第279話 さすが日本最強探索者ッ!

 塔の高さは十メートルほど。窓はない。円柱型で先端はとがっている。


「ボゥドは、あそこに行けと言っていたのか?」


 ナイフを両手に持ち、正人は警戒を強める。


 塔の付近に青いマーカーが一つあるからだ。計画に参加している探索者や別同部隊は集団で行動しているのであり得ない。住民だとしても何の監視もなく一人で山の頂上に放置されるとも考えにくく、探索協会側が把握していない第三者がいるかもしれないからだ。


 さらに塔の中はジャミングされているのか、『索敵』スキルが反応しない。近づくべきか悩んでいると地面に丸い影が落ちてることに気づく。


 ハッとして顔を上げると空中に小さな目玉が浮いている。スキルで作られた存在だったので『索敵』でとらえきれなかったのだ。


 どのような効果があるかわからないが、放置しておいて良い存在とは思えない。


 正人は近くに落ちている石を拾うと、


 ――投擲。


 スキルを使って投げ、目玉を破壊した。


 ――隠密。


 さらに存在感を限りなく薄くすると、即座に背を低くして山を登る。


 見つかってしまったので撤退ではなく偵察を選んだのだ。


 頂上に着くと腕を組んでいる男性が見えた。齢は二十半ばぐらいだ。坊主頭で顔の半分ほど入れ墨が入っている。片目は猛獣のようなひっかき傷があって、黒い眼帯を着けている。筋肉は非常に盛り上がっていてボディビルダーのような体型で、ユーリからは辰巳と呼ばれていた。両手にはサブマシンガンがあり、モンスターよりも人間を想定して警戒しているように思えた。


「よう。そこにいるんだろう。ずっと待ってたんだから、さっさと姿を現せよ」


 スキルで作られた目玉によって、正人の存在に気づいていたため『隠密』スキルの効果は大幅に減り、近くにいることがバレてしまっていた。


「お前、ラオキア教団の信者か?」


 スキルを解除しながら正人が確かめるように質問をした。


 人類の敵で鬼族と関わりがありそうな存在など、ラオキア教団しかいない。


 信者であれば鬼族と手を組んで侵略を手伝う可能性もあるだろう。


「正解だ。ちなみに俺を殺せば塔の中に入れるぞ。さぁ! 戦おう!」


 両手を広げながら辰巳が宣言した。


 本来は好戦的な性格ではないが、『精神支配』によって歪められてしまっている。今は正人殺害の命令を実行するべく、戦いを楽しもうとしていた。


「どうしてここで塔を守っている? 何故、私が来るとわかっていた?」


「教えてやらんッ!! 自分で調べるんだな!」


 両手に持つサブマシンガンを正人に向けるとトリガーを引いた。


 いくつもの銃弾がばらまかれる。


 ――障壁。


 周囲に薄い膜が出現すると攻撃を防ぐ。


 一般的に普及している銃だと防御系スキルは突破できない。撃ち続けていても弾が減るだけで効果はなかった。


「さすが日本最強探索者ッ! この程度じゃ傷をつけることすら出来ないか!!」


 撃ち終わったサブマシンガンを投げ捨てると辰巳はスキルを使う。


 ――武器創造。


 鬼族に協力する見返りとして手に入れたスキルだ。使用者の魔力を使って武器を作る効果がある。特殊な効果は付与できないが、瞬時に出てくるのは驚異的であった。


 辰巳は両手で二メートル以上もあるハンマーを持つと、全身の筋肉をバネのように使って横に振るう。『障壁』に衝突してヒビが入った。銃撃よりも威力が高いのだ。このままであれば破壊されてしまうだろう。


 ――エネルギーボルト。


 周囲に数十もの光の矢を浮かべる。


 まだ放たない。


「降参すれば命は助けると約束します。人類同士の無駄な戦いは止めませんか?」


 モンスターに侵略されているいま力を合わせて対抗しなければいけない。強力なスキルを持つ者であればなおさらだ。


 ラオキア信者でも話せばわかってくれるかもしれないと、僅かな希望をもって説得しようとしたのだが……。


「断る! 我々を虐げてきた世界は一度破滅すれば良いのだッ!」


 話を聞くことはなかった。


 むしろ周囲に見下され、冷たい対応をされ続けてきたことを思い出して怒りが増している。


 持っている者は持たざる者の気持ちが分からない。


 だから努力不足だと言って、生活に困窮している人間よりもペットをかわいがる。


 であれば、我々だってモンスターに力を貸して何が悪い。覆せない格差があるなら、前提となる社会をすべてぶち壊して同じ目に合わせてやる。


 辰巳は『精神支配』により己のほの暗い感情が異常ともいえるほど高まっていることを感じながらも、それが心地良いと思っていた。


「うおりゃぁぁあああああ!!」


 顔が赤くなるほど力を込めると『障壁』のヒビが大きくなる。正人は魔力で修復しながら『エネルギーボルト』を放つ。


 全身に光の矢が突き刺さる。一部は首や頭にも当たっていて即死してもおかしくはないのだが、辰巳は平然としている。


 ハンマーの動きは止まらず、修復速度を上回るほどの威力を発揮して『障壁』を破壊してしまった。


 ――短距離瞬間移動。


 即座に辰巳の背後に回ると、正人はナイフを持つ。


 ――短剣術。

 ――怪力。

 ――身体能力強化。


 レベル四となった上にスキルを重ねが消したこともあって、横に振るうだけで首をはねた。


 頭が宙に舞って地面に落ちる。


 完全勝利したと思っていた。

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