第251話 バカ! それを先に言え!
洞窟の中を進んでいると周囲が明るくなった。天井が発光しているのだ。普通ではあり得ない光景ではあるが、ダンジョン内ということであれば納得がいく。
しばらく歩いていると両開きのドアが見えてきた。既に開いていて中の様子が分かる。
「様子を見るぞ」
ユーリたちは道の端によって、姿を隠しながら覗いてみる。
ドアの奥にある部屋は真っ白だ。床や壁、天井は光沢があるほど磨かれて自ら光を発している。中心には台座があって空中には洞窟の地図が浮かんで表示されていた。
ここは正人が発見したダンジョンの最奥にある場所と同じだ。違いがあるとしたら、管理者として呼ばれた侵略者が外で暴れていることだろう。そのため自壊することなく現在も存在を続けている。
「美都はここで待ってろ。俺が中を確認してくる」
「気をつけるのよ~」
「お、おう」
優しい言葉を使われて、他人を気づかうなんてことができたんだな、なんて感想をユーリは持った。もちろん、そんなこと口には出さない。機嫌を損ね、『強奪』スキルを使われて殺されたら、たまったものではないから。
――透明化。
スキルを使うとユーリの姿が消える。これで機械やスキルでも察知できない。
ドアを通り抜けて白い部屋に入る。左右を見るが何も見当たらない。台座に近づいて地図を見る。分岐が存在しない通路と大きな部屋が一つ。さらに奥に小部屋が表示されていた。
(仮にこの地図だとしたら、もう一つ部屋があるぞ)
悩んでいたら鬼のモンスターが戻ってくるかもしれない。台座の調査を後回しにすると決めたユーリは部屋の奥に行く。
真っ白い壁しかなく、ドアノブのようなものは見当たらない。
ダンジョンでは隠し部屋なるものもあったので、探し方はよく知っている。コンコンとノックしながら反響の違う場所を探していくと、すぐに軽い音がする箇所を発見した。足で蹴ってみると壁に隙間ができる。さらにもう一度強く蹴りつけると、一部が外れて人が通り抜けられるほどの穴が空く。
罠はない。小部屋も周囲が光っているため、照明は不要だ。
ユーリは慎重に歩いて中に入ろうとする。
「ね~。ここら辺にいるの?」
声がしたので後ろを向くと美都がいた。
待っていろとの指示を無視して入ってきたのだ。文句を言おうと口を開きかける。
「あの鬼が戻ってきそうだから、隠れたいんだけど~」
「バカ! それを先に言え!」
スキルを解除するとユーリは姿を現す。驚いている美都の手を取ると小部屋に入り、外した壁を取り付ける。
綺麗にハマると、つなぎ目が一切見えなくなった。
「ふぅ。これで一安心か」
慌てて入ったので小部屋の中は確認していない。すぐにでも周囲を見ようとしたが、手を引っ張られて中断する。
「いつまで手をつないでるつもりなのかなぁ~」
まだ危機を脱したわけではないのに、ニヤニヤとからかうように笑っている。ユーリは苛立ちを感じた。ただ手を離すだけでは面白くない。やり返してやろうと行動に出る。
「肌がつるつるしてて柔らかいし、爪は光沢があって丁寧に手入れされている。意外と美都の手は綺麗なんだな」
「なっ、何を言ってるの!?」
褒められていない美都は顔を真っ赤にさせながら手を引こうとするが、強く握られてしまって離れない。逆に体を引き寄せられて抱きしめられてしまった。
「数々の探索者を殺し、スキルを奪った女とは思えないほど綺麗な顔だ」
「それって、嫌み?」
「思ったことを言葉にしただけだ。他意はない。素直に受け取っておけ」
美都の体を突き放すと、ユーリは小部屋全体を眺める。
中心には魔方陣があり、奥には横幅三メートル近くある細長い箱があった。壁には天井にまで届く本棚があって、びっしりと本が入れられている。
ユーリは魔方陣を踏まないように歩き、隅に置かれた箱の前に立つ。横幅黒い金属で作られていて触るとひんやりと冷たかった。箱を僅かに持ち上げると開く。鍵はかかってないようだ。
隙間から中を覗いてみるが、罠らしきものは見当たらない。
――自動浮遊盾。
川戸の遺品ともいえるスキルを使うと、周囲に半透明の盾が浮かんだ。仮に攻撃系の罠があったとしても、防いでくれるだろう。
箱の蓋を持ち上げる。
中には剣や槍、斧といった武器が入っていた。普通の金属で作られたとは思えない。圧力を感じる。
一つ一つ箱から武器を取り出していると、真っ黒な短槍を見つけた。
「なんかヤバそうな感じがするわね~」
後ろから覗き込むようにして見ていた美都が言った通り、触っているだけでも精神が何かに侵食されている感触がある。まるで生き物の様だとユーリは感じていた。
「だが使えそうだ。これはもらっておこう」
黒い短槍を持ったままユーリは立ち上がった。
軽く振ってみると手に馴染む。体の奥から力が湧き出るのを感じていて、今なら実力以上の力が発揮できそうだ。
「使用者の能力を底上げする武器、か」
「え? 何か言った?」
「何でもない。他も探すぞ」
説明するのが面倒だと感じたユーリは、美都の疑問には答えずに本棚の前に移動した。
背表紙には未知なる言語でタイトルが書かれている。どれも読めそうにないと思っていたユーリであったが、一つだけ日本語で書かれたものがあった。
タイトルは現地語練習帳。
学習目的に作られている本だ。たいしたことは書いてないだろうが、ユーリは気になったので手に取って中を見ることにした。
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