第313話 そっか……そうだよね……っ!

「私は賛成です。ここが鳥人族の巣なのか、それとも前線基地なのか分かりませんが、見逃すには危険すぎます」

「ヒナタもお姉ちゃんの意見に同意かな! ダンジョンにいる鳥人族の拠点をつぶして、ついでに情報を集められたらいいよねー」


 現代兵器だけでなく、ダンジョン内にいるモンスターの多くを使って札幌を攻めてきたら、耐えられるとは思えない。拠点を潰すことは人類のためになり、また味方の死傷者を減らす有効な手段である。可愛そうだなとは感じても見逃す理由にはならなかった。


「ヒナタはそれでいいの?」

「本当は嫌だけど仕方ないかなぁ~」


 パーティメンバーの中で最も優しく敵を殺すことに対して割り切れてないヒナタは、心を痛めていたが方針には納得している。ただ少しだけ、心の整理をする時間が欲しかったと、口には出さなかったが双子の姉には伝わる。


「無理だけはしないで」

「わかっている。お姉ちゃんこそね」


 手を握るとお互いの体温を感じると、心までもつながったような気持ちなって安らぐ。肌の触れあいとは精神を安定させる効果があった。


 双子の支え合う姿を見ながら、メンタル面でも問題がないと判断した正人はスキルを使う。


 ――地図。

 ――索敵。

 ――罠感知。


 脳内にほとんど黒塗りされた地図が浮かんだ。味方を表す青いマーカーは四つ。敵対の赤色、罠の黄色はゼロだ。ワームのように地下に潜んでいるか、もしくは空に敵がいない限りは安全と言えるだろう。


 見合わす限り砂地で道はなく、地上にいたままだと集まる情報は少ない。正人は背中に白い羽を生やすと上昇して、地上から数十メートルほど離れて周囲を見渡した。


 相変わらず砂ばかりの光景ではあるが、遠くにオアシスが見えた。周囲には粘土で作られた建物が二つある。二階建てで屋上に出られるタイプだ。視界を強化すれば、室内に両腕が羽になった人の姿も見えた。建物から離れた場所には地下へつながる階段もあるので、二階層へつながる道を守る検問としての役割を担っているだろうことは、正人もすぐに理解できる。敵にバレる前にスキルを解除して地上に戻った。


「何かありましたか?」

「地下に向かう階段が見えたから先に進めそうだけど……鳥人族の拠点もあるみたいだ」

「やはりこのダンジョンに住んでいるんですね」

「多分ね。建物があったから、その可能性は充分にあるよ」

「未発見ダンジョンを拠点にしていたら見つからないわけです」


 顎に手を当てながら里香がつぶやいた。


 異世界に来てすぐ活動を開始した蟻人族や鬼人族とは違い、体が脆いというわかりやすく、また致命的な弱点を持つ鳥人族は先ず情報収集をするため、人が訪れない場所に拠点を築いていたのだ。モンスターを操って地上の安全を確保しながら、たまに車で近くを訪れた不運な人たちを攫って、拷問の末に殺す。そういった行為を一年続けていた。


 鳥人族は他の種族よりも早く地球へ来ていたのである。


 人類についても他種族に比べて知識はあり、情報を入手する手段もいくつか手に入れているため、正人の存在や日本の混乱、他種族の襲撃情報までも入手している。


 だからこそ、このタイミングで攻勢に出たのだ。


「私たちの目的は情報収集だ。無理に攻めなくてもいい。一階層もしくは二階層にいる鳥人族を捕まえて、目的を聞きだそう」

「…………ヒナタたちがお願いしたら痛いことをしなくても話してくれるかな……正人さんならできる?」


 縋るような目で正人を見つめた。


 言葉にしなくても言いたいことは伝わっている。情報を手に入れるため酷いことをしないで欲しいと、訴えているのだ。


「尋問のスキルを覚えているから、他の人がやるより可能性は高いと思うよ。けど、絶対じゃない」

「そっか……そうだよね……っ!」


 これ以上、わがままを言って迷惑をかけてはいけないとわかっているヒナタは、無理に笑顔を作って本心を押し殺した。


 正人はそんな彼女の肩を叩いてからナイフを両手に持って歩きだし、里香と冷夏も後を付いていく。


 慰めの言葉なんて誰もかけない。平和が遠ざかった世界では残虐な行為にも耐えられる精神力が必要で、優しい言葉は返ってヒナタのためにならないと思ったのである。


「あー! まってー!」


 明るい声を出しながらヒナタは追いつき、四人は砂漠の中を進む。


 やっかいなことに地中に潜んでいるモンスターが多いため、正人の索敵スキルは普段の半分ほどしか役に立っていない。砂を踏む振動音を察知して、大型のサソリが砂から姿を現した。数は十匹と多い。パーティを囲むようにな陣形で逃げ場はない。


「鳥人族に気づかれたくない。接近戦で倒すよ!」

「任せてください!」


 最初に動いた里香がサソリに接近して剣を振るった。腕の爪が飛び、振り下ろす刃で頭を両断する。反撃すらさせずに一匹目を倒したが、左右から生き残りが接近する。


「たぁっ!!」


 冷夏が薙刀を振り下ろして頭をたたき割ってから、腹を蹴り上げてひっくり返す。一方のヒナタはレイピアで連続の突きを放って、複数のサソリの意識を自分に向けさせ、ターゲットを集中させる。足場が悪いというのに、鋏や尻尾の針の攻撃を舞うように避けながら時間を稼いでいた。


 仲間の奮闘によって自由に動ける正人は、背後から忍び寄ってナイフで斬り裂き、倒していく。後は残り一匹という所までたった一分で到達したのだから驚きである。このまま完勝できるはずだったのだが、四の足下が急に崩れて、すり鉢状に砂が地面に飲み込まれている。中心には二本の角のような顎を持つモンスターがいた。



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