――転移。
正人はスキルを使うと先ほどまでいた場所に戻った。当然ではあるが周囲には数人の鳥人族たちがいて、すぐに気づく。
『人間がいるぞ!!』
『殺せ!』
武器を向けながら叫ぶと、近くにいる鳥人族が集まってくる。あっという間に囲まれてしまい逃げ場はなくなるが、褐色肌の人間は動かず静観していた。
(私の実力を調べるつもりか?)
これ以上時間をかけても動くことはないだろう。正人は攻撃するタイミングだと判断する。
――毒霧。
大量の魔力を注ぎ込んで、全方位に酸性の霧を放出した。近くにいる鳥人族たちは肌が溶け、骨まで見えてしまう。接近していた個体は即死だ。数メートル離れていても重傷を負ってしまい、回復系のスキルを使わなければ助からないだろう。
一瞬にして数十体もの仲間が戦闘不能になってしまい、鳥人族は後ろに下がる。
『何をしている! 全員突撃しろ!』
褐色肌の男が命令すると、怯えていた鳥人族は覚悟を決めた顔に変わった。鬼気迫った雰囲気を発していて、まるで死兵のようだ。
近くにいる鳥人族が斬りかかってきた。離れた場所からは弓を放つのもいる。『剣術』『弓術』といったスキルが使われているため、一つ一つが必殺の威力を秘めている。例え正人でも当たれば腕は吹き飛び、心臓は貫かれるだろうが、防御系スキルの『自動浮遊盾』によって意識せずともすべてを防いでしまう。
防御を考えずに攻撃できるメリットは大きい。特に囲まれているときは、周囲の状況を把握する余裕ができるので戦いが楽になる。
半透明の盾に防御を任せながら脳内に浮かぶマーカーを見ていると、マップが埋まっていない場所から次々と敵が来ているとわかった。同じ場所にいたら物量で押しつぶされてしまうだろう。
――短距離瞬間移動。
敵がいない場所へ一瞬で移動すると、さらに『短距離瞬間移動』を使って褐色肌の人間を避けながら、後続の敵が来ている場所まで移動する。
魔力の消費量は多いが、今の正人なら三分の一も消費していない。
空には数え切れないほどの鳥人族がいる。
――ファイヤーボール。
威力よりも数を優先した火球を数十ほど周囲に浮かべると放つ。狙いを定める必要なんてないほど密集しているため、次々と当たって鳥人族は落下していく。中には『障壁』を使って防ごうとした者もいたが、正人は第二陣、三陣と火球を立て続けにぶつけてくるため、耐えきれずに破壊されてしまう。脆い肉体は爆発には耐えきれず、体の一部が吹き飛んで落ちてしまった。
得意の超音波も『状態異常耐性』によって無効化されてしまい、無駄に終わってしまう。
対抗する手段を持たないため、数で上回っているのに鳥人族は劣勢であった。
そんな状況下でも褐色肌の人間は笑みを浮かべながら、正人の戦い方を見ているだけ。助けるような動きはしない。鳥人族を生け贄に捧げて能力を分析し、同時に消耗させようとしているのだ。
――短距離瞬間移動。
能力を分析されていることは正人も気づいていた。さらに二階層の奥へ行くことによって褐色肌の人間と距離を取り、索敵の範囲から完全に外れる。
これで鬱陶しい監視はなくなった。
前を見ると鳥人族の拠点が視界に入る。人口は数百程度と小さいが子供や老人の姿まであった。正人の姿を確認すると非戦闘員は家に逃げ込む。警備している兵たちが続々と集まり、さらに先ほどの戦闘で生き残っていた個体も家族を守るために戻ってきている。
鳥人族は大切な者を守るために戦う意志を見せ、正人は心がチクリと痛んだ。
なぜ争わなければいけないのか。
話し合いで平和的に解決できないのか。
余っている土地を渡したら行けないのか。
弱気な心が戦意を奪おうとするが、ここで折れるわけにはいかない。
鬼人族と戦ったときから、わかり合えるような関係にはならないと分かっている。野放しにすれば蟻人族のように支配範囲を広げようとするだろう。
例え無力な相手であっても、この場にいる敵はすぐさま殲滅しなければいけない。禍根は断つべきなのだ。
ギリと音が鳴るほど強くかみしめると正人は町全体を包み込む範囲攻撃を始めた。
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