第266話 耳を塞げッ!!
「よっしゃー! 後に続け!」
様子を見ていた探索者たちは、人類側が優勢だと確信を持ったので外に出てきた。上に向けてアサルトライフルを構える。
生き残ったハーピーは上空を旋回しているので、なかなか狙いが定まらない。訓練された兵であれば撃ち落とせただろうが、しょせんは寄せ集めの集団だ。銃どころか剣すらろくに振ったことのない新人の探索者では当てられない。
トリガーを引いて銃弾をばら撒いても、命中率は二十パーセントほど。
半数以上のハーピーは生き残り、口を大きく開いた。
「耳を塞げッ!!」
警告するのと同時に正人は手で耳を塞いだ。他の探索者たちは何もせずに撃ち続けている。
無防備な姿をさらしていた。
「――――――!!」
ハーピーたちが一斉に声を出した。
毒や洗脳ではないため『状態異常耐性』のスキルは効果を発揮しない。
正人は高レベルでかつ耳を塞いでていたこともあり少し頭が痛む程度で済んだが、他の探索者らはアサルトライフルを手放してのたうち回っている。中には耳から血を流している人もいるほどだ。
銃撃が止んだことでハーピーは自由に動けるようになった。
声を出しながら急降下してくる。
動けるのは正人だけだが、集中力を乱されてしまってスキルの発動に時間がかかる。全員を助ける時間はなさそうだ。
それでも諦めることなく『エネルギーボルト』を放ち続けて、近づいてくるハーピーを落としていく。しっかりと狙いを定めることはできないので避けられることも多く、生き残りが甲板にまでたどり着いてしまった。倒れている探索者を足で掴む。
鷹のように鋭い足の爪が皮膚を突き破って肉に食い込む。
叫びたいが頭痛に意識がもうろうとしているので、それどころではない。抵抗なんて出来ずに体が持ち上がる。
「――――!?」
ハーピーの腕に銃弾がたたき込まれて穴が空いた。続いて胸、頭にも同じ傷ができて血が流れるのと同時に倒れる。
危険を感じて上空に逃げようとする他のハーピーにも次々と銃弾が当たって死んでいく。
「たりゃぁぁぁぁぁっ!!」
頭にタオルを巻いて耳を塞いでいるヒナタが、叫びながら銃を撃っている。離れたところで冷夏、里香も同じように攻撃していた。
彼女たちに銃器は支給されていなかったが、倒れた探索者たちのものを使っているのだ。弾が切れても他のを拾えば良いので、攻撃はしばらく続けられるだろう。
加勢によってハーピーの声が弱まった。
――水弾。
余裕が出た正人は、水を使って攻撃することを選ぶ。ハーピーに向けて放たれた。
頭や腹に直撃すれば強い衝撃を受けて落ちていき、また腕にかすれば羽が濡れて重くなり、動きが鈍くなる。その隙に里香たちが銃弾を撃ち込んで、倒すといった連携をして順調に数を減らしていく。
しばらくして勝てないと判断したようで、生き残った数体のハーピーは逃げ去った。
勝利した喜びを感じる時間なんてなく、すぐさま正人は倒れている探索者の状態を確認していく。声でやられていた人はしばらくすれば元に戻るだろうが、足の爪によって負傷した数名は放置していると危険だ。
「いてぇぇ……早く誰か助けてくれ……もう戦えない。家に帰りてぇ……」
涙を流しながら正人に助けを求めている。怯えているような表情を浮かべており、この男が鬼族との戦いに役立たないことが予想される。
助ける必要があるのか。
そんな冷たい考えが脳裏によぎっても不思議ではなかった。
「ケガを治したら鬼族と戦ってもらいますよ。それでも治療します?」
話しかけられた探索者は正人の顔を見たが、返事はしなかった。
助けてもらっても次の戦いで死ぬかもしれない。そんな考えが脳裏をよぎったのだ。
探索協会からは後ろで銃を撃てばいいと説明されていたため、覚悟なんて何もない。まさか命が危ないなんて思いもしなかったのだ。ケガをして戦意はなくなり心が折れてしまった男にとって、鬼族と戦う覚悟なんて吹き飛んでいた。
「自分で、なんとかする……」
血を流しながら倒れていた探索者は立ち上がった。
フラフラと歩きながら船室の中に入っていく。止血しようとしたのだ。治療室には医者が待機しているため、無事にたどり着けば命は助かるかもしれない。
「歩ける元気はあったんですね」
呆れたような声を出したのは里香だ。手には先ほど使っていたアサルトライフルがある。撫でながら光沢する金属を見ていた。
「武器の性能がいいのに使う人があれじゃ……」
勝てる戦いも負けてしまう。そう言いかけて口を止めた。
大事の前だからこそ不吉なことを言うべきではないと彼女は思い直したのだ。
「私たちがやることは変わらない。戦い、負けそうになったら撤退だよ」
安心させるために正人は里香の肩に手を置いた。
「そうですね」
周囲に惑わされず集中する。その結果が計画の失敗であっても四人が生き残っていれば挽回するチャンスはある。
守るための戦いが続けられるのだ。
最良の結果を求めつつ最悪を回避する。そのバランス感覚が正人たちに求められていた。
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