第283話 回復スキルで治らないのか?

『貴方さえ生きてくれれば私たちは次期巫女を助けたのだと、死に意味が生まれます』


『そんなの知らない!』


『わがままを言わないでください。巫女である私たちが持つ異界接続のスキルを失うつもりですか?』


 レイアの言葉に正人は蛇神が使ったスキルを思い出す。強制的に一部の空間を切り取り別の世界を呼び寄せる恐るべき能力だった。


 範囲は限定的であっため世界中が巻き込まれることはなかったが、巫女ばれている彼女たちのスキルは違う。世界を繋げてしまえば行き来できるようになるのだ。与える影響はこちらの方が大きい。


 白い塔は接続スキルの結果生まれたのだろうか。


 維持にどのぐらいの魔力を使うのだろうか。


 正人の脳内に疑問はいくつも浮かぶが口には出さない。黙って静かに話を聞く。


『あそこに人間がいるってことは、失敗してみんな死んじゃったんでしょ!? こんなスキルあっても意味ないよっ!!』


 次期巫女と呼ばれているサラは涙を流し、声を上げて泣き出してしまった。

 

 説得を失敗してしまったレイアは正人を見る。


「お騒がせしました」


「気になさらずに。それで彼女を保護する見返りはあるのですか?」


 会話を聞いて同情的な気持ちにはなっているが、地球を侵略してきたことは許せない。


 善意だけで保護できる関係ではないのだ。相応の見返りがなければ断るつもりである。


「異世界人の情報、ダンジョンと異世界につながるゲートの存在理由をサラが教えます。また鬼族が使っているゲートを閉じると約束しましょう。これで日本はしばらく時間が稼げます」


「それらは保護をしなくても手に入れられる。交換条件として成立しない」


 サラを丁重に扱わなくても情報を手に入れる方法はいくつもあるのだ。わざわざ保護という形を取らなくてもよい。異世界のゲートもスキルによって作られたのであれば、レイアを殺せば終わる話である。


 地球側が譲歩する理由は一切なかった。


「嘘でも保護すると言えば良いのに、あなたは正直な方なんですね」


 死にかけているレイアは安心するような声を出した。


 目の前にいる男は、鬼族の生き残りを助けるために国と交渉するつもりなのだと気づいたのである。


「スキルや他種族に関する情報もありますし、サラの『異界接続』のスキルを使えば、逆侵攻にも利用可能です。どうです? 保護する価値があると思いませんか?」


 今は守りしかできないが、スキルを使って逆に奇襲をかけることができれば戦況は大きく変わる。


 敵側も守りも意識しなくならなければいけないので、攻めにくくなるのだ。


「だったら私だけじゃなくレイアもお願い! 生き残りが二人いれば、それだけ多くの情報が手に入るよ!」


 話に割り込んできたのは泣いていたサラだった。


 どうにかしてレイアも助けてもらいたいため、正人の服を掴んでしがみつくほどである。


「異世界接続のスキルを維持するには、肉体と命を捧げる必要があります。どんなことをしても助かりませんよ」


 別の世界と接続させる対価として魔力だけでは足りない。体と寿命を捧げることでようやく、数日維持できるのだ。


 テレビに出演した後一切姿を見せなかったのは、スキルによって体が浸食されてボロボロになっていたからである。動きたくても動けなかったのだから、地下に隠されて延命させられていた。


 話している間にもレイアの足がグズグズに溶ける。


 終わりが近い。


「地球の文明は素晴らしいと思いますが、死にかけの私を救えるほどではありません」

 

「回復スキルで治らないのか?」


「スキルの対価を支払っているだけなので、ケガだと思ってくれないようです。何度か試したことありますが、効くことはありませんでした」


 正人や里香が使う自己回復に代表されるようなスキルは、どのようにしてケガだと判断しているのかは使用者本人にもわからない。解明されてないことが多いのだ。


 それは異世界にいる鬼族たちも同じで何度も実験を繰り返した結果、スキル発動や維持による対価によって発生した損傷は、老化といった自然な変化として受け止めてしまうことが判明している。


 宮沢愛から手に入れた『天使の羽』スキルを使っても、何も変化は起きらないだろう。


『サラ、せめて貴方だけ生き残って』


『やだ! レイアが死ぬなら私も一緒!』

 

 鬼族の生き残りが泣いて別れを惜しんでいる中、正人は歩き出す。


 死にかけているレイアに生えた角を触った。


「悪いが死なせるわけにはいかない。私たちは少しでも多くの情報が欲しいんだ」


 決して同情して助けようとしているわけではない。これからも起こり続ける異世界からの侵略に対して対抗する情報を手に入れるため、生かすのだと言い訳をしながら正人はスキルを使った。


 ――復元。


 それはあるべき形に戻すスキルは、結果が回復系統と似ているが本質は全く違う。


 物体が元の形を認識しているのであれば、必ず効果を発揮する。


 腐りかけて変色しかけているレイアの肌が白くなろうとしているが、またすぐに腐食が始まる。対価を支払えとスキルが使用者の命を奪おうとしているのだ。


 むろん、そんなことを正人は許さない。


 様々なスキルを覚え、レベル四まで到達し手に入れた膨大な魔力を注ぎ込みスキルに対抗し続けていく。

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