第302話 背後からの襲撃に気をつけてください

 線路の上を走っているためガタガタと振動しているが、トンネルの中を順調に進んでいる。スキルを使って警戒しているが新しい反応はない。


 薄暗い空間が続くだけ。対向車すらないので景色は代わり映えなく、同じ所をループしているのではないかと錯覚してしまいそうだ。


 イヤホンマイクも沈黙したままで、車の音ぐらいしか聞こえない。誰も余計なことは喋らず警戒を続けている。


「お化けが出てきそうだね~」


 窓から外を眺めながら、緊張の途切れたヒナタがつぶやいた。


 この程度であれば警戒の邪魔にはならず、むしろほどよくリラックスできるので悪くはない。


「何言っているの。幽霊なんていないよ」


 そっと里香の手を握り怖さを紛らわせつつ冷夏が否定した。


「じゃあ幽霊型モンスター?」

「そんなのもいないから。アンデッド系で発見されているのはスケルトンぐらいでしょ」

「そうだっけ~。だったらここで発見されたらすごいよね」

「やめてよ。言葉にして出しちゃったら、フラグになるから」


 現実になって欲しくない冷夏は黙ってしまった。握っている手に込められる力が強くなる。


 少しからかいすぎたと反省したヒナタも余計なことを言わないようにした。


 また車内は静かになるが変化は正人の脳内で発生してしまう。車の進行方向に黄色いマーカーが浮かんだのだ。


「罠があります。止めてください」


 運転している谷口はすぐさまブレーキを踏み、後続の車もイヤホンマイクから指示を聞いていたので同じように止まる。


 スピードはあまり出してなかったので衝突するようなことはなかった。


「アレは白い布……?」


 フロントガラスから道路の真ん中に布が落ちているのが見えた。明らかにおかしい。不自然である。


「私が見てきます」


 ドアを開けて正人が助手席から降りた。


 空気が淀んでいて排気ガス臭い。


『何があった?』

『道路に布が落ちてたので見てきます。背後からの襲撃に気をつけてください』

『了解』


 前方に注意を惹きつけて奇襲をかけてくる可能性もあって、福田に注意するように伝えると、ゆっくりと歩き出す。


 近づくと布の中心が盛り上がっていることに気づいた。幽霊、というキーワードが思い浮かぶ。


「いや、違う」


 脳内に浮かぶマーカーは黄色だ。赤ではないのでモンスターの類いではないことは確定している。


 首を横に振って雑念を振り飛ばすと、妄想や想像ではなく目の前の現実を受け入れ、対処するべきだと言い聞かせる。


 ――自動浮遊盾。


 罠を警戒して防御を優先させながら進む。白い布は動かない。


 何も起こらず目の前に付いた。


 しゃがんで触ってみる。ざらりとした手触りだ。変化は起こらなかったので、持ち上げて盛り上がっている部分を見た。


 横に長い箱が四本の足に支えられて立っている。カーキー色をしていてFRONT TOWARD ENEMYの文字があった。


 クレイモアだ。


 地雷の一種で、指向性対人地雷と呼ばれている。待ち伏せように使われる兵器だ。踏まなくても黒いケーブルでつながっている起爆スイッチを押せば発動してしまう。


 回避すれば後ろにいる車への被害が発生してしまうため、正人は周囲に浮かぶ盾を前面に移動させ、拡大させる。次の瞬間、カチッと乾いた音が聞こえて爆発した。


 爆風とともに鉄球が半透明の盾に激しく衝突して視界を奪う。前は見えないが、脳内に浮かぶレーダーマップには赤いマーカーが数百も浮かんでいた。


 突然、赤いマーカーが浮かぶ原因は大きく分けて二つある。一つ目は地下や上空からの強襲、転移系のスキルを使った方法だ。『索敵』スキルの範囲外からくれば、今回のように突如として浮かぶことも可能だ。


 しかし、これだとクレイモアを起爆スイッチで発動できた理由が説明できない。


 よって正人はもう一つの『索敵』スキルを上回るほどの隠蔽系統のスキルを持っている敵がいると判断した。


 赤いマーカーは正人の頭上を越えて装甲車に近づいている。


 通り過ぎる際にブーンと耳障りな羽音が聞こえた。鳥人族ではない。別のモンスターがいる。


『巨大な蜂です! 全員、撃ち落としてっ!』


 イヤホンマイクから里香の声が聞こえた。


 直後、銃声する。爆発音もしたので『ファイヤーボール』といったスキルもつかって迎撃していると分かる。


 すぐさま助けに行きたい正人だったが、目は真っ直ぐ前を見ている。その視線の先には腕に羽を生やした鳥人族の男がいた。


 下半身は鷲のような猛禽類系統の体をしているが、上半身はほぼ人間と同等だ。頭の左右にも羽があり、いまは大きく開いている。


「生き残ったか。人類の武器、というを使ってみたがあまり役に立たんな」


 姿を見ていると、正人は意識を失いそうになった。


 理由は分からない。


 足に力を入れて耐えると、『状態異常耐性』のスキルが発動して正常に戻った。


「音波に耐えただと?」


 初めて鳥人族の男が警戒心を露わにした。


「お前たちはなぜここにいる」


 少しでも情報を得ようとして正人は問いかけてみたが、鳥人族は口を開かなかった。


 後ろに飛びながら、羽を飛ばしてくる。


 そのすべてを『自動浮遊盾』で防いだ。


「ちっ」


 攻撃が通用しない。機動力と補助に優れた鳥人族ではあるが攻撃力というのに欠けている。


 そのため自衛隊から奪い取った兵器を使っていたのだが、スキルを発動している正人の防御は突破できなかった。もし彼の勝てるチャンスがあるとしたら、防御系のスキルを使う隙さえ与えずに不意打ちするしかなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る