第272話 モットタノシマセロ!
ボゥドの体から煙のようなオーラ状のものが出ている。
目でもハッキリと見えるほどで、正人は敵が特殊なスキルを使って能力を大きく上げたと予想したが、上昇幅が恐ろしく高いことに気づけていない。『高速思考』のスキルによって処理能力が上がり、高速で動く物体も目で追えるようになっているはずなのだが、ボゥドを見失ってしまった。
積み重ねてきた戦闘経験によって鋭くなった直感にしたがい、正人は横に飛ぶ。その直後、上空から鬼が落下して金棒をコンクリートの地面に叩きつける。蜘蛛の巣状のヒビが入り、地面が陥没した。
――小刀:氷。
『氷結結界』によって氷が作りやすい状況もあって『エネルギーボルト』よりも早くスキルが発動した。数十の小刀がボゥドに殺到するものの、金棒の一振りですべて破壊されてしまう。
「イイゾ! モットタノシマセロ!」
戦う理由なんて忘れている。
純粋に正人と力比べを楽しんでいるボゥドは、瞬間移動と見間違える速度で移動して金棒を振り回す。
――障壁。
――自動浮遊盾。
二つの防御系スキルを同時発動させたが、一撃で破壊されてしまい正人の脇腹に当たる。レベルアップとスキルによって強化されている肉体ではあるが骨は粉々に砕け、内臓は破壊される。『苦痛耐性』によって意識を失うほどの痛みは感じていない。
吹き飛ばされながらも『復元』を使って元の状態に戻す。
跳躍した鬼が金棒を振り上げている。
また落下と同時に攻撃しようとしているのだ。
――短距離瞬間移動。
正人はボゥドの背後に回った。
――ファイヤーボール。
空中で動けない相手に向けて火球を放つ。背中に当たって爆発がおこり両者は吹き飛ぶ。
運悪く正人は海に落ちそうだったので、とっさの判断で視界に入ったボートへ『短距離瞬間移動』で着地する。
肌の火傷は『自己回復』で治し、うつ伏せに倒れているボゥドを見た。背中が少し赤くなる程度でたいした負傷はしていない。
とっさに使ったので威力は低めではあったが、それでもダメージを与えられなかったのだ。その事実に危機感を覚え、頬を引きずった。
「みんなを先に行かせて良かった」
特に新人探索者がいたら被害は大きかっただろう。最低でも数十人、最悪は半数以上が死んでいたはずだ。
一対一の戦いに持ち込めたことは最善の選択ではあったが、強化された敵にどうやって勝つか、といった問いに答えは出ていない。
何か武器が置かれてないかと船内を見渡す。予備の弾丸はあったが銃はない。
ないよりはマシだと、とっさに銃弾を両手でつかみポケットにしまう。視界が暗くなった。即座に『短距離瞬間移動』で上陸すると、先ほどまでいたボートが投擲された軽トラックと衝突して飛散した。
息をつく暇がない。
体力の消費が激しく、また『高速思考』で脳を酷使しているため頭痛がひどい。そろそろ決着をつけなければ体の方が持たないだろう。『鬼人』スキルの終了時間が近づいているボゥドも同じ考えをしており、両者とも次の攻撃で終わらせると覚悟を決める。
お互いの距離は三十メートルほど。『鬼人』で強化された今、ボゥドの間合いといっても過言ではない。
「イクゾ」
尖った歯をむき出しにして笑いながら、ボゥドが飛び出した。前方に氷の壁が数枚出現するが、速度を落とすことなく次々と突き破っていく。『自動浮遊盾』を重ねて前に出しても同じ結果だ。意味はない。
――毒霧。
正人の目の前に紫色の煙が放出された。肌だけでなく筋肉や骨まで溶かしてしまう非常に強い酸性を持っているのだが、金棒の一振りで吹き消されてしまって効果はなかった。
しかし、腕を振り切っているため体はがら空きである。
正人はボゥドの足下を氷で固めてから、ボートで手に入れた銃弾を握るとスキルを発動させる。
――投擲:魔力爆発。
一つ一つにスキル効果が付与された銃弾を全力で投げつける。『怪力』『身体能力強化』によって勢いを増しており、全弾命中した。爆発すると肌は吹き飛び、筋肉がちぎれる。さらに『投擲:魔力爆発』を付与したナイフが一本、腹に刺さる。
次の瞬間、爆発した。
内部から破壊されたボゥドの上半身が吹き飛んだ。下半身からは噴水のように血を吹き出していて、しばらくすると力なく倒れる。
近くにいた正人も当然のように爆風に巻き込まれていたが、『復元』を連続使用することによって外傷はない。ただし防具はすべて吹き飛び、服もボロボロだ。
膨大な魔力も半分以下になっていて、同じレベルの敵が出現したら勝てるような状況ではないだろう。
フラつきながらも正人はボゥドの上半身が落ちた場所に移動する。
「オレハ、ゲンチジンニマケタノカ」
強い生命力を持っているためまだ生きているが、鬼人の効果は切れていて衰弱している。
もうまもなく命は尽きるだろう。
「お前たちはなぜ地球を狙っている?」
世田谷区に発生したダンジョンで真実を知ったときから、正人が疑問に思っていたことだ。
侵略という目的を設定した理由。それが知りたかった。
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