第286話 今日は何をお話しすれば良いでしょうか?

 多大な犠牲をともなったが、神津島奪還計画は成功した。


 この功績を探索協会はテレビとネットを使って発表。さらには記者会見まで開いて、詳細を伏せた上で日本には侵略者を壊滅させるほどの強い探索者がいると世界に印象づけることに成功し、評価は高まるばかりである。


 山田がおこなった蛮行は「作戦のために必要だった行為」と処理され、里香や冷夏が味方ごと攻撃したと訴えてもお咎めはなかった。組織のためであれば殺人ですら許されてしまう。組織の体質は何一つ変わっていないどころか、ラオキア教団の手が伸びていることから悪化しているとまで言えるだろう。


 またオーストラリア大陸は蟻族の手に落ちてしまい世界中のいたるところでモンスターの存在が明らかになった今、侵略者を撃退した実績を持つ日本が一番安全な土地とまで言われるほど評価が逆転していた。


* * *


 東京に戻ってきた正人たちは報酬の四億円を使って、地価が大きく下落している都内にあるタワーマンションを購入した。

 

 セーフハウスに隠れている美都とユーリ、レイアとサラを匿うだけでなく、正人一家やパーティメンバーも引っ越して住むことになる。


 マンション内には関係者以外誰も入れないよう、監視カメラやセンサーを大量に配置しているので鬼族の存在はしばらく隠せるだろう。


 引っ越しの手続きや荷ほどきなどの忙しい日々が続き、半月後にようやく全員がマンション内の一室に集まると、今日はレイアから異世界の話を聞くことになった。


 ソファにはレイア、サラの鬼族、フローリングに正人のパーティが座り、ユーリは壁により掛かっていてその近くに美都が眠そうな目をしながら全体を俯瞰してみていた。


「さて、今日は何をお話しすれば良いでしょうか?」


「あなたたちが地球を侵略してくる理由ですね」


 代表者である正人が世界中の誰もが知りたがっていることを聞いた。


「わかりました。説明したいと思いますが、その前に私たちの状況をお伝えした方がいいでしょう」


 地球に来なければいけない背景が分かれば話は理解しやすくなる。


 聞き手に配慮した提案であった。


「ご存じの通り私たちは地球とは別の世界に住んでいました。人間をはじめとした様々な種族が住む多様性のある場所でしたが、三百年ほど前に人間が他の種族を淘汰しようと動き出したのです。単純に攻めてきただけなら他の種族が手を組んで対抗することもできましたが、人間どもは巧妙に動いて他種族や部族間で争いをさせ、なんと二百年もの間、我々を疲弊させてきたのです」


 表では多種族に優しいという立場を築き、裏では種族間の争いを過熱させる行動をしていたのだ。


 非常に計算された行動で、感情ではなく理性的に人間以外の種族を滅ぼそうとしたことがわかる。


「事態が大きく動いたのは百年前。最強種族と呼ばれていた悪魔族が滅んだときです。人間どもは勝算があると踏んだらしく他種族を次々と滅ぼし、土地を占領していきました。鬼族も例外ではありません。百以上あった氏族は三つ……いえ、私たちが滅んだので残り二つにまで減ったのです」


 人間が悪く鬼族を含めた他の種族は被害者である。


 聞き方によっては、そう感じてしまう言い方にユーリは不快感を覚えていた。


「だから地球を侵略しに来たと? 俺たちに迷惑をかける前に死んでおけよ」


「黙って死ねるわけないよ! 立場が逆だったら、あんたたちだって同じ選択をしたはず!」


 ソファから立ち上がったサラが立ち上がって抗議した。


 怒りが高まってきたユーリは、壁から離れて近づこうとする。


「落ち着きなさい~。みっともないわよ?」


 美都の声で止まった。


「探索者が多く死んで苛立ってるのはわかるけど、取引相手なのだから考えて行動しないとね~。欲しい情報が手に入らなくなるわよ」


「……ちっ。わかってるよ」


 また壁に背中を着けるとユーリは目を閉じた。


 腕を組んで、もう口は挟まないという態度を取っている。


「悪いのは私たち。それは間違いありません。殺されてもおかしくないことをしたのだから、こうやって平和的に話し合えることを感謝するべきですよ」


 レイアは幼いサラへ言い聞かせる。


 マンション内限定ではあるが自由もあるのだ。文句を言える立場ではなかった。


「わかりました」


 落ち着きを取り戻したサラはソファに座った。


 話し合いが再開できる状況となる。


「異世界人から逃げるために地球を攻めてきたことは分かりましたが、ダンジョンもあなたたちの仕業ですか? アレの存在理由を教えてください」


 ダンジョンの最奥で手に入れた情報からある程度推察できているが、改めて正確な情報を手に入れたいため聞くことにした。


「地球は我々が住んでいる場所と環境は非常に似ていますが、魔力がないため生存には適していませんでした」


 異世界人にとって酸素と同じく魔力は必要な様相だ。なければ長くは生きていけない。地球へ逃げ込むにしても環境を整える必要があったのだ。


「ですから異世界接続のスキルで穴を開けた後、ダンジョンの卵を世界各地に埋め込んだのです」

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