第235話 三人で戦った方が勝率も高いはずよ!
後ろに下がって蛇人の攻撃を回避。その後、蹴りも正人は受け流している。
「何か喋っていた?」
知能の高いモンスターと初めて出会った宮沢愛は、敵の体内から感じる魔力量が高いこともあり、恐れも抱いている。
「逃げましょう。勝てません!」
小鳥遊優の発言を宮沢愛は首を横に振って否定した。
異界化した場所のどこに行けば良いのだ。蛇人から逃げ切れたとしても、不気味な赤い荒野で野垂れ死ぬだけ。
まだ戦った方が生存率は高まるだろう。
「GAWOAW」
また蛇人が未知の言語を発した。
聞き取ろうと集中していた正人はスキルを覚える。
『多言語理解(聞き)、どんな言語も聞けば理解できる』
蛇人の言葉が急に理解できるようになった。
「――どれから食べようか。若い女は最後の楽しみにとっておいて、男からにするか?」
人間のことを食事にしか見ていないことに、正人は嫌悪感を持つ。
言葉が理解できたところで理解し合えるとは思えない。
また高度な知能を持っていることで、侵略者というワードが正人の脳内に浮かぶ。ダンジョンの最奥で出会った二足歩行の蟻――ヴァトールは話せる上に尖兵であった。
蛇人も同じではないか。そう感じたのである。
「決めた。女からにしよう」
言葉が理解できる正人だけが、次に何が起こるか理解できていた。
すぐに宮沢愛の前に立ち、蛇人が伸ばしてきた舌を半透明の盾で弾く。反撃として『エネルギーボルト』を放つが、横に飛ばれて回避されてしまう。
「活きが良いな。先に食べるか?」
長い舌を口からだらりと出しながら、蛇人は楽しそうに笑っていた。
「二人は逃げてください」
「私も戦える! 三人で戦った方が勝率も高いはずよ!」
「先ほどの攻撃に反応できない人がいても邪魔なだけです」
「うっ……」
痛いところを突かれて宮沢愛は黙ってしまう。
不意打ちとはいえ視界内にいたのに、舌の動きは察知できなかった。本格的な戦闘になれば即脱落してしまうのは少し考えればわかる。
それは小鳥遊優だって同じだ。元々は回復役として隼人のパーティに所属してたため、直接戦闘は苦手なのである。
ゴブリンやオーガなら一人でも勝てる実力はあるが、蛇人が相手となったら防御に専念しても一分持たないだろう。
「正人なら何とかなるの?」
「もちろんです」
「…………わかった。これを預けるから絶対に勝って」
正人は宮沢愛から槍を受け取った。
大剣を壊されてしまっていたため、新しい武器はありがたい。
「ありがとうございます」
槍を構えると正人は穂先を蛇人に向ける。
宮沢愛は純白の羽を生やし、小鳥遊優を抱きかかえてビルから飛び降りた。
「逃げるエサを追いかけるのも楽しそうだ」
一生油断してろ。
心の中で吐き捨てるように言った正人がスキルを使う。
――高速思考。
思考の速度は速まり動きがゆっくりと流れる。
――短距離瞬間移動。
蛇人の真後ろに回ると槍を突き出そうとすが、行動は予想されていた。振り向きながら柄を掴もうとして腕が伸びる。
大剣のように壊されたら困るため、正人は攻撃を中断すると決める。
――短距離瞬間移動。
五歩分、後ろに下がったるのと同時にスキルを取得した。
『槍術、槍の使い方が上手くなる』
正人は覚えたばかりのスキルを使うようなことはしない。蛇人の前では『槍術』程度なら、あってないようなものであるからだ。
それよりも、もっと効果的なスキルがある。
――氷結結界。
周囲の気温を下げて凍り付かせることもできる、隼人のユニークスキルだ。仲間にまで被害を与えてしまうため、一人になってようやく使えた。
「寒い……止めろッ!」
蛇人が正人に向かって走りだしたが動きは遅い。
狙い通り、急速な気温の低下に蛇人はついていけないのだ。
人の要素が入っているがベースになっているのは蛇である。周囲の環境温度に左右されてしまう変温動物と同じ性質をもっており、そのため寒さに弱い。本来の力は発揮できないだろう。
――短距離瞬間移動。
攻撃を避けるため距離を取った正人は、『氷結結界』の力を使って氷壁をいくつも作る。蛇人は囲まれてしまった。
逃げ出そうと殴りつけて氷壁を破壊するが、すぐに修復されてしまう。
「くそがぁぁぁ!」
先ほどまで見せていた余裕はなくなり、叫び声を上げるのと同時に口から炎を吐いた。
スキルで作られた氷壁が溶けていく。
周囲の気温が上がってきたので蛇人は動きやすくなったが、炎のブレスを出し終わるとすぐに気温は下がってしまう。
蛇人はボス級の魔力を持っているが、いくつものスキルを覚えて体内に膨大な魔力を持つようになった正人には勝てない。『氷結結界』であれば数日ほど維持することも可能であるため、我慢比べをしたところで最後に勝つ者は決まっている。
もう一度、炎のブレスを出した蛇人は体温を上げてから跳躍して、上空にいるワイバーンの足を掴む。
「お前は後回しだッ!」
相性の悪いスキルを覚えている正人ではなく、逃げる宮沢愛、小鳥遊優を追いかけると決めたのだ。
上位の存在に逆らえないワイバーンはビルから離れていく。
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