第311話 ここ、どこ?
ダンジョンから出た里香は地上の異変に気づいていた。
視界に入る範囲にトロールやゴブリンといったモンスターの姿が見えたのだ。どこから湧いて出てきたのか疑問に思ったが、考えている時間はなさそうである。
装甲車を止めた方から不規則に爆発音が聞こえていた。冷夏が『ファイヤーボール』のスキルを使ってモンスターと戦っているのだ。
友達を助けるために里香は駆け出す。
邪魔なゴブリンを数匹ほど片手剣で斬り殺しながらも進むと、装甲車の上に立って火球を放つ冷夏の姿が見えた。ヒナタはレイピアを使って近づいてくる数十の狼と戦っている。優勢ではあるが敵の数が多いので処理に時間がかかっていた。
「ワタシも協力するね!」
「里香ちゃん!! ナイスタイミングっ! ありがとーーーっ!」
ヒナタの喜ぶ姿を見ながら、里香は周囲に複数の光の矢――エネルギーボルトを浮かべ、狼に狙いを定めて放つ。敵は背後からの攻撃であるため気づけない。体や頭を貫かれて黒い霧に包まれて消える。残ったのは小さな魔石のみ。ダンジョンから生まれたモンスターだと分かった。
(入り口は正人さんとワタシがいた。近くに別のダンジョンがあるのかな?)
モンスターが急に出現したのであれば、近くにダンジョンがあると里香は結論を出していた。この考えは正しいようで実際は少し違う。正人が発見したダンジョンは入り口が複数あるタイプだったのだ。
その事実に里香が気づくのは狼を殲滅させ、冷夏が鳥のモンスターを殲滅させたときであった。
他にモンスターがいないか周辺を調査していると複数の穴を見つけ、そして地面が揺れる。
「なにあれ!?」
調査を二人に任せ、装甲車の上に乗っていた冷夏がいち早く気づいた。動くのを忘れて驚き止まっている間に、里香とヒナタが戻ってくる。
なんと目の前に十メートル近い全身が真っ白な毛で覆われた猿――ビッグエイプがいたのだ。頭には一本の長い角があり、バチバチと光っている。遠目からでも帯電していると分かった。肩には鳥人族の男が乗っていて、スキル『テイム』を使って周囲にいるモンスターへ指示を出しており、冷夏の姿を見つけると頭にある左右の小さな羽が大きく開く。
キーンと脳内に高い音が響き、三人は頭を押さえて膝を突いてしまう。
音波攻撃によって激しい頭痛が引き起こされたのだ。
『叩き潰せ!』
鳥人族が異世界の言語で叫ぶと、ビッグエイプが腕を振り下ろす。
頭痛で動きが鈍くなった冷夏は装甲車から飛び降り、里香とヒナタは転がるようにして避ける。その直後、ビッグエイプの拳が装甲車に当たり、防弾仕様だったのに完全に破壊されてしまう。搭載していた荷物の多くは使い物にならなくなってしまった。
スキルを使ってない純粋な腕力なのに驚くべき破壊力で、普通のモンスターが出して良い威力ではなく、ボスの個体を地上に出たのだとわかった。
「あれやばいって! 逃げよーー!」
頭痛によって顔を歪ませながらヒナタが叫ぶと、冷夏を立ち上がらせた里香が走り出す。
「こっちにきて!」
双子はためらうことなく後を追う。全力とはいかないが、それでも人間の限界を超えた速度であるで、ビッグエイプが殴りつけても間に合わず、地面をたたきつけて土が飛び散る。
獲物が逃げそうになって苛立った鳥人族は、さらなる命令を下す。
『スキルを使え!』
命令を受けたビッグエイプの角が強く光る。バチバチと激しい音を立てながら電気が周囲にばらまかれ、周囲にいるモンスターを焼き殺す。味方を巻き込んだ攻撃は里香たちにも襲いかかった。
運良く直撃することはなかったが近くの地面に雷が落ち、里香は感電してしまう。筋肉が痙攣して体はいうことをきかず倒れてしまった。
後ろにいた冷夏が抱きかかえると足を止めずに走り続ける。
「まっすぐでいいの!?」
「う……ん……穴に……」
「入れば良いのね!」
顔の筋肉も動かしにくかったが、里香は気合いで最低限の情報を伝える。
雷に怯むことなく狼のモンスターは追っているが、全力で走る双子に追いつけない。
ほどなくしてダンジョンの入り口を見つけるとヒナタは飛び込むようにして穴に入り、バリバリバリと背後から雷の音が聞こえた。
続く冷夏も飛び込むと、再び落雷のスキルが発動して周囲にいる生物を攻撃していくが、ダンジョンの中には届かない。無事にボス級の敵から逃げ出せたのだが、坂を転げ落ちて一階層に到達しても正人の姿はなかった。
スキル『自己回復』によって電撃によるしびれ状態から抜け出せた里香は周囲を見る。
「ここ、どこ?」
「ダンジョンだけど……正人さんはいないね」
目の前の光景は砂漠にいているが少し違った。岩肌が見える荒野だ。近くにあった別の入り口に入ってしまったため、正人と合流できなかったのである。
「どうしよう。お姉ちゃん戻る?」
「それはやめよう。あの毛むくじゃらと戦いたくない」
電撃による攻撃は感電がやっかいだ。できれば戦いは避けたいと、冷夏は地上に行く案を却下したのである。
「正人さんの居場所わかる?」
「砂漠のが見えればそっちの方だと思うんだけど。探してみよっか」
体のしびれが完全に抜けた里香は、降ろしてもらうと近くにある岩の上に立つ。視線が高くなったので遠くまで見えるようになった。
「あー。あっちは砂漠があるね。意外と離れてないかも。行ってみよう」
この場にいても地上で見かけた鳥人族に襲われるかもしれない。
待っているだけでは危険であるため、感電から回復した里香を先頭にして三人は砂漠に向かって歩き出す。
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