第250話 ゲンチジン、ヨワイ!
洞窟を出ると弾切れになった。予備の弾倉もない。サブマシンガンを投げ捨てると、美都を探す。走り続けて遠くまで逃げ出していたと思っていたのだが、電動バイクにまたがってユーリを待っていた。
「運転おねがいできる~?」
仲間は見捨てるタイプだと思っていたため、ユーリは驚きのあまりすぐには行動できなかった。
「私、運転できないんだけど」
「わかってる。任せろ!」
戸惑ったのは一瞬。すぐにユーリは動き出して美都の前に座ると、ギアを入れてバイクを走らせる。後ろを見ると黒いプレートアーマーを来た鬼が出てきた。棍棒を振り上げている。
――投擲術。
とっさにハンドルを傾けて棍棒を回避したが、バランスを崩して倒れてしまう。地面を転がりながらもユーリは美都を抱きしめて守っていた。
追撃を警戒してすぐさま立ち上がったユーリは鬼を見る。
異端審問部隊と戦いが始まっていた。
先ほど投擲した棍棒がユーリを追跡していた一人に当たり、死亡したのだ。人ではない見た目をしていることもあって、モンスターの襲撃があったと判断。先に邪魔者を排除しようとして戦闘しているのである。
「いたたた」
目を回していた美都は、ユーリの腕に抱かれながら戦場を見る。
「何がどうなっているの~?」
「わからん。が、チャンスだ」
争っている間に逃げようと電動バイクにまたがったが、先ほどの転倒で壊れてしまい動かない。エンジンが黙ったままなのだ。
舌打ちをしたユーリは自分たちの足で逃げようとする。
「元仲間を見殺しにするつもりか?」
短槍で頭を突き刺したはずの辰巳が近くに立っていた。
「マジで不死身なのか?」
「そんなことはない。殺せば死ぬさ」
「どうやって殺せば良いんだよ。首を切断して焼けば良いのか?」
「やってみなければわからん」
死んだことないんだから分かるはずないだろ、なんて言いたそうな顔だった。
辰巳はユーリから離れると、死体に付いてる棍棒を持ち上げる。軽く二度ほど振って感触を確かめてから肩に乗せた。
「ゲンチジン、ヨワイ!」
異端審問部隊を素手で殴り殺している鬼が笑っていた。無双ゲームをプレイしているような爽快感を覚えており、最初の目的だったユーリのことは忘れてしまっている。
「言葉を使うモンスターか。生け捕りにできるほど弱くはなさそうだ」
相手の強さを冷静に分析している辰巳は、自分であれば勝算はあると計算した。
「大司教様の敵になるような存在は必ず殺す。アレを倒したら次はユーリだ」
棍棒を持ったまま飛び出した。異端審問部隊の生き残り五名とともに、鬼との戦いを始める。
素手で鬼が辰巳の胸を殴りつけるが『硬質化』のスキルによって、ダメージは受けない。前回の失敗を繰り返さないよう、頭だけは攻撃を受けないよう捨て身に近い攻撃をする。
棍棒が鬼のプレートアーマーに当たった。その瞬間、熱によって融解して肌まで到達する。
さすがの鬼も肌が焦げてしまえば無事では済まない。大きく跳躍して木の枝に乗ると距離を取った。
「オマエ、オレヲキズツケタ、ユルサナイ」
「それはこっちのセリフだ。仲間を殺されたんだ。生きて帰れると思うなよ」
棍棒を横に振って鬼が乗っている木の幹を叩く。大きく揺れて接触面から燃え上がる。
ようやく辰巳を敵だと認識した鬼はスキルを使う。
――鬼人。
種族特有のスキルだ。身体能力が何倍にも上がる。レベル換算で二は上昇する非常に強力な能力だ。当然、デメリットもある。効果時間は数分しかなく、使い終わった後は脱力感に襲われて通常よりも弱くなってしまう。
だが鬼にとって、数分もあれば周囲の敵を殺し尽くせるとの目算があった。
「シネ」
木から飛び降りた鬼は辰巳と接近戦を再開する。異端審問部隊も助けに入るが、すぐに殴り殺されてしまい、十秒も経たずに全滅した。
「逃げないの~? 今なら壊れてない電動バイクも手に入ると思うわよ」
近くにはユーリを追跡するため、異端審問部隊の乗っていたバイクが転がっていた。
戦っている間に逃走は可能だが、状況が変わった今は逃走よりも調査を選ぶ。
「あのモンスターは協会の記録に残っていないタイプだ。首に付けた機械といい、普通じゃない。辰巳なら負けはしないだろうから、戦っている間に情報を集めておきたい。洞窟の方へ行くぞ」
「は~い」
「逃げなくて良いのか?」
一緒に行動しようとする美都に違和感を持ったユーリは質問したが、ウィンクをされるだけで答えてはもらえなかった。
女心はよく分からない。
小さくため息を吐いてから戦いの場から去ると洞窟へ入っていく。
途中で川戸の死体があったので黙祷をしてから、奥に進んでいくと急に雰囲気が変わる。ポケットからスマホを取り出すと電源すら付かない。
「未発見のダンジョンか?」
「みたいね~」
逃げ込んだ先の洞窟がダンジョンだったとして、規模はどのぐらいなのだろうか。なぜ人語を話せるモンスターが外に出てきたのか。疑問は浮かぶが答えは出ない。
きっとこの奥にあるのだろう。
ユーリたちはそう、直感していた。
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