第301話 その言い方は勘弁してください
サービスエリアから出て再び車は青森を目指す。
先ほどまでたっぷり寝ていたこともあって、後部座席にいる里香たちは楽しそうにおしゃべりをしている。
事故を起こすチャンスはない。
谷口は大人しく運転を続けると、流しっぱなしだったラジオから緊急速報が流れた。
「北海道にモンスターの大規模な襲撃がありました。探索者と自衛隊の合同部隊が迎撃をしましたが、札幌を中心に大きな被害が出ており、多数の死傷者が出ているとのことです」
戦力を整えた鳥人族の本格的な侵略が始まったのだ。
異世界からのゲートは既に閉じているが、いち早く地球に来て現地で繁殖をしたため数は多い。また空を飛びながらモンスターを誘導し、人間にぶつけるという行為もしているため、実際の戦力以上の脅威がある。
ニュースを聞いていると正人のスマホが震えた。
ディスプレイには豪毅の名前があったので通話に出る。
「ニュースは見たか?」
「札幌に大規模な襲撃があった件ですよね」
「うむ。知っているなら早い。まだ公開されてないが、常駐していた探索者はほぼ死亡、自衛隊は壊滅状態だ」
「土地を奪われた、ということですか?」
「ギリギリのところで耐えた」
救援が間に合わなかったかもしれないと焦っていた正人は無出をなで下ろした。
被害は大きく、失われた命も多い。
だがすべてが終わったわけじゃない。まだ残っている。
「それはよかった。で、私に何を期待しているんですか?」
「そのとおりだ。後続の部隊を派遣するので一緒に現地入りして欲しい」
「札幌まで護衛をしろってことですね。任せてください」
断るなんてことは絶対にしない。
少し大げさかもしれないが、人類のために戦うという決意があった。
「詳細はメールで送る。後で確認してくれ」
通話が切れると、先ほどの話を後部座席にいる三人へ説明する。
勝手に了承してしまったことを正人は謝ったが、誰も気にしていない。誰かを救うための戦いであれば否はなかった。
◇ ◇ ◇
計画は変わったが目的地は同じだ。
豪毅からのメールでは補給のチームと合同で北海道入りするよう指示があったので、高速道路を順調に進んで青森県に入り、青函トンネルの前にまで着く。
運転停止になっている線路の上には、物資を大量に乗せたトラックが数十台あった。護衛のために待機している探索者チームも複数あって、装甲車の中で待機している。
正人は車を降りると一団を指揮している自衛隊の男――福田に話しかけた。
「おお! 英雄のご登場じゃないかッ!」
「その言い方は勘弁してください」
照れ笑いしながら握手をした。
「俺は現場の指揮を担当している福田だ。正人さんのおかげで現場の指揮は保てている。感謝するよ」
その人がいるだけで負けることはないと信じられる。それが英雄の条件であれば、モンスターや侵略者の襲撃によって混乱している日本にとって、間違いなく正人は該当する。それほどの実績と知名度を持っているのだ。
「本当にそうでしたら、皆さんのお役に立てて嬉しいですね」
増長せず、謙虚な姿勢を見せたことで福田は好感を持つのと同時に、これから戦地へ行くのに信頼できそうだと感じた。
手を離すと車両を指さす。
「トラックには食料と毛布、日用品が入っています。これらを無事に札幌まで運び込み、現地の自衛隊に渡すのが我々の任務です」
「私は護衛をすれば良いんですよね?」
「はい。それで問題ありません。モンスター襲撃があった際は、私から指示通りに動いてもらえると助かります」
「期待に応えるよう頑張ります」
短いやりとりを終えると福田はイヤホンマイクを渡した。パーティメンバーと谷口の分まである。神津島で使っていた物と同一のモデルだ。片側だけに着けるタイプで、電池の持ちが良く、防塵防水機能もあるため幅広く使われている。
「指示はこれで出しますので札幌に着くまでは常に電源を入れておいてください」
「わかりました」
返事をしながら耳に着ける。
現在はチャンネルがオープンになっていて雑談が聞こえてきた。
『前線の基地から定時連絡は来ているのか?』
『ええ。問題なく。復旧に向けて活動を続けているそうです』
『だったら早く助けに行かないと。まだ出発できないのかよ』
『正人さんが来たのでそろそろだと思いますが……』
一緒に動く護衛のメンバーがじれていることを感じつつ、正人はマイクをオフの状態にして口を開く。
「音声は聞こえました。問題なさそうです」
「わかった。では早速移動を始めよう。俺は中段にいるから、先行して偵察をお願いしても良いか?」
「もちろんです」
最も危険なポジションでだからこそ、正人たちに任せたのだ。
装甲車に戻った正人はイヤホンマイクをパーティメンバーへ渡し、谷口に出発するよう指示を出す。
アクセルをゆっくり踏むと進みだし、正人たちは先行して青函トンネルへ入った。後続の物資を搭載したトラックや探索者を乗せた装甲車は、百メートル以上離れて追従する。
トンネル内は薄暗いが破壊された形跡はない。
だからといって油断はできないので、正人は『索敵』『罠感知』のスキルを起動させる。脳内にレーダーマップが浮かび上がった。
青いマーカーだらけでモンスターはいないように思える。
今のところ、順調に進んでいた。
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