第305話 精神には作用しないからね
鳥人族の襲撃以降、トラブルは起こらなかった。
無事に青函トンネルを通過して北海道に入り、札幌まで装甲車を走らせて到着する。ビルの窓ガラスは割れており焦げた跡も残っている。一部は倒壊しているところもあって、攻撃があったことわかる。民家も同様の状況だ。報告にあったとおりボロボロの状態であるが、まだ暖かい時期で助かった。
真冬であったら凍死者が出て被害はさらに拡大していただろう。
物資を運んでいるトラックは自衛隊の駐屯地に入り、護衛をしていた探索者はそのまま現地でしばらく生活することとなった。これはまた襲撃があったときの予備選力として期待されてのこと。
レベル持ちの人間を簡単に手放すほど状況は良くないのだ。鳥人族の調査を任されている正人たちも当然のように残っている。探索協会が費用を持つ形でホテルのワンフロアを貸し切り滞在している。
今は魔力が回復して意識を取り戻した正人は、パーティメンバーに谷口の状況を一通り話していた。
「精神支配の影響を受けていたんですか……協会のチェックはどうやって通ったのでしょう」
埼玉支部長の山田がラオキア教団の大教祖に操られていたため、すべての職員に対して魔力視による検査が実施されていた。正人の専属となった谷口は最優先で検査が行われ、問題ないとのお墨付きがついていたのだ。里香が驚くのも不思議ではない。
「これは予想でしかないんだけど、命令の方向性が違ったんだと思う」
「どういうことですか?」
「山田さんは探索協会への攻撃、谷口さんは私たちへの攻撃、それぞれ目的が違うからこそ、全職員共通の尋問じゃ魔力が乱れなかったんだと思う」
正人の予想は結果として間違いなかった。探索協会が確認したのはあくまで組織に対して害意だけである。特定の個人に対しての質問はしていなかったため、谷口が精神支配されていることを見逃してしまったのである。これはスキルの詳細がわからないために起こったミスであり、精神支配された職員のすべてを取り除けなかったことにつながる。谷口みたいなパターンは他にもあるだろう。
「目的が違う……なるほど、そういうことですか。それで谷口さんの対応はどうされるですか?」
説明に反応したのは冷夏だ。
作戦実行前に障害は取り除かなければいけない。例え仲の良い相手でも情けをかけてしまい、手を抜けば自分たちが危なくなってしまう。ラオキア教団のやり方は気に食わないが、だからといってこの場で激怒しても何も変わらない。
鳥人族を調査する前に谷口の問題を解決しなければ、背中から攻撃されてしまう。何らかの対処が必要なのは間違いなかった。
「軽度の精神支配状態なら大教祖との接触をなくせば元に戻るけど、谷口さんの様子を見る限り望みは薄そうだ。スキルの影響からは抜け出せない……」
「復元のスキルを使ってもですか?」
「うん。精神には作用しないからね」
「すると……殺すしかない?」
他に手段がないのだから冷夏が出した結論に誰も反対できない。人は殺したくないが、必要であればやるしかない。この場にいる四人とも同じ考えではあるのだが、今回はそこまで悲惨な結果にはならないだろう。
「捕縛さえできれば豪毅さんに頼んで軟禁してもらえる。殺すことまではないと思うよ」
「あのおじいさんの力を借りるんですか……少し嫌ですね」
「里香さんが警戒するのはわかるけど、今回は協会側の落ち度でもあるから借りにはならないよ。精神支配された人が戻せるか研究を進めているみたいだし、協会に預ける価値はあると思う」
精神支配の解除方法がわかれば、ラオキア教団の信者を捕まえ、内部情報をはかせることも可能だ。
また幹部が精神支配されたことも考えれば、重度の被害者が元に戻る手段を探すことは探索協会にとっても優先度は高い。正人が言うとおり谷口を任せも問題はなかった。
「どーやって捕まえるのー?」
細かい話は面白くないと、飽きてしまったヒナタは、のんびりとした声で聞いた。
「札幌に到着したお祝い会という理由で部屋に招待して、その場で捕らえる」
「ホテルでー?」
「うん。しかも今日やりたい。鳥人族がいつ動くかわからないし、不安要素は早めに取り除きたいんだ」
三人の顔を見る。うなずいて正人の話を肯定した。
殺すより抵抗感はないので否定する理由がなかったのだ。本音では捕まえる人材を探索協会から派遣してもらいたいところではあるが、人手不足なのでそこまでの贅沢は言えない。
「じゃあ細かい計画を――」
正人のスマホが震えたのでディスプレイを見る。谷口からの通話だ。
「ごめん。ちょっと出る」
話を中断する。
通話ボタンをタップしてスマホを耳に着けた。
『正人さん! ラオキア教団の信者を見つけました!』
『どこにいたんですか?』
『滞在しているホテルです。大浴場に入っていたら会話が聞こえてきて関係者だとわかりました』
怪しい。話を聞いた正人の感想だ。
統率の取れた組織が、そんなうかつなことをするとは思えない。十中八九罠だろう。だが僅かでも真実であるなら無視するわけにはいかない。
背後の安全を確保するためにも確認は必要だ。
『すぐそちらへ向かいます。場所は大浴場ですか?』
『用事があるみたいで、ホテルを出て裏通りにいます!』
『わかりました。見失わないようお願いしますね』
通話を着ると里香たちに事情を話す。
向かうのは正人だけ。三人は少し離れた距離から様子を見守ることにした。
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