第287話 正確なことは分かりませんが数十はあるかと
「ダンジョンとは、異世界人が地球を住みやすい環境に変える施設だったのか」
正人の驚愕した声にレイアは静かにうなずいた。
人類が次世代のクリーンエネルギーとして鉱山のように使っていたダンジョン。それは侵略の足がかりとして地球に送り込まれていたのである。
「ヒナタたちは、侵略する人たちが用意したものをありがたく使ってたってこと!?」
「そうなりますね。実態を持たないモンスター、魔石、スキル、人間に与えるレベル、そのどれもが地球に効率よく魔力を拡散させるための仕組みでした」
異世界の様々な種族を模倣した実体のないモンスターは、死ぬと黒い霧に包まれて消える。これが可視化された魔力だ。ダンジョンから徐々に漏れ出していって、地球上に散布している。
また魔石も機械を動かす際に魔力が拡散されるため、人類が知らないだけで安全なエネルギーではなかったのだ。
探索者も似たようなものだ。レベルによって超人的な能力を手に入れたが、スキル発動によって魔力を地球上に拡散する手伝いをしていた。便利な能力に対して、きっちりと対価を支払っていたのである。
生きていくためにモンスターと戦い散っていった探索者たちは、異世界人の思惑に踊らされて死んだとわかり、再びユーリの怒りが高まっていく。
「無知は罪、ただそれだけのことよ」
空気の変化に気づいた美都はユーリの手に触れながらけだるそうな声で、何も知ろうとしなかった自分たちにも責任があると伝えたのだ。
誰もが原理は分からずとも便利というだけで使い続けていた。反論できない。
「皆様がお怒りになる気持ちはわかりますが、私たちも生き残るためにやったことです。どうぞご理解ください」
悪びれる様子はなく、堂々とレイアは必要なことだったと言い放った。
そうしなければ死んでいった仲間に申し訳が立たないからである。この一点においてはユーリと似たような感情を持っていた。
「ダンジョンの卵を送りこんだのは鬼族だけですか? それとも他のモンスターも同じことをしたんですか?」
里香の質問にレイアは困った顔をしたが、すぐに答える。
「私たちは知能が低い凶暴な生物をモンスターと定義しております。それに照らし合わせると違うという答えになりますね。蟻族や鬼族、他にも人間と同様に高度な知能を持つ種族が地球に送り込みました」
地球ではオークやゴブリン、アイアンアントから鬼族、蟻族もまとめてモンスターと称している。人間とは別の存在だと明確に区別するために使い分けているのだが、元から様々な種族が生息している異世界の住民にとっては理解しにくい考えだ。
そのような世界の違いによって生じる誤解を解くべく、レイアは丁寧に説明したのだった。
「地球にダンジョンを送り込んだ種族はどのぐらいいるんですか?」
「正確なことは分かりませんが数十はあるかと」
「そんなに……!」
蟻族だけでも大きな被害が出ているのに、他にも異なる種族が攻めてくるかもしれないのだ。里香が受けた衝撃は大きく、黙り込んでしまう。
「ゲートは長く維持できないため、たいした数は送りこめません。みなさまが本気で動けば大抵の種族は撃退できるでしょう」
異世界と地球を接続した場所をレイアたちはゲートと呼んでいる。
魔力の消費量が大きいため、安全に使うのであれば一日も開いてはおけない。異世界の人間が他種族を淘汰しようと動く前の時代であれば、スキル使用者のみがたまに地球へ行く程度の使い道しかなかった。
彼らの痕跡は、世界各地に妖怪や悪魔、精霊という形で今も残っている。
「問題は異世界を蹂躙している人間たちです。狡猾でかつ強大な力を持つ彼らが本気で攻めてきたら、今の地球人は対抗できるかわかりません……」
地球人と異世界人の見た目はほぼ同じだ。言葉と常識さえ身につければ溶け込むことは容易で、静かに侵略ができる。
数十年、場合によっては百年以上の時間をかければ特定の地域や国を乗っ取ることも可能だろう。
もしくは第三次世界大戦を意図的に起こして、終戦後にすべてを手に入れるという卑劣な行動も取れる。
手段を選ぶ理由がないからこそ、いとも簡単に最悪行動にでられるのだ。
「そんな人がラオキア教団と手を組んだら最悪ですね」
「お姉ちゃんの言うとおりだ! 一番嫌な組み合わせだね~~っ」
双子が懸念したことは、正人をはじめとした地球側は全員考えたことだ。
現代社会の破壊を願っている人間に異世界人の存在を知られたらマズイ。早々に手を打たなければ、世界終末時計の針は大きく進んでしまう。
「ねー。今度はそっちの情報を教えてよー。ラオキア教団って何?」
「世界をぶっ潰そうとしているおかしな集団だよ!」
退屈な話に飽きたサラの質問にヒナタが元気よく教えた。
二人はどことなく波長が合う。
「地球のこと教えてあげるから、異世界のことも教えてよー!」
「いいよ! あっちで話そうっ!」
手をつないで別の部屋に行ってしまった。
さすがに一人は危ないと思い、冷夏は立ち上がると正人たちに頭を下げから、後を追っていく。
「子供がいなくなったことですし、そろそろこれからについてはしましょうか」
ニコニコしているレイアだが目だけは笑っていなかった。
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