第252話 殺して死ぬようなヤツなら負けているわね
地球上にある国家や民族、風習、言語などの調査内容が記載されいてる。世界中の情報がまとめられているわけでなく、ダンジョンが発生している国々のみに限定されていた。ユーリはすぐにその事実に気づき、疑問を抱く。
(なぜモンスターが地球の情報を集めている? そもそも整理、分析する知能なんて持っていたのか?)
疑問は浮かぶが答えは出ない。決定的な情報が足りないのだ。
他に何かないかと、期待しながらページをめくる。
今度は別の内容に変わっている。文章の多くが未知の言語で書かれいて理解しにくいが、侵食度合い、侵略、移住などと一部の文字は日本語だったので読めた。あまり良い意味で使われてないだろうと思いながら、ユーリは再びページをめくると、今度は未知の言語だけでの文章がびっしりと書かれている。
その後は同じように未知の言語だけで書かれたページばかりだ。
途中で面倒になって、途中から母国語に切り替えたように感じられた。
最後まで読み進めるとパタンと本を閉じた。
「何が書いてあったの~?」
武器が入っている箱に腰掛けた美都が聞いた。
「わからん。だが予想はできる」
「何?」
「恐らくだが、モンスターどもはこの世界に移り住みたいらしい」
断片的な情報からユーリは正しい結論にたどり着いた。
なぜ日本が狙われているのか。これもある程度予想が付いている。モンスターが地上に出てしまい混乱している今、侵略者に対応する戦力が残ってないと思われているからだ。
このユーリの考え自体は間違いではないのだが、狙われている地域が一つだけとは限らない。
ダンジョンを使って魔石の産業を作らせて慎重に準備を進めていたのだから、作戦が複数あると思った方が自然だろう。
「モンスターが移住? 冗談……じゃなさそうね……。私にも読ませて」
驚きのあまり間延びした声を止めた美都は、本を奪い取ると読み進めていく。
ページをめくる音だけが部屋に響き渡る。
時間ができたユーリは部屋を漁っていくが、読めない本、未知の道具、謎の魔方陣といった具合に使用用途が分からないものばかりだ。うかつに触ることもできず、床に座り込んでしまった。
時間を持て余したユーリは、本を読んでいる美都に話かける。
「辰巳はあれに勝てたと思うか?」
「殺して死ぬようなヤツなら負けているわね」
「なら、勝ちはしないが負けてもいないだろうな」
不死身の二つ名を持つほど強力な再生スキルを持っている上に、防御に特化した『硬質化』まで覚えているのだ。世界で一番しぶとい男といっても過言ではない。正人ですら殺そうと思っても殺せない相手だろう。
「その生命力を使って鬼を倒してくれると、帰りが楽になるから嬉しいわね」
出入り口が一つしかないため、洞窟のダンジョンを出るときに鉢合わせするかもしれない。
驚異的な戦闘力をもっていたので、短槍を手に入れたユーリでも苦戦は必至。負けてしまう可能性の方が高いだろう。
あわよくば辰巳と相打ちになっていて欲しいと思っていたのだが、壁越しから聞こえる足音によって希望は砕けてしまう。
人間よりも重い音がする。二人は鬼のモンスターが戻ってきたと察した。
「残念だったな。戦うしかなさそうだ」
静かに立ち上がったユーリは短槍を構えると、隠しドアの方を見る。
美都は後ろに下がって隠れようとするが、誤って部屋の中心にある魔方陣を踏んでしまった。
「あっ」
失敗に気づいて声を上げる。ユーリは黙れと注意しようとして後ろを見た。
魔方陣が光っている。
慌てた美都は助けを求めようとしてとを伸ばすが、多くの命を奪ってきた自分が生き残ろうとするなんて許されないと思い、降ろそうとする。
「一人にはさせねぇよ」
光る魔方陣の中に入ったユーリは、手を取ると抱き寄せる。
周囲には半透明の青い盾が浮かんでいて、何らかの攻撃が発生したら守れるようにしたのだ。
「逃げないの?」
「仲間は見捨てない」
「それで死んだとしても?」
「もちろんだ」
「ばっかじゃないの」
言葉とは反対に美都は微笑んでいた。川戸を『強奪』スキルで殺したばかりだというのに、それでも仲間として認め、助けようとする姿に嬉しさを感じたからである。
復讐によって破滅の道を歩いている彼の隣を歩き続けるのも悪くはない。
そう思えるぐらい、今の人生を前向きに捉えていた。
「ダレカイルノカ!?」
部屋の外から鬼のモンスターの声がした。
魔方陣の光が強くなる。
「どうするの?」
「しるか。様子見だ」
隠しドアが開いた。
黒いプレートアーマーは破壊されて全身から血が流れている鬼のモンスターがユーリ達を見て、驚いている。武器は持っていない。辰巳に奪われたままだ。
「ニガサン!」
一歩足を踏み入れるのと同時に魔方陣が発動した。
部屋からユーリと美都の姿が消える。
転移して洞窟の外に出たのだ。
「クソッ!」
魔方陣の再起動には時間がかかる。転移した場所はわかるので、走って追いかけようとした鬼のモンスターが振り返る。
「よう。また会ったな」
「シンダンジャ……!?」
辰巳が棍棒で殴りつけた。不意を回避はできない。鬼のモンスターは吹き飛んで、隠し部屋の奥に入ってしまった。もうユーリたちを追跡するどころではない。殺したはずの男と戦うために立ち上がる。
殺し合いが再開されたのだった。
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