第317話 全面的に協力しよう

『人類と敵対する行為は、お前たちの総意だったんだな』


 事情があるにしても身勝手すぎる考えに、正人は心が冷え切ってしまった。


 鳥人族を放置して北海道が占領されれば、さらに住みやすい場所を求めて東京まで勢力を伸ばすかもしれない。その時になって弟たちの生活が危ないと後悔するぐらいなら、自らの手を汚してでも早めに倒しておこう。そう決意するには充分な会話であり、一切の慈悲は与えないと覚悟を決めた。


 帰る場所のない鳥人族は妥協なんてできず、話し合いに意味はない。


 日本が選択できるのは侵略者に負けて土地を分け与えるか、それとも滅ぼすか、それだけである。


『正直にすべて話した! 助けてくれ!』


 殺気を感じ取ったダンブルドは泣き出しそうな顔をして懇願している。


 第三者から見れば哀れに感じてしまうが、正人の心を揺さぶるには足りない。むしろ他人の命は奪っておいて自分は命乞いするのかと、怒りを高めてしまい逆効果になってしまった。


 生き残った二人の鳥人族を捕まえると魔力を周囲に広げる。


 メイ宅配便が使っていた『転移』は自身の体全体を魔力で包み発動していたが、これを接触している生物にまで広げたらどうなるか、死んでも惜しくない相手だからこそ、正人は今この場で実験しようとしているのだ。


『なにをするつもりだ……?』

『さぁな』


 保有している魔力の半分を使って鳥人族の二人を完全に魔力で包み終わると、スキルを発動させる。


 ――転移・改。


 狙い通りの効果を発揮すると、正人と鳥人族の姿はダンジョンから消え、豪毅の執務室に現れる。


 ちょうど北海道の報告書を確認していた彼は、手に持っていたタブレットをデスクに落として目をまん丸と開いていた。


「正人君……この状況はなんだね?」

「北海道の未発見ダンジョンに鳥人族が潜んでいました」

「そういう意味では……まぁ、いいか。なるほど、ね」


 どうやって来たかを聞こうとしていた豪毅だったが、正人が言ったことの重要性に気づいて考えを改めた。


 ぎろりと鋭い目をすると床に転がっている鳥人族を見る。


「ヤツらの目的はわかったか?」

「我々を殺して土地を奪い取るということぐらいだけです」

「ほう。よくわかったな。言葉は通じたのか?」

「スキルのおかげでわかりました」


 他言語を理解するスキルの存在は一般的にも認知はされている。便利であり、また数が少ないため市場に流れることはないが、探索協会の職員に一人だけ覚えている人間がいる。正人は彼に続く二人目の『多言語理解』スキル保持者だと判明したのだ。


「それを私に言っても良かったのか?」

「鳥人族とラオキア教団を根絶できるなら」


 強い覚悟を感じる声だ。豪毅は谷口が死亡したことによって、特にラオキア教団への恨みが募っていると感じていた。一方的に使い潰すには惜しい男で、扱いを間違えれば探索協会が揺らぐ危険性もある。その他の探索者と同じだとは考えない方が良いだろう。積極的に協力する姿勢を見せると決めた。


「我々にも利益のある話だ。全面的に協力しよう」

「ありがとうございます。早速ですが生け捕りにしたので後を任せても?」

「もちろんだ。我々の方でも尋問して情報を手に入れよう。何かわかったら連絡する」

「しばらくはダンジョンに潜っているので、チャットの方でお願いします」

「わかった」


 鳥人族の二人を手放すとダンジョンに戻ろうとして、ふと止まる。暗い瞳で豪毅を見た。


「ラオキア教団について進展はありましたか?」


 正人の体から魔力が洩れていて、心の底から震え上がるほどの恐怖を感じる。レベルを上げた豪毅だからこそ耐えられたが、一般人であれば失神していただろうほどだ。


「……一つだけ……大教祖は日本にいるらしい」

「場所はわからないと?」

「全力で探している」

「わかりました。期待していますね」


 会話をすぐに打ち切ると、正人は『転移』スキルを使ってダンジョンに戻った。


「ラオキア教団は恐ろしい男を敵に回したな……」


 残された豪毅はつぶやくとスマホを手にして電話をかける。通話相手は『多言語理解』を覚えている人物である。他にも解剖や生物に詳しい人材まで集めると、一般には公表できない非人道的な尋問を開始する準備を進める。


 ダンブルドは探索協会の手によって隅々まで調べられ、死ぬこととなるだろう。



 ◇ ◇ ◇



 拷問の後が残っている建物には誰もいない。外に出て砂漠を歩くと、里香たちの姿を見つける。建物の上に立って周囲を警戒しているだけで戦いがあった様子はない。仲間には暗い感情を見せたくない正人は気持ちを切り替え、意識して明るい声を出す。


「こっちは仕事終わりましたー!」


 三人は同時に声がした方を見たので、笑顔で手を振る。


 ヒナタは建物から飛び降りて駆け寄る。


「何かわかったーー?」

「土地を狙って侵略してきている以上の情報はなかったかな。二階層以降にも鳥人族がいるみたいだから休憩したら奥に進もう」


 明るい声で聞いてきたヒナタの頭を撫でながら、正人は今後の予定を伝えた。


「捕まえた鳥人族は放置ですか?」

「あれは改良した転移スキルで探索協会まで連れて行ったから気にしなくて良いよ。それよりも、休憩場所はどうする? 皆で転移できるようになったから札幌に戻る?」


 探索協会に置いてきた鳥人族の今後について考えて欲しくないため、正人は続けて話題を変えた。


「ワタシはダンジョンで良いと思いますけど冷夏ちゃんは帰りたい?」

「ううん。不在の間に鳥人族が動いたら怖いから、ここで休憩した方が良いと思う」

「私もそう思うーーー!」

「じゃあ、建物の中を簡単に片付けてから休もうか」


 食料は破壊された装甲車から持ってきている。屋根があれば陽差しも防げるので、血の跡さえ隠せばゆっくり休めるだろう。


 正人たちは建物に入って簡単な清掃を始めることにした。



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