第304話 後部座席で休んでもらお!
「大丈夫ですかっ!!」
爆発が終わった直後、里香は駆け出していた。
最も近くにいた正人の体をベタベタと触る。すぐに防具どころか服すら傷ついてないことがわかり安堵した。
「うん。他のみんなは?」
「爆発の被害はありません」
とっさに使った『障壁』のスキルによって手榴弾による物理的な被害はない。しかし、トンネル内にある線路や地面は破壊されている。修繕は必要だろう。青函トンネルの運転再開はさらに時間がかかりそうだった。
ざざとノイズ音がすると、イヤホンマイクから福田の声が聞こえる。
『正人、そっちはどうだ?』
『鳥人族が手榴弾を使って自爆しましたが、こちらの被害はゼロです』
『よかった……。後続のトラックはモンスター襲撃による被害は軽微だが、状況を整理するのに時間がいる。しばらく周辺を警備してくれないか』
『承知しました。お任せください』
『頼んだ』
音声が切れると後方が騒がしくなる。
トラックの破損状況の確認、ケガの手当など慌ただしく動いている。時間ができてしまった正人は爆発の中心地を改めてみると、地面の一部が陥没していると気づく。
「トラックは通れると思いますか?」
「難しいと思う」
里香の問いに否定的な返事をした。
地面は爆発によって脆くなっており、線路の一部が突起していて重量のあるトラックが通過する際にパンクすることも考えられる。また陥没が大きくなって転倒することもありえるだろう。一台でも止まってしまえば後続は足止めになってしまうのだ。このままでは最悪、物資の輸送が数日遅れる可能性も出てきた。
とはいえ迂回するような道はなく、また補修する時間もないので、運を天に任せて進むしかないのだが……正人がスキルを使えばそんな心配は無用だ。
地面に手を置くと『復元』を発動させる。
あるべき姿に戻す特殊な能力は、破壊された地面や線路にも発揮した。逆再生されるように戻っていく。数秒後には爆発なんて無かったかのように破壊される前の状態になっていた。鳥人族が命をかけた行為はすべて無駄に終わってしまったのである。
「はぁ、はぁ……」
範囲が広かったため膨大な魔力を以てしても息切れするほど消費してしまった。
全身がだるい。目眩もする。力なく座り込んでしまうと、里香と冷夏がすばやく正人の体を支えた。
「大丈夫ですか?」
「頑張りすぎです!」
二人が同時に声をかけたが返事をする余裕はない。久々に感じる魔力不足で動けないのだ。
いつ移動が再開するか分からないので、この場で休ませるわけにはいかない。二人は顔を見合わせてうなずいてから左右に分かれ、正人の腕を肩に乗せると運ぶ。
レベル四もあれば防具を着込んだ成人男性一人ぐらいなど簡単に運べる。苦労することなく乗っていた装甲車の前まで移動すると、待機していたヒナタがドアを開けた。
「後部座席で休んでね!」
車内から正人を引きずるようにして入れると、シートを倒して横にした。
「ありがとう……」
一言お礼を言うのが限界で、楽な姿勢になったこともあり正人は魔力回復のために眠ってしまった。
「私が様子を見ましょうか?」
戦闘が始まってからもずっと運転席に座っていた谷口が提案した。
精神支配の汚染が強くなっていて、隙があれば殺そうとチャンスを作ろうとしたのだ。強引な動きである。不信に思った冷夏は気づかれないように魔力視を使った。
「……っっ!!」
魔力の揺らぎがあった。正人から教わった精神支配の特徴と一致する。
長い間、担当として支えてくれた男がラオキア教団に操作されていた。
いつからだろう。最初から? それともつい最近? と、混乱して思考がまとまらない。仲間に相談したいが谷口の目があるためできない。
「大丈夫です。私たちが見ているので運転をお願いできますか」
「若い女性が異性の看病をするのは嫌じゃありませんか?」
違和感の強い発言だ。今まで谷口は、ここまで食い下がってきたことはない。
里香も魔力視を使い、精神支配されていることに気づく。
「谷口さ――」
「里香ちゃん!」
この場で下手なことを言ってしまい暴れられてしまっても困る。肩に手を置いた冷夏は首を横に振って、今はダメだと伝えた。
「どうしました?」
「いえ。何でもありません。私たちは男女の前に、一緒に戦う仲間です。お気遣いは不要ですから運転に専念してもらえると嬉しいです」
「……わかりました。そうしましょう」
これ以上、食い下がったところで正人には近づけない。谷口は大人しくすることにした。
『被害の確認は終わった。いつでも動ける。そちらはどうだ?』
イヤホンマイクから福田の声が聞こえた。
寝ている正人の代わりに里香が応答する。
『爆発で半壊した箇所は正人さんが直してくれました。こちらもすぐに動けます』
『そりゃすごいな。素晴らしいスキルだ。詳細は知りたいが……今度直接聞いてみよう。彼はどうしている?』
『魔力切れになって車内で寝込んでいます。起きるまで待ちますか?』
『少しでも早く物資と援軍を届けたい。危険が無いのであればすぐに出よう』
『わかりました。五分後に出発します』
『了解』
音声が途切れた。会話を聞いていたヒナタは助手席に、冷夏は正人の頭を膝に乗せて席に座る。
話している間に良いポジションを奪われた。嫉妬心が湧き上がってしまったが、里香は何も言わず空いている後部座席に座る。
五分後、予定通り装甲車は走りだした。目的地は札幌である。
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