第288話 これからですか?
「これからですか?」
話が見えてこない里香は素直に疑問をぶつけたが、レイアは直接答えなかった。
笑顔のまま正人を見る。
「私とサラを使ってこれから何をするのか。それを教えてください」
知っている情報はすべて渡したため、鬼族の二人を匿う意味はなくなっている。用済みだとして実験動物にさせられてもおかしくはない状況だ。
親しい人がモンスターによって殺されているのであれば、拷問や陵辱をした上に殺すということもありえる。逃げる場所はなく戦うことすらできないレイアは、この場の主導権を持っている正人がどのような判断を下すのか、じっと待つしかない。
「別に何もしませんよ。ここで生活してもらうだけです」
「バレたらご自身が破滅するかもしれない私たちを生かしておくんですか?」
日本最強探索者、侵略を初めて防いだ人類の英雄など、今の正人にはいくつもの肩書きはあるが、それらをすべて吹き飛ばして人類の裏切り者に認定されてしまうほど、鬼族の二人を匿っているリスクは大きい。
すぐにでも見捨てるべき相手なのだが、守ると決めている正人はそのような決断をしない。
「そう取引したじゃないですか。なんで裏切ると思うんですか」
呆れた声で言われてしまいレイアは何も言い返せない。
「裏切り、騙すことが日常の一部となっていたヤツには理解できないだろうが、こいつはなバカが付くほどまっすぐに生きている男だ。お前たちが裏切らない限り見捨てることはないぞ」
笑いをこらえながらユーリが正人の性格を伝えたことで、ようやくレイアは納得できた。助けを求めた相手は異世界でも類を見ないほどのお人好しだということに。
もし見捨てられそうになるのであれば、サラだけでも逃がそうと思っていた彼女は全身から力が抜けてしまう。
「そうみたいですね。なんだか警戒するのが馬鹿らしくなっちゃいました」
「気持ち分かるぞ。俺だっていつ通報されるかずっと警戒していんだが、何も動きはしない。愚直に約束を守るバカだと気づくのに時間がかかっちまった」
モンスターを地上にはなった犯人であるユーリも、探索協会や政府に密告されるのではないかと最初は警戒していたが、今に至るまで正人は何もしなかったのだ。
それどころか先輩であるユーリにアドバイスを求めるほどであり、もう既に裏切ることはないと確認していた。
「なんかすごく馬鹿にされているように感じるんですが……」
「ちげーよ。褒めてるんだ」
「本当ですか?」
「ほんと、ほんとよ。正人さん」
ユーリとレイアが同時に笑い、里香はイジられている正人を心配そうに見ている。
「まぁ私の性格はともかく、今後の予定は決まっています。異世界と地球をつなぐゲート、それらをすべて破壊して侵略者を排除しましょう」
地球に根付いてしまったダンジョンの排除は現実的でないが、異世界接続のスキルによって侵略してくる種族は撃退可能だ。また今後新たな種族、そして異世界人が渡ってこないようにするためにも、ゲートと呼ばれる存在は潰しておきたい。
「レイアさんはゲートの数がどのぐらいあるか知っていますか?」
「過去に開催された異種族会議で共有されているので把握しています。現在動いているのは鬼族、蟻族、そして鳥人族ですね。それぞれの種族にいる巫女が異世界接続のスキルを使って地球と接触しています」
異世界には数多くの種族が存在するが、現在動けているのは三種族のみ。他は異世界人との戦いによって疲弊して侵略どころではないのだ。
ちなみにだが、異世界接続のスキルは非常に珍しく、異世界人には過去に一度も現れたことがない。人間以外が使える種族固有のスキルだと思われている。
「鬼族はゲートを二度と作らないから放置でいいですね。蟻族はオーストラリア大陸に行って閉じないとダメかな?」
「その必要はないかと。すでに蟻族の巫女は死亡しております」
「対価を支払いきれなかったのか……」
「その通りです。巫女が死ぬまでゲートを維持し、兵を送り込む。それが我々の計画でしたから間違いありません」
死を前提に組み込まれた冷徹な作戦ではあるが、異世界人に種族ごと滅ぼされる危機だったのだから仕方がない。
大勢を助けるために生け贄のように扱われる巫女という存在は必要不可欠な犠牲なのだ。
「では蟻族は世界の国々に任せるとして、動きの見えない鳥人族の調査を始めた方が良さそうだね。レイアさんは何か知りませんか?」
「実は数週間ほど前から連絡が途絶えているんです。予定では一斉に地球へ侵略する予定でしたが、一切の動きがありません」
「何かトラブルに巻き込まれたのかな。早めに調べておくべきか?」
「彼らは日本の四国を狙っていて、大まかな場所は特定できています。外出許可を出してもらえればご案内できますが……どうします?」
「そっちの情報を集めるので少し待ってください」
匿っているレイアとサラは正人のアキレス腱だ。
存在が露呈すれば社会的な地位は失墜するため即断なんかできない。
多角的に情報を集めつつ次の一手を考える時間が必要であった。
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あとがき
本章は終了です。
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