第234話 卵……?

 冷夏たちがナーガと戦っているとき、正人は蛇神と戦っていた。



 様々な効果がある邪眼を使ってくる苦しめてくるが、『スキル昇華』のおかげで各種耐性系のスキルを獲得していく。


 覚えた数は十近くあり、睡眠の魔眼に抵抗した際、


『状態異常耐性、心身に異常を引き起こす全てに耐性がある。自動発動』


 という強力なスキルを得る。これで正人は毒、石化、睡眠、麻痺、幻視、混乱などといった状態異常が無効化できるようになった。


 蛇神のメイン攻撃は邪眼であるため、正人の存在は天敵と評しても過言ではない。


 一緒に戦っていた宮沢愛、小鳥遊優は魔眼に耐えきれず、戦闘中だというのに寝てしまっている。


 状態異常が発生する度、二人へ『復元』のスキルを使って元に戻してきたが、これ以上の助けは無駄だ。蛇神との戦いに集中した方が良いだろう。


 正人は純白の羽を動かして空中へ浮かぶ。


 蛇神は顔を上げた。


 ――突撃。


 スキルを使い急降下する。


 直撃は危険だ。迎撃するにしても正人の周囲に浮かんでいる半透明の盾が邪魔をする。


 蛇神は柔軟な体をうねらせて回避することを選んだ。


 正人の攻撃は当たらず通り過ぎていく。再び急上昇しながら反転して再び狙いを定める。


「GYAAAA!!」


 ワイバーンが雄叫びを上げながら突っ込んできた。


 意識外から攻撃されてしまったが、使い手を守るために『自動浮遊盾』が防ぐ。ダメージは受けなかったが動きは止まってしまう。明確な隙だ。


 蛇神が口を大きく開き、水のブレスを吐いた。半透明の盾はワイバーンに使っているため動かせない。防御は不可能である。


 ――短距離瞬間移動。


 攻撃を断念すると、正人は屋上の上に移動した。目の前に蛇神の胴体がある。


 ――怪力。

 ――身体能力強化。

 ――大剣術。


 スキルを併用しながら、全力で大剣を横に振るう。


「うぉおおおおお!!」


 堅い鱗を叩き潰して体を半分まで切断する。すぐに回復が始まったので、さらに大きく一歩踏み、今度は逆方向から大剣を振るう。


 傷口が大きくなった。『毒霧』のスキルによって再生した箇所を溶かしていく。


 痛みによって蛇神は暴れていて正人は巻き込まれそうになるが、半透明の盾が守ってくれた。


 大剣を左手に持ち、右手でナイフを取り出す。


 ――投擲:爆発。


 スキルの効果が付与されたナイフを正人が投擲した。


 先ほど大剣でつけた傷に接触すると大爆発。目の前にいる正人は半透明の盾に守られているが、それでも爆風を完全には止めきれず、後ろに吹き飛ばされてしまう。


「何が起こったの?」


 激しい音と爆風によって眠らされていた宮沢愛、小鳥遊優が起き上がった。


 立ち上がると体が二つに分かれた蛇神の姿が目に入る。


 頭部から体の一部は屋上にあり、ビルに巻き付いていた体は地面に落ちている。


 蛇神の目は閉じていて邪眼の効果は切れており、地上にいる人たちは意識を取り戻すことまで成功していた。


「死んでいる?」

「いつのまに……」


 眠らされたときは死んだと思っていた二人は、逆に蛇神が倒れていることに驚愕していた。


 これができる存在は一人しかいない。


 首を左右に動かし討伐してくれた人を探す。


「いたたたた」


 瓦礫を押しのけて正人が立ち上がった。


『苦痛耐性』があるのでさほど痛みは感じていないが、思わず出てしまった言葉である。


 ケガをしたかもしれないと心配した小鳥遊優が駆けよって体を触る。


「痛いところはありますか?」

「回復スキルで治したのでもうありません」

「よかった」


 正人に対抗意識をぶつけてしまった宮沢愛は、腕を組みながら気まずそうに二人の様子を見ていた。


「状況を教えてもらえますか?」

「見ての通りです。なんとか体を切断させて倒しました。残りは空にいるワイバーンと、地上にいる人を襲っているナーガだけで――」


 死んだはずの蛇神の頭部から膨大な魔力を感じた。


 そういえば地上で繁殖したモンスターではないのに、何故か死体が残っている。


 あり得ない。まだ次がある。


 正人は直感に従って大剣を構えたのと同時に、蛇神の口から白い塊が飛び出した。


 大剣を振るって弾くと、屋上の上を転がって止まる。


「卵……?」


 宮沢愛の発言だが正人、小鳥遊優も同じ感想を抱いていた。


 楕円形でつるりと光沢のある表面だ。三人が動き出す前にピシリと音が鳴ってヒビが入る。


 ――短距離瞬間移動。


 危険を感じた正人は卵の前に移動すると大剣を振り下ろす。


 卵の殻は粉砕されたが途中で止まってしまった。


「FAKOSRHG」


 大剣がゆっくりと持ち上がっていく。レベル三、そして『怪力』『身体能力強化』を使っているのに力負けしているのだ。


 割れた卵から真っ白な腕が伸びてきた。刀身は五本の指で掴まれている。


「なにあれ……」


 全身真っ白で筋肉質な人型のモンスターが立ち上がった。


 頭部は蛇になっており、縦に長い瞳孔、細く長い舌が不気味だ。目を動かしていて左右を確認している。


「AWJOGGHEFA」


 特別な素材で作られた大剣が片手で握りつぶされてしまった。刀身の欠片が宙を舞う。


 頭部が蛇のモンスター――蛇人が正人を殴りつけようとしていた。

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