第312話 助けに行かなきゃっ!
地下だというのに青空が広がっていて、肌を焼くような太陽が里香たちの体力を奪っていく。砂漠の名に恥じぬ過酷な環境だ。レベルによって鍛えられた肉体を持ってしても辛いと感じる。
またモンスターの存在も厄介だ。ワームこそ出会っていないが、成人男性ほどの大きさを持つサソリや動くサボテン、上空から襲ってくる大型の鷲など、地球の生物をベースとした敵に何度も襲われている。
服や靴に砂が入って気持ちが悪い。
歩き回っても正人は見つからず時間だけが過ぎていく。
汗が頬を伝って砂に落ちるが、すぐに乾いてしまった。
このような過酷な場所に鳥人族がいるのだろうか? と、人間の感覚を基準とすれば、そう思ってしまうのも当然ではあるが、空を飛ぶ姿を見てしまったら現実を受け入れるしかない。地上から放たれる火球を避けている姿は砂漠に適応しているといえるだろう。
「鳥人族は……五人……。地上から攻撃しているのは正人さんかな?」
他の探索者が未発見のダンジョンにいるとは思えない。里香の考えは間違っていないと双子も思ったが、鳥人族がモンスターと戦っている可能性もわずかに残っている。砂が積み上がって目の前は丘のようになっていて先は見えない。火球を放っている存在を確認するためには、もう少し歩く必要があった。
「確認しに行こー!」
「そうしよっか」
急いで坂を駆け上がって丘の頂上付近に移動する。眼下には大量のサソリに囲まれた人間――正人がいた。上空にいる鳥人族が操っているのだ。スキルを使ってモンスターを操っており、倒す度に砂の中から新しいサソリが出てくるためキリはない。この程度で魔力が切れることはないが、体力は別だ。砂漠という不慣れな環境であるため、数時間も戦いが続けば正人は力尽きるだろう。
「助けに行かなきゃっ!」
冷夏が飛び出そうとしたが里香は肩を掴んで止める。文句を言おうとしたが上を見ていたので、口を開く前に視線をあげた。
上空に巨大な黒い球体が浮かんでいた。鳥人族五人が集まって同じスキルを使い重ね合わせて作り出しており、当たれば吸い込まれて削り取られる。防御系のスキルを使っても耐えられないだろう。
「散開しながら攻撃しよう!」
まとまっているほうが危険だと判断した里香は、指示を出してから走り出した。少し遅れて冷夏とヒナタも離れるようにして移動する。
――エネルギーボルト。
――ファイヤーボール。
里香と冷夏がスキルを使って上空に放った。鳥人族たちは正人を警戒していたこともあって気づけず、直撃してしまう。体が脆いこともあって二人ほど落下してしまい、黒い球体の維持が困難になって粘土のように歪む。五人の力をあわせて作り出していたためバランスが崩れたのだ。
『ボルとグオーリアがやられたっ!』
『スキルを維持しろ!』
『どっちに攻撃する!?』
敵は四箇所に分散していて狙いが定まらない。また三箇所から同時に遠距離スキルを使われているため話し合う余裕すらなく、動けずにいる。リーダー格であったボルが生きていたら、もう少しマシな判断はできていただろうが、生き残った三人ではどうしようもない。
スキルの維持に全力を注いでいると数十にも及ぶ水の塊が殺到して、また鳥人族の一人が落下していく。
『ガルボディアーーっ!』
戦友の名を叫んだ鳥人族は、数秒後に光の矢で全身を貫かれ、血を流しながら地上に落ちた。スキルの維持ができなくなり黒い球体が破裂すると、生き残った鳥人族に当たり、頭や体、足などの一部が消し飛んだ。削り取られたような傷跡だ。即死である。
モンスターを操っていた存在が消えたことで、サソリの出現が止まった。正人が『毒霧』によってまとめて倒すと、魔石だけ残して周囲から敵は消える。
「大丈夫ですかーーー!」
坂を駆け下りながら里香が叫ぶと、手を振って無事を伝えた。
「ケガしてないよ! でもなんで、里香さんは別の所から来たの?」
同じ所に戻ってくると思って待っていたのだが、来たのはワームを殺されたと気づいた鳥人族であった。戦いながら移動をしていた正人は、まさか予想していたのとは別の場所から来るとは思ってなかったのだ。
「地上でボス級のモンスターに襲われたので他の入り口から入りました!」
「倒せた?」
「電撃系の攻撃が厄介で撤退しました」
「里香さんたちが逃げ出すほど強いのか……」
レベル三が三人もいたのだ。五階層ぐらいのボスなら圧倒できる戦力なのだが、厄介なスキルを持っているとはいっても倒せなかったのであれば問題だ。
地上に戻るべきだろうか。
悩んでいる正人に里香が提案をする。
「恐らくこのダンジョンは鳥人族の拠点です。地上は無人でしたし、今は探索を優先しませんか?」
数人の鳥人族がダンジョンにいてモンスターを操っていたのであれば、偶然遭遇したとは考えにくい。指摘された通りこの場所を長く使っている可能性は高い。探索協会の依頼――鳥人族の目的を探るには奥深くに進む必要がある。それも今回の騒動に、気づかれる前にだ。
「確かに依頼は早く終わらせたい。二人はどう思う?」
ラオキア教団のことが気になっている正人は地上のことは後回しでも良いだろうと判断したが、パーティ全体の行動方針を決める話であるため、双子の意見も聞くことにした。
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