第280話 化け物同士で殺し合いだ!
首のない辰巳の体がハンマーを振るう。
反撃なんてできないと思い込んでいた正人は防御が間に合わず、横っ腹に直撃すると吹き飛んでしまう。
地面にぶつかり反動で浮き上がると、体を回転させて足から着地した。
――自己回復。
受けた傷を癒やしながら正人は辰巳を見る。
落ちた頭を拾って首をくっつけていた。
「不死身なのか?」
「死んだことがないからわからん」
首が元に戻ると辰巳が真剣な表情で言った。
「俺が本当に不死身なのか、教えてくれ」
腰に手を回すと50口径の拳銃を取り出した。サブマシンガンから放たれた銃弾を防いだというのに、また撃つようだ。
正人が『障壁』を使うのと同時にトリガーが引かれる。
――貫通付与。
銃弾にスキル効果が付与された。薄い膜に当たると止まることなく破壊し、正人の左胸を貫通した。心臓が破壊されて血が吹き出る。
――自動浮遊盾。
――復元。
続けて放たれた二つ目の銃弾を半透明の盾が受け止める。縦に五つ並べても次々と破壊されていく。
だが時間は稼げた。破壊された心臓を元に戻すと横に走って回避する。
「なんだ! お前も不死身じゃないか!」
まさか心臓を破壊されても元気に動ける人間が自分以外にいたとは思わず、辰巳は銃弾を放ちながら喜んでいた。
「化け物同士で殺し合いだ! 楽しくなってきたな!」
弾が切れてもすぐにマガジンを交換されてしまい隙が見当たらない。防御系のスキルは『貫通付与』によって紙と大差ない効果しか発揮せず走り回っている。
相手の回復能力を考えれば生半可な攻撃をしても倒せはしないだろう。一撃で殺したいところではあるが、『ファイヤーボール』を使うには溜めが必要で、『投擲:魔力爆発』を使っても回避されそうなので、正人は辰巳の魔力を削る方針に決めた。
――毒霧。
辰巳の周囲に紫色の煙が出現した。肌や肉を溶かしていくがすぐに回復していく。『毒霧』は十秒ほどで消えてしまう。
これは予想通りの結果だ。首を切断されても生きているような男が体の一部を溶かされたぐらいで死ぬとは思えない。回復に使う魔力を消費させられれば良いのだ。
――小刀:氷。
氷で作られた小刀が次々と放たれる。狙いは拳銃を持つ右腕だ。指を切断できれば攻撃は止められるだろう。
――硬質化。
スキルを使った辰巳が皮膚を硬くしたことによって、氷で作られた小刀はすべて弾かれてしまった。
攻撃はさほど脅威ではないが、防御力が桁違いに高い。生存に特化しているタイプである。
相手の能力が掴めてきた正人は本格的な反撃にうつる。『短距離瞬間移動』で辰巳の背後に回ると足払いをして転倒させる。拳銃を向けてきたので足で蹴って踏みつけ、ナイフを顔面に突き刺す。切っ先が皮膚の先端で止まったが、『短剣術』『怪力』『身体能力強化』が付与されたレベル四の力を完全に防ぐことは叶わなかった。
一瞬拮抗してから突き抜ける。
刀身は頭蓋骨を貫通して脳にまで到達する。辰巳は意識を失った。
正人はナイフを引き抜いてからバックステップで距離を取る。
――ファイヤーボール。
頭上に火球が現れた。魔力をたっぷりと込めて温度を上げていく。辰巳が脳を修復して意識を取り戻すと横になったままつぶやく。
「これで死ねるかもな」
逃げることはしない。迫り来る火球を受け入れる。
爆発して体が吹き飛んだ。高温によって肉が焼けていく。
すべてを消し炭にはできなかった。肉体の一部は黒くなっているが残っている。
正人はそれらを注意深く見ていると、ウネウネと動いていることに気づいた。
それらはナメクジのように動いて集まろうとしている。ヒナタが見たら「きもいーーーっ!」を叫んで冷夏か里香に抱きついていたことだろう。
「意識がなくてもスキルは自動で発動するタイプか」
覚えているスキルの中では『苦痛耐性』が該当する。ゲームではパッシブ型ともよばれる常時発動するスキルだ。『自己回復』『復元』のように意識して使わなければいけないタイプよりも使い勝手は良いだろう。
ここまでは正人も推測できる範囲であり特殊なことではない。
問題はスキルが生物の死をどう定義しているかという部分である。
生命活動が停止しているのに、スキルは生きていると判断して発動しているのだ。どうすれば停止するのかわからない。
「不死身、か。確かにその言葉に相応しいスキルだな」
肉片を靴で踏み潰す。
ぐちゃと不快な音を立てたが、うごめいているのは変わらない。
「スキル使用者の細胞を消し炭にしてしまえば、さすがに停止するかもしれないな」
もう一度燃やそうと思ったのだが、正人は止めることにした。肉片を二つ手に取るとそれぞれ別の袋に入れる。
安全な場所に移動してから魔力視で観察すれば、スキルを覚えられるのではないか。そう思っての行動だ。地面にはまだいくつもの肉片が残っているので、離れてから『ファイヤーボール』で辺り一面を焼却する。
これで辰巳の肉体は消し炭となった。
袋に入った肉片がどのような動きをするかはわからないが、しばらくは復活できないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます