第291話 そう上手く行くの?
「組織運営に興味がないトップなんて、害悪以外のなにものでもないですね……」
「かもしれないな」
遠慮のない言葉を聞いて豪毅は笑った。
「そういうことで、会長のことは存在しない者だと思ってくれ。ワシの決定がすべてだ」
「それは頼もしいですね」
要は豪毅が探索協会のトップであり責任者だと言い切ったのだ。
会長が戻ってこない限りは間違いではない。現に今は豪毅の一言で組織が動くようになっている。
「山田と精神支配された職員は遠からず処分する。ラオキア教団の調査はワシの名誉にかけて全力で対応を続けよう。だから――正人君も積極的に協力して欲しい。とくに知能あるモンスターへの対処は期待しているぞ」
探索協会の実質的なトップである豪毅が特別に時間を取ってまで正人と会っている理由がこれだ。
鬼人族との戦いのように、彼しか対応できない事件が今後も多発することが予想されるため、協力する見返りとしてモンスター退治に期待しているのだ。他国に逃げるなんて許さない。
死んでも日本を守れ。
そういったプレッシャーをかけていた。
「家族や友人を守るためにも戦い続けます。逃げることはないので、その点はご安心ください」
「何かあれば頼らせてもらう。大いに期待しているぞ」
誠実な対応に豪毅は満足している。
世界に先駆けてモンスターが地上で暴れたこともあって、今の日本がすぐに滅亡することはない。むしろ耐えきれば他国は凋落していくので、覇権国家になる道筋も細いながらあるだろう。
豪毅が狙っているのは、そういった世界規模の成り上がりだ。
混沌とした状態であれば上を引きずり下ろす可能性は高まる。
モンスターによる侵略事件を上手く乗り越えた国こそが、次世代の覇権国家になるだろう。
◇ ◇ ◇
豪毅と話してから数日後。正人は一棟買いしたマンションの一室で、武田ユーリ、美都と昼食を食べている。
テーブルには手作りのチャーハンや餃子、卵スープが置かれており、食材が手に入りにくい日本では珍しく豪華な食卓だ。
「で、豪毅との会談はどうだったんだ?」
質問しながらユーリはチャーハンを口に入れる。
味がしっかりとついていて美味い。逃亡生活が続いてまともな食事ができなかったこともあって非情に満足していた。
「精神支配スキルと山田さんについて一通り説明したら対処すると約束知れくれました」
「なら問題ないな。しばらくすれば協会に入り込んだラオキア教団の手下は排除されるだろう」
探索者歴が長いユーリは豪毅についてもよく知っている。実質的な支配者であり、対抗相手がいない今であれば思い通りに組織を動かせる。浄化作戦は滞りなく進むのだ。
「そう上手く行くの? さすがにラオキア教団だって手を打つんじゃない~~?」
否定的な意見を言ったのは美都だ。
「いや、それはない。あいつらが職員を精神支配してスパイが作り上げられたのも、俺の力があってこそだ。今のラオキア教団に探索協会を邪魔する力はない」
ユーリは『透明化』スキルを活用して職員の弱みや普段の行動を調べ上げ、その情報を使って脅し、捕らえて精神支配させていたのだ。
今後、新しく精神支配される職員が出るとしてもかなりの時間を要する。
「でも~、信者を使って襲撃させるぐらいはするんじゃない?」
「その可能性は低い。公安と警察に追われてそれどころじゃないからな」
ニヤリと口角を上げてユーリは裏で動いていたことを正人と美都に伝える。
「教団の主要なメンバーの顔写真、住所を匿名で通報しておいた。今頃は何人か捕まってるんじゃないか」
殺されかけたのだから、復讐するためにすべての情報を警察に渡していた。さらにはラオキア教団が集まる場所までもいくつか提供しているため、多くの信者が捕まっていくだろう。
ユーリが言ったとおり探索協会の動きを邪魔する余裕はなく、ラオキア教団はスパイを送り込むどころではない。
社会を敵にまわしていることもあって、一度守りに入ったら逆転は難しいのだ。
「善良な市民として良いことをしましたね」
「まったくだ」
男二人が笑い、興味を失った美都はスマホを持つと動画配信を見る。
探索協会重大発表と書かれたサムネイル画像が目にとまり、タップしてライブ配信を再生した。
「今日は探索協会の支部長が更迭されたようです。また埼玉支部の人員も大きく変わったとか。これらの動きが意味することは何でしょうか?」
質問したのは女性の配信者だ。肌を露出した水着のような衣装を着ていて、話題に興味のない男性視聴者が多く見ている。
コメント欄も低俗な内容ばかりだ。
「権力争いですね。豪毅副会長に逆らったので制裁が加えられたのでしょう」
嬉しそうに話しているのは現役の探索者で、配信で界隈に詳しいと紹介された男である。
「モンスターの被害が減らないのに内部で争っている。児玉さんは、そうおっしゃるんですね?」
「ええ、その通りです。探索協会の上層部は国民のことなんて気にしてない。自らの利益のためだけに動いているんです。そんな組織、許せませんよね」
児玉は探索協会に対して批判的なコメントをしていた。これは非情に珍しいことだ。探索協会の怒りを買えば今後の人生が破滅する行為だ。
違和感を覚えた正人は魔力視を使って児玉を見ると、発言する度に魔力が乱れていると分かった。彼は『精神支配』スキルによって批判的なコメントを言わされていたのだ。
========
【あとがき】
電子書籍版の七巻が予約受付開始しました!
KindleUnlimitedユーザーなら無料で読めます!
更新を続けるモチベーションとなるので、読んでもらえると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます