第265話 健康美って感じしなかった!?

「彼女には裏がある、そう言いたいんですね」


「本当にあるかどうかはわかりませんが、油断してはいけない相手ですね。それだけは断言できます」


 仕事に戻るため、谷口は軽く頭を下げてから去って行った。


 カジノルームに一人残った正人は先ほどの話を振り返る。


(山田の回りに不審死が多いという裏付けは取れないが、探索協会の職員が言うなら間違いないだろう)


 今この場で調べようはないが東京に戻れば事実確認は容易に出来るので、この場で嘘を言うメリットが思い浮かばなかった。正人は谷口の話は真実だと思うことにした。


 現在判明している一般的なスキルでも使い方次第では、犯人不明の死体を作り出すことは可能である。


 手段なんていくらでもあるので目的や理由の方が重要だが、正人は彼女のことは何も知らないと言っていいほど情報がない。想像するにも限界があった。


(不審死したのは山田の利益を侵害するような人たちばかりだった。今の私たちは協力関係にあるので、少なくとも神津島奪還計画を進めている間は安全だろう)


 若くして出世したのだから向上心は強いだろうと予想し、今回は失敗しないように動くはずだと考えたのだ。


 方針は決まった。残るは谷口から聞いた話を里香たちに伝えるか、という悩みである。


(危険人物の情報は共有するべきであるが、山田が自分に近づくだけで感情的になってしまうので、不審死の事件を知ってしまえばさらに悪化するかもしれない。神津島奪還計画に支障が出そうになれば、こちらに牙をむく可能性は捨てきれないので黙っておくべきだ。しかし、何も知らず山田の機嫌を損ねるような発言をする危険もあるから――)


 思考を進めていると船が大きく揺れた。


 続いて天上に取り付けられたスピーカーから山田の声が響き渡る。


「現在、数十に及ぶ八咫烏の襲撃を受けています。神宮正人のパーティは可及的速やかに排除するように」


 探索者が四百人もいるのに戦うと指名されたのは、たった四人。むちゃくちゃな命令ではあるが、新人が参戦して場をかき乱されるよりかはマシだろう。


 緊急事態なのですぐに仲間と合流したい。正人は立ち上がると即座にスキルを使う。


 ――転移。


 視界がカジノルームから里香に割り当てられた個室に変わった。三人で楽しく会話していると思って選んだ場所だったのだが……。


「え、正人……さん?」


 目の前に下着姿の里香、冷夏、ヒナタがいた。


 外に出ないことをいいことに寝巻きのまま過ごしていたので、戦闘用の服や防具を身につけようと着替えをしていたのだ。


 里香は薄いピンクで一部がシースルーで可愛いがセクシーな下着、冷夏は黒く薔薇の刺繍がある大人っぽい下着、ヒナタはグレーのスポーツタイプの下着。三人と個性が出ていて非常に良い、などと一瞬で考えてしまい、良くないと思った正人は瞼を閉じる。


「ご、ごめん! まさか着替えているとは! ごめん!!」


 モンスターに襲撃を受けているからと、安易な行動をしてしまったと反省していた。


 土下座する勢いで正人は頭を下げる。


 まだ恥ずかしさの残っている里香と冷夏だが、気になっている異性が相手だったので嫌な気持ちはない。むしろ関係を進めるきっかけになるかもしれないと、考えてしまうほどである。


「許してあげてもいいのですが、条件があります。感想を教えてください」


 と、衝撃的な発言をしたのは里香だ。隣にいる冷夏は驚いた顔をしつつも、答えが気になってしまうので否定的な言葉は出さない。


「私も知りたいなーーっ! どう? 健康美って感じしなかった!?」


 ヒナタが話に乗った。正人の方を掴んで逃がさないようにしている。里香や冷夏も近づいていて、今目を開けば素晴らしい光景が広がっていることだろう。


 男としての本能が「今だ! いけ!」と全力で後押ししてくる。理性が必死に抵抗するが分は悪い。先ほど見た光景、そして彼女たちの息づかいが強い刺激となっているからである。


 しっかりと閉じていた瞼が少しだけあがる。視界はぼやけているが、肌色の多い三人の姿が見えた。


 楽園まであと少しだ。


「きゃっ!」


 船が大きく揺れた。立っていられずに座り込んでしまう。


 ようやく正人はモンスターに襲われていることを思い出した。欲望に負けている時間なんてない。鬼族と戦う前に計画が失敗してしまったら恥ずかしいどころの話ではない。


「先に行っているから!」


 再び『転移』のスキルを使って甲板の上に立つ。酸性の液体に濡れて、一部溶けかけている箇所があった。


 見上げると数十はいるだろう八咫烏とハーピーの姿を捕らえる。


 目が合った。


 八咫烏が正人を攻撃しようと突進してくる。


 ――エネルギーボルト。


 周囲に数百もの光の矢が浮かぶと、一斉に放たれた。


 八咫烏に次々と刺さるが全滅はさせれない。半分ほどは生き残り、正人に向かう。


 ——ファイヤーボール。


 続いて火の玉が数十放つ。避けようとする八咫烏を追跡しては衝突、小規模な爆発を起こしていく。膨大な魔力にものをいわせた攻撃によって、船に攻撃をしかけていた敵は粉々に砕けて海に落ちていく。


 残ったのはハーピーのみだ。

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