第310話 ワームです!!
坂を下って最深部につくと青空が広がっていた。空に浮かぶ太陽のようなものは三つもあって暑い。長袖を着ている正人たちから汗が流れ出てしまうほどだ。
目の前に広がるのは無限に続くと思われる砂漠。乾いた風が頬を撫で細かい砂が舞う。踏み固められた地面と違って歩きにくそうで、体力の消費は多いだろう。
「正人さん、あれを見てください」
何を発見したんだと疑問に思い、里香が指をさした方角を見る。空に鳥人族が5人もいた。ダンジョンの入り口を警戒しているのか、大きく円を描くようにしてその場にとどまっている。時間が経てばどこかに行ってくれるような様子はなかった。
このダンジョンは、鳥人族が住んでいる可能性はある。
これが分かっただけでも大きな収穫だ。無理してダンジョンの奥へ進む必要はなく、地上に戻って双子と合流するべきだろう。
すぐに撤退しようと思った正人であったが、足下の地面がぼこりと盛り上がったことに気づく。
里香を抱きしめて横に飛ぶのと同時に、巨大なミミズが出現した。地上に出た部分だけで三メートルはある。ピンク色の肌をしていて先端は丸くなっているが、ぱかっと花が咲くように口を開くと無数の鋭い歯が見えた。
「ワームです!!」
正人に抱きかかえられている里香は叫ぶのと同時に『エネルギーボルト』を放った。口に当たりワームはのけぞると、追撃を嫌がって地中に戻ってしまう。『索敵』スキルの範囲外になってしまい、居場所はつかめない。着地した正人は里香を降ろす前に顔を上げると、空から『エネルギーボルト』がいくつも降ってきた。
――障壁。
二人を包むように半透明の膜が出現すると光の矢を弾いたが、鳥人族は攻撃の手を緩めない。絶え間なく『エネルギーボルト』を放って意識を上に向けさせながら、新しいスキルを使う。
――アースシェイク。
二人の立っている地面が割れた。足場を失って落下する。底は見えない。このままでは転落死だ。
「里香さんーーッ!」
腕を伸ばした正人が叫び、二人は手を握る。
――短距離瞬間移動。
触れている物ごと移動できるスキルだ。数メートルほど上昇した。これなら連続で数回使えば地上に出られる。希望を見いだした正人がスキルを使おうとすると、横の壁からワームが飛び出して壁に叩きつけられてしまう。
「がはっ」
肺から空気がいっきに吐き出された。繋いでいた手を離してしまい、里香は落下していく。正人はワームの頭が腹を壁に押しつけているため動けない。
とっさに片手剣を抜くと、里香は『剣術』スキルを使って壁に突き刺す。根元まで刺さり落下は止まったが、ゆらゆらとぶら下がっているだけで、身動きはとれない。『エネルギーボルト』を使ってワームの意識を自分に向けたとしても、回避はできず捕食されるだけ。意味はない。正人を助けるために動くのは難しそうだ。
考えている時間は短かったが、さらに状況は悪くなる。
地面の割れ目が小さくなっているのだ。
左右に分かれた壁が近づいている。このままでは、押しつぶされてしまうだろう。
――毒霧。
――自己回復。
正人は体を包み込むようにして酸性の霧を発生させ、ワームの頭部を溶かした。この程度で死ぬことはないが、怯んで後ろに下がり正人は落下していく。
鎧はボロボロになって使い物にはならない。溶けた皮膚と筋肉を回復させながら、里香を抱きしめると白い羽を生やす。
「大丈夫ですか!」
「もちろん! 急ぐから落ちないよう強く抱きついて!」
片手剣を握ったまま、里香は左手だけで正人に抱きつく。
天使の羽の力を使って高速で上昇していく、脱出する途中で別のワームが飛び出してきたが、来ると分かっていれば避けられる。当たることはなく、割れ目が閉じるギリギリのタイミングで地上に出て空にまで上がった。
『下等な人間に羽が!?』
『しらん! どうでもいい! 殺せ!』
鳥人族の五人は驚きながらも、訓練通りに体は動いてスキルを発動させる。
――エネルギーボルト。
鳥人族と里香が同時に同じスキルを使った。正人の『障壁』によって攻撃は防ぎ、無防備な鳥人族は羽を貫かれて次々と落下していく。コントロールする術を失い、何も出来ずに地面と衝突してしまった。腕や足があらぬ方向に曲がっている。頭が割れて大量の血が流れ出ており、離れていても即死だとわかった。
事前にサラたちから聞いていたとおり耐久度は低い。攻撃さえ当たれば確実に倒せるといった自信が付いた。
「これからどうします?」
訓練された鳥人族がダンジョンにいた。ワームを手下のように使っており、偶然遭遇したとは考えにくく他にもいる可能性は高い。情報を集めたい正人にとって探索する価値はあった。
地上に降り立ちスキルを解除すると、正人は指示を出す。
「他にも鳥人族がいないかダンジョンを探索する。里香さんは地上にいる二人を呼んできて」
「わかりました。戻ってくるまで無理しないでくださいね」
「それは相手次第かな」
里香は、あははと軽く笑っている正人の背中を軽く叩く。
「ダメですからね」
「き、気をつけるよ」
モンスターよりも強い圧を感じ、素直に従おうと思ったのだった。
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