第303話 無駄な抵抗は止めてください
――エネルギーボルト。
様子見の攻撃として、正人は光る矢を数本放った。
鳥人族は羽を巧みに動かして空中を移動、回避するが、攻撃は止まらない。連続して次々と放つ。
逃げ回るがトンネル内は狭い。もし地上であったら逃げ出すこともできただろうが、真っ直ぐにしか進めない場所では敵に背は向けられなかった。
既に放たれた矢は五十本を超えていて、徐々に追い詰められていく。
「どうしてお前の魔力は尽きない! 無尽蔵なのか!?」
スキルに目覚めて歴史の浅い地球人が、これほどの魔力を持つまでに成長しているとは思ってもおらず、鳥人族は驚愕すると同時に怯えていた。
今回の侵略は勝算があった。
地球の情報、特に兵器に関する知識を深めていて鹵獲すれば使えるほどだ。体が脆い鳥人族にとって遠距離武器との相性はよいため、武器を得てからは北海道の戦いを有利に進めていた。また現地の協力者もいて敵の動きはダダ漏れの状態で、どうやって攻めてくるかも先に把握している。事前準備が功を奏して有利に進んでおり、数年続けていれば土地の一部は支配できていたはずだったのだが、目の前にいる正人が参戦したら戦況は大きく変わってしまう。
攻防共に隙がなく膨大な魔力を持っているため単騎で突入されたら、抵抗する手段はない。手に入れた銃器だけでは対応できず全滅する未来が、鳥人族に浮かんだのだ。
種族の危機を感じ取ると目的を敵の抹殺から変更する。
「仲間に知らせなければ!」
重傷を負って死んだとしても、正人の存在を伝えさえすれば次に繋がる。
勝つことを諦め、鳥人族は背を向けて逃げようとした。
――水弾。
いくつもの水の塊が浮かび、鳥人族に向かう。正人は軌道を調整して鳥人族の上から叩き落とすように当てた。
「ぐぎゃっ」
羽が水に濡れて重い。衝撃もあわさって鳥人族は落下してしまった。頭を打って気絶している。駆けつければ生け捕りにできるのだが、そこまでは時間をかけられない。
『蜂がこっちにもきた! 助けてくれッ!!』
イヤホンから聞こえたので正人は振り返る。
巨大な蜂の一部が里香たちを通り過ぎ、物資が積んであるトラックへ近づいていた。
護衛についている探索者たちが迎撃しようとしているが数が多くて手が足りてない。一部は運転席にしがみついて、長い針でガラスごと人間を刺そうとしていた。
――転移。
運転手を助けるためにスキルを使った正人は巨大な蜂の背後に回り、両手に持ったナイフを横に振るう。針の付いた腹と頭部がぼとりと地面に落ちた。
着地と同時に声をかける。
「大丈夫ですか!」
「は、はい! でも他にもモンスターがッ!」
巨大な蜂の数は先ほどよりも増えている。トンネルの奥から援軍として飛んできているのだ。
空中にいて戦いにくいもののさほど強くはないが数はやっかいである。このまま戦っても全滅することはないだろうが、非戦闘員に死傷者は発生してしまう。
全員を助けるため、正人はトラックの荷台に飛び乗る。
――小刀:氷。
鋭い刃のついた透明な小刀が正人の周囲発生した。百近くはあるだろう。近くにいる巨大な蜂へ向かって次々と飛び、頭を貫く。
生命力が高く即死こそしないが、フラフラと揺れながら緩やかに落下した。
短時間で周囲の敵を殲滅すると、正人は隊列の先頭へ戻る。
――ファイヤーボール。
火球を生み出し真っ直ぐに放つと、後続として迫ってきた巨大な蜂を焼き尽くしていった。
火力が非常に高かったため道路に小さないくつか火が残り、黒焦げになった死体も転がっている。
さらなる援軍が来る様子はない。ようやく敵の攻撃をしのいだのだ。
「怪我はありませんかっ!」
トラックを守っていた里香、冷夏、ヒナタが駆け寄ってきた。
「うん。こっちは大丈夫。三人は?」
「私たちも無事ですよ」
レベル四にもなれば体の強度も高まる。多少攻撃を受けたが少し痛いぐらいで終わっていた。
パーティメンバー全員の無事が確認できたのでようやく余裕ができた。周囲を確認した里香は鳥人族を指さす。
「まだ生きているんですか?」
「手加減したから、そうだと思う。確認しに行こう」
生きていれば情報が手に入る。
警戒しながら四人は倒れている鳥人族に近づく。
うつ伏せであり、また大きな羽によって顔は隠れている。胸は上下に動いているように見えるので死んではないだろう。
「抵抗しなければ殺さないと約束します。無駄な抵抗は止めてください」
正人が言っても反応はなかった。
まだ気絶しているのだと判断して四人はさらに近づくが動きはない。里香たちを後ろに待機させて正人は鳥人族の肩に触れ、体を持ち上げようとする。
目が合った。
ニヤリと嗤い、抵抗の意志を見せている。
「死ね」
手に持っていたのは手榴弾だ。しかも複数あり、既にピンが抜かれてある。
後方には仲間がいるので逃げるわけにはいかない。また爆発によってトンネルが崩壊されても困る。全滅だ。守るために何をするべきか一瞬で答えにたどりついた正人は、後ろに跳躍しながらスキルを使う。
――障壁。
自分たちを守るためではない。
鳥人族の周囲に攻撃を防ぐ膜を張り、内部で爆発した。
四肢は粉々に砕け、『障壁』内に爆風が発生。正人は破壊されないよう大量の魔力を注いで何とかスキルを維持する。
すべてが終わると、鳥人族がいた場所には肉片と砕けた骨だけが残っていた。
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