第289話 今の君みたいに、か
神津島で出会った鬼人族のレイアと少女のサラを保護するため、正人は新しくタワーマンションを一棟ごと購入した。
過去の報酬とあわせてパーティ全員で金を出し合ったため、現金一括支払いだ。
関係者以外は立ち入り禁止となっていて外には出られないがマンション内の自由は確保できるため、鬼人族の他にも指名手配されているユーリと美都もマンションに引っ越している。
外には出られないがプールやジムなどもあるので、管理自体を自分たちでしなければいけないが部屋にこもりっぱなしというわけではないので本人たちが思っていたよりも自由な生活を続けていた。
一方の正人は相変わらず忙しい日々を過ごしている。モンスターの起こす事件は減らず休む暇もなく働き続けており、地球を侵略しに来ているであろう鳥人族の動きは調べられていない。
当然、ラオキア教団についての対策も進んでいないため、個人で動く限界を感じていた。
時間をかければ状況は悪化していく一方である。
異世界からの侵略を防ぐためにも地球側の問題は組織に解決してもらおうと考え、正人は顔見知りでもある副会長の豪毅と直接会う約束を取り付けると、その日のうちに渋谷の探索協会ビルに訪れて会談を行うことにした。
◇ ◇ ◇
「久しぶりだな。新しいマンションの住み心地はどうだ?」
小さな会議室にあるオフィスチェアに座っている豪毅は、正人が入ってきた瞬間に聞いてきた。
一棟ごと買ってなにをするつもりなのか把握するため、軽く探りを入れているのである。
「静かに暮らしたかっただけです。一緒に買い物をしましょうと言ってくる人もいないので快適ですよ」
前のマンションの住民と一緒にスーパーで買い物をしたこともあったが、それをきっかけに他の人たちも声をかける頻度が増えていた。
毎回誘われるので、さすがの正人も嫌気をさしていたので引っ越した。これが予め考えていた説明である。
「人気者で結構じゃないか」
「ずっと誰かに声をかけられるのは意外と苦痛ですよ」
「ふむ……言われてみれば確かにそうかもしれんな」
手を顎に当ててなでながら豪毅は納得した。
道明寺隼人亡き今、正人の力が必要である。機嫌を損ねてしまうのは避けたいため、これ以上の追求は避けることにした。
「それで今日の用件はなんだね?」
「埼玉支部長の山田さんについてお話が」
「ほう。あの女についてか」
不審な出世については副会長の豪毅にまで話が届いている。
座る姿勢は変わっていないが眼だけは興味深そうにしていた。
「実はですね……」
話ながら正人は『魔力視』を使った。これで豪毅の体内に動く魔力の流れもわかる。
大教祖に精神支配されている人物は、本人の意思を無視した発言やラオキア教団を守ろうと動くとき魔力が乱れるのだ。これは脳内に埋め込められた『精神支配』の力が発動するために発生することであり、一時、ラオキア教団と手を組んでいたユーリも試したことがあるので間違いはない。正確な情報である。
「山田さんは精神支配されているんです。洗脳に近い状態ですね」
「禁止されたスキルを使った人物がいるのか? いやありえん。禁忌指定されたスキルはすべて探索協会が管理しているはず……」
考え込む豪毅の魔力の動きは変わっていない。精神支配、洗脳といったキーワードを聞いても揺らぐことはなかった。
「盗まれたんですよ」
「誰にだ」
「ラオキア教団です」
「なに!? あいつらが!」
教団の名前を言っても魔力は動かなかった。
もし『精神支配』スキルによって操られているのであれば、ラオキア教団を守ろうとして小さくとも体内の魔力に動きが出るはずだ。
「盗まれた報告なんて無かったぞ!」
「気づいてないだけでは? 調べてみてはどうでしょうか」
「そうだな。担当に確認させよう」
豪毅はスマホを取り出すと探索協会だけが使うチャットアプリを立ち上げる。危険物管理の担当者に『精神支配』スキルが今ものあるのか確認しろと命令を出す。
その間も正人は魔力の動きを監視していたが、一切変化は現れない。
この男は白だ。少なくとも副会長にまでラオキア教団の手は伸びていないと判断できる。
スマホを会議室のテーブルに置くと、豪毅は正人を真っ直ぐ見る。
「確認が終わるまで話をしよう。もし山田が精神支配されているのが事実だったとしたらスパイとして活動させていただろう。警察の方にも精神支配された人もいるかもしれん。ラオキア教団の捜査が進まないのも納得できる」
警察や公安が情報を入手して踏み込んでも空振りに終わってばかりで、未だにラオキア教団の本拠地どころか支部すら誰も知らない。
情報漏洩していたのであれば当然の結果だと納得できた。
「警察、政治団体、企業……あらゆる所に精神支配された信者がいるかもしれません。情報の扱いには気をつけてください」
「そのつもりだ。しかし、どうやって見分ければ良いんだ? 正人君なら何か知っているんだろ。教えてくれ」
「精神支配して言動が操られる瞬間、体内の魔力が乱れます。不自然な動きをするのですから、会話の最中は魔力視を使って常に警戒してください」
「今の君みたいに、か」
ようやく自分も疑われていたと気づいた豪毅は指摘するのと同時に、魔力視を使って正人を見る。魔力の動きに不自然さはなかった。
「気に障ったなら謝ります」
「いや、いい。当然の対応だ。どうだい。ワシは精神支配されているか?」
言葉通り精神支配されてしまうため、自分で気づくなんてことは不可能である。豪毅は知らないうちに好き勝手使われているのではないかと心配になって核にしたのだ。
「大丈夫です。これほどラオキア教団の話題を出しても魔力に不自然な動きはありませんでした」
「鬼人族を全滅させた次に嬉しい知らせだ。ありがとう」
ふぅと力を抜いてオフィスチェアの背もたれに寄りかかった。
スマホを見るとディスプレイに新着のメッセージ通知が表示されている。相手は危険物管理の担当者だった。
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【あとがき】
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